2018年11月17日

壊れすぎたオールデンを治してみる。 裂け補修篇

前回までのあらすじはこちら。
「壊れすぎたオールデンを治してみる。 分解篇」

今回は本体の裂け補修を行ないます。
181105blog29
181105blog34
閂(かんぬき)部分から小指側面にかけての裂け…

閂の部分は負荷が掛かる部分ではありますが、
履く際には靴ひもが下段部分に通っておりますので
緩めていたとしても完全に羽が開ききるような状態にはならないはず。

ですので壊れるとすれば靴ひもを緩めて
立った状態でつっかけるように足を入れて履こうとする状態ですと
ベロの部分がぐっと爪先側へ倒されるので、閂部分に
一点集中で加重が加わり壊れてしまう場合があります。

靴を履く際には靴ひもを緩め、腰を掛けて履いて頂く事を
お勧め致します。
また立った状態で突っかけて履こうとすると、
かかとを踏んづけて潰してしまいがちですし。
今回のオールデンも軽く潰れています。

今回のように完全に断裂してしまうと、裂け目を合わせながら
縫製することはこの状態のままではできません。
元の位置に状態を固定したいのですが、固定するべき土台がありません。
また靴底の反発もあるので、ぐっと手で靴底を曲げていれば
合わさり目は近づくのですが、手を離してしまうと遠ざかってしまいます。

まずは比較的柔らかい裏革のみを手縫いで縢りながら
元の位置(状態)に縫合していきます。
アッパーのコートバンを押し広げ、その隙間から見える裏革のみを
たぐり寄せながら縫合します。

181105blog20
181105blog21
隙間から指を突っ込み縫製しているので綺麗に縫えませんが
この縫製は表革のコードバンを元の位置関係に貼り合わせる為の
仮固定という具合です。
最終的にこの痛んでいる周辺には内側から革を宛てがい
それぞれ縫製し固定します。

これでベースとなる土台ができました。
アッパーを貼り合わせる前に、裏革と表革の間にナイロンを挟み込みます。
閂部分から裂け目に掛かるようにセットします。
ナイロンを挟み込みまとめて縫製する事で伸び止めの効果が期待できます。
181105blog23
次にかんぬき部分を補修します。
かんぬき部分は、爪先側とかかと側のパーツの交差点です。
爪先側の表と裏革、かかと側の羽の表と裏革の合計四枚が
それぞれ互い違いに重なり合って縫製されています。

今回はそれに加えてナイロンなどの補強材も新たに挟み込んでいますので
スクランブル交差点状態です。

まずは下層のベロとのつながり部分をかがり縫い合わせ固定致します。
そして部分的に分解しておいた羽の付根を合わせ、仮固定しておきます。
181105blog24
最後に内側から革を宛てがい補強致します。
小指側面部分から閂までを覆うようにセットし、
裂け目と閂と羽部分をそれぞれ縫製致します。
181105blog25
加わる荷重をそれぞれの点ではなく、
革で補強した側面全体で受け止められるようなイメージです。

次にかかと内側の擦れ補修。
181105blog31
かかとにはカウンター(月形)という芯材が固められて入っています。
(婦人靴では柔らかい芯材のもの、または入っていないものもあります)
これは不安定なかかと部分をホールドし、左右のぶれなどを制御してくれます。

ですので、かかと部分を踏みつけて潰してしまったり、
今回のように擦り切れて割れてしまう状態になってしまうと、
靴のホールド感は40%ぐらい低下してしまうことでしょう…。

わたし的には「かかとを踏んづけてしまう」というのは
あり得ない行為なのですが…。
iPhone Xを購入した日に、わざわざ軽く画面を割るような感じでしょうか。
181105blog46
程度によって補修方法や使用する素材は異なります。
今回は摩耗が酷いのでえぐれている部分にまずは革を一枚宛てがいます。
状態によっては部分的に芯材を追加する場合もあります。

補強革でえぐれを補修し、このブーツのかかとの反りに合うように
型採りして作成した腰革で覆います。
181105blog47
181105blog48
当店ではかかとの内側補修の際は通常履き口部分の縫い目は
見えなくなるように仕上げています。
かかとの内側を擦り切ってしまう方ですので、
縫い目は擦り切れないように隠してしまったほうがいいのでは?
という考えです。

画像は次回ご案内する予定の「壊れすぎていないオールデン」の
かかと補修のBEFORE/AFTER画像になります。
こちらは短靴ですので縫い目が見えない補修方法で行なっています。
BEFORE
181105blog79
AFTER
181105blog52

ブーツの場合は履き口部分が擦れる事は無いので、
また縫い目を隠す方法ですと、裏返しに縫製した革を
ひっくり返して内側に倒すので、ブーツでこの方法をとってしまうと
覆う面積が広く、内外の関係でひっくり返した内側に
皺がたくさんよってしまいます…って云われても??
と云う感じかと思います、その状態の画像があるはずなのですが行方不明…。

ですので今回は、少し仕上りの位置から革をはみ出しておいて、
縫製後にあまった革を縫い目の1.0mm隣りで、いちきりという道具で
さらう(切り落とす)方法で行ないました。

AFTER
レザーソール/レザーミッドソール/チャネル仕様/積上げ/ダヴリフト
181105blog43
側面部分の補強革は黄色の範囲で取付け、かかとの補修は水色の範囲に
なっています。
181105blog43-1
181105blog44
裂けていた部分はこんな感じ、ややピンぼけ。
黒い被写体は難しいです、ピントや露出が合わないな…。
1116
傷口は極力目立たないように塞がったのではないでしょうか。
遠目にはあまり目立ちませんし、日頃こまめに磨いて頂ければ
コートバン特有の照りで、補修の縫い目より輝く履き皺の艶が
先に目に入りますので。

裂け目は部分的に黒いコートバンで覆う方法も考えたのですが、
画像では分かり難いのですが、微妙にダークブラウン的な色合いにも
見える時があり、エイジングとお手入れのしなさ過ぎにより
色が不思議な感じに変化しています。
181105blog45
ですので、仮にブラックのコートバンで被せても色がちぐはぐに
なってしまうかなというのと、今回はチャッカブーツですので
周辺にパーツを固定するのに利用できる縫い目がないので、
貼り合わせたそのパーツを囲うような縫い目がぐるっとできてしまいます。
そもそもブラックの在庫がないし、用意しても補修費用は
ぐっと跳ね上がってしまいます。
ボルドーのコートバンなら在庫はあるのですが。
181105blog53
ソールはダブルソールですので、靴底が返り難く爪先が
摩耗し易くなりますので、ビンテージスチールをお勧め致しましたが、
「レザーで。」ということで。
リフトも当然耐久性の高いvibramラバーリフトではなくダヴリフトに。

当店としては持ち込まれた際の瀕死の状態からして、
日頃のメンテナンスを考えますと、ハーフソールスチール併用仕様で
VIBRAMラバーリフトをお勧めしたいところですが…。

ちなみにお渡しの際に履いて頂き、具合を確認して頂いたところ
とてもフィットして履き易くなったとのことで
そのまま履かれてお帰りになられました。

すくい縫いが切れたり緩んでいた状態でしたので、
裂けが無くても、それらの影響で外側へと広がっている状態
だったのだろうと思われます。

次回「壊れすぎていないオールデンを治してみる」篇に続く…。

ampersandand at 18:35│ オールソール