2017年11月14日

「これって今が交換ですか?」 人の振り見て我が振り直す篇

しばしば、かかと修理(リフト交換)で尋ねられる

「これって今が交換ですか?」

ですが、毎日使うものですが、いまいち分からない
靴修理のタイミング。

電化製品ですと、壊れた時がタイミングで、
洋服であれば、一日着たら、汚れたらが洗濯し時で…

日常的に使用するもので、定期的に(摩耗するのが前提として)
修理をしながら何年も使い続けるものって、
靴だけか?かなと思う次第であります。
(あとは自転車のタイヤぐらいかな、車やバイクは車検があるし)

しかし、その時期についてはどこかで教えてくれる訳ではないですし、
お知らせがくる訳でもない、取説が付いてくる訳でもない。
ましてや親から教わる分けでもない。
と云う事で、残るはネットという感じでしょうか。

ただ、ハーフソールの是非についてはビンテージスチールも合わせ
しばしばご案内しておりましたが、リフト交換となると
あまりご案内していなかったかと思います。
どちらかというと、もっと悪化した状態の悲しい事例などは
ありますが、通常の場合は?というのがなかったかなと。

というわけで、前置きが長くなりましたが、
今回は、通常のリフト交換時期や選択肢について
ご案内させて頂こうと思います。

ただし、婦人靴のピンヒールと紳士靴では全く異なりますので
今回は紳士靴に関してのご案内となります。
(婦人靴でも仕様が同じであれば同じです)

まずは、靴のかかと部分の構造について。
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画像は一般的なウェルテッド製法の靴になります。
左矢印からパーツ毎に
ウェルト   /本体と横方向で縫い付けられているパーツ
本底(ソール)/本底(ウェルトと縦方向で縫い付けられている)
積み上げ   /革やプラスチックや合成素材でできた部分
リフト    /擦り減った時に交換するパーツ

これ以外にもミッドソールの層が入る場合もありますが
基本的にはこのような構造です。

この構造の場合、擦り減った時に交換する部分というのは
リフト部分にあたります。
この部分は、靴により異なりますが、4.0mmから10.0mmと
ばらつきがあります。
それらの厚みが擦り切れる前が基本的な交換時期となります。

紳士靴には、よくダヴリフトなどの革付きリフトが付いています。
このタイプの革付きリフトの場合で、しばしば間違えられる事ですが、
擦り減ったゴムの部分だけ交換するものと。
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このようなラバーと革がコンビになっているものは、
画像のように組んでありますので、ゴムの部分だけを
交換することはありません。
一段分で交換となります。

組んでいないものもあったりは致しますが、
革の部分もそれなりに傾斜して減っていますし、
ラスターリフトならまだしも、ダヴリフトのようなパズルになっていますと、
その加工費用のほうが高く付くかもしれません。
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では時期を逃した画像にような場合はどうするかですが、
積み上げ部分まで擦り減っております。
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この場合は、例えばラバーリフトで交換する場合ですと
画像のように擦り減った部分(約9.0mm)まで削り落とし、
削った分と同じ厚みのラバーリフトを取付ければ元の高さに戻せます。

または、減ってしまった積み上げ部分を部分補修し、
元の厚みのリフトを取付ける方法もあります。

ただ、こちらのほうが費用は高くなりますので
先程の減っているレベルまで削ってしまって
一段取付けた方が、費用は安く保ちがよく綺麗に仕上ります。

なお、革付きリフトよりラバーリフトの方が耐久性が高く、
そして交換費用は、革付きリフトのおおよそ半分となります。
(使用するリフトによりますが)

そうです、お気づきかと思いますが、矛盾しているのです。
費用が安いラバーリフトのほうが、革付きリフトより保ちがいいのです。
といっても、当店では耐久性の高いラバーリフトを選んで
使用していますので、そのような結果になっております。
(革付きリフトも、ゴムの部分が通常より減り難いイタリアの
 素材を用いておりますが、それでもやはりラバーリフトに軍配が上がります)

革付きリフトが高いのは、まず素材の値段もありますが
飾り釘打ちや、仕上げ加工の手間が掛かりますので、
その分高くなってしまいます。
ですのでリフト交換の際、当店ではコストパフォーマンスがよい
ラバーリフトをお勧めしております、滑り難いですし。

店主調べとなりますが、旦那さんの靴を奥さんが持ち込まれますと、
ほぼ100%、革付きリフトではなく、ラバーリフトをご選択されます。

女性にしてみたら、安くて保ちがいいのに選ばない理由が…となりますが
そこは男しか分からない世界かと思う次第です。
ですので、奥さんに持ち込みを頼まれる場合は、
旦那さんには、その辺りの説得をお願い致します。

奥さんへの言い訳としてアドバイスするならば、
「俺はオリジナルにこだわりたいんだ、わかってくれ」
で、突き通すしかないかと思います。

ただ、例えばコバ部分の色味が、ブラックではなく
明るめのブラウンだったりナチュラル系の場合は、
リフト一段分がラバーのブラックになってしまうと、
見栄えに影響がありますので、
その場合は、革付きリフトの選択もあるかとおもいます。

また、積み上げまで減らしてしまって、革付きリフトを付けたい場合は、
そこまで厚みのある革付きリフトはありませんので、
部分的に革を足して補修するか、または一段分積み直すかで対応は可能です。

こちらは先程と同じ構造です。
ウェルト/ラバーソール/積み上げ/ラバーリフト
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積み上げまで減っていなければ、トップリフトのみを
交換すればよいということになります。
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そもそも、積み上げ部分は通常交換しない部分ですんで
画像のように、リフトを剥がしますと、積み上げ部分は
釘で本体と固定されております。

ときどきこのように固定されていない仕様の靴ですと、
本体から積み上げ自体が、浮き始めているものもありますので
交換の際には困ってしまいます。

また、海外の老舗ブランドの靴ですと、積み上げ自体は釘でちゃんと
固定しているのですが、積み上げ一段一段をしっかりと
接着されていない場合も多く、それぞれの層で隙間が出来ている場合も困ります。
ただ、これは手抜きではなく修理し易いように接着は仮止め程度という
考えなのかもしれません(修理して履き続けるという文化的仕様か)

ときどきもっと長持ちするリフトはないか?とご相談を受ける事があります。
もともと付いているラバーがあまりいいものでなければ、
同じ厚みのvibramリフトなどに交換すれば保ちはよくなりますが、
それより長持ちさせたい!と云う場合はどうするか?

物理的に、ラバー部分を厚くすればそれだけ交換時期を
遅らせることができます。

ただ、基本的にヒールの高さは変更しない方がよいので、
例えばもともとの6.0mmのリフトが付いていて、
10mmのリフトを付ける場合は、
土台の積み上げを4.0mm削れば帳尻が合いますので
10mmリフトを取付ける事ができます。

先程の積み上げまで減らしてしまった時と、理屈は同じです。
削れてしまったか、削るかの違いです。

続いてこちら。
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一見、積み上げ/リフトのパターンに見合えますが
この靴の場合は、靴底がすべて一体化しているウレタンソールになります。
つま先からかかと全体がユニットになっています。
ですので、かかと部分も矢印の範囲は全部ラバーのブロックになっています。

この場合は、リフト部分だけを取り外す事が出来ませんので
点線部分7.0mmの高さ(減っているレベルまで)を削り落とします。
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ブロック状のラバーリフトは、こんな感じで中が抜いてあります。
軽量化と少しのクッション性の役割もあるかもしれません。
削った分と同じ厚みのリフトを取付けます。
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では、かかと部分が全部ブロックであるのならば、
一段分(約6.0mm)以上減らしても問題ないか?ですが、
ブロックのラバーリフトで20mmの材料がありますので
20mmまで減らしても交換は大丈夫ではありますが…

外側に斜めに傾斜している靴…、なにか健康グッッズ的な靴で
ありそうですが、斜め歩行でカロリー消費量アップ!的な。

恐らくカロリー消費というよりは、なにか減ってはいけないものが
消費されているのではないかと思います。

傾いた状態で歩いていると云う事ですので、
靴が捩じれたように変形してしまいますし、
身体もそれに合わせて歪んでしまいますので
ほどほどで補修される事がお勧めです。

朝、駅ののぼり階段で当たりを見回してみますと、
丁度、靴のカカトが目に付くかと思います。
(くれぐれも痴漢に間違われぬようご注意を)
ちらほらリフトが減りすぎた方が、前を歩かれているのが
見つけられるかと思います。

そんな減りすぎた方は恐らく、カカトの着地の際には
足首がぐにゃっとした感じで歩行されているのが
観察できると思います。

そんな状態を見て頂ければ、20mmまで減らさずに
適時交換したほうがいいな、と思われる次第かと思います。

以上、「人の振り見て我が振り直す篇」でした。

こちらの記事もご参考にされてください。
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ampersandand at 17:23│ 靴修理