2019年06月20日
エルメスだからって作りが良い訳ではないのか…。オールソール篇


エルメスの紳士靴。
革底がべろーんと剥がれてしまっています。
セメント製法(接着)かと思いきや一層目のソールは本体に底縫いされています。
二層目の革底のみを接着で固定。
ソールが剥がれてしまうとやりがちなのが、自分でDIYをして
この状態から接着剤をどばっと塗布して、むぎゅっと貼り合わせてたら
接着剤が隙間からはみ出してきて、焦ってはみ出た接着剤を
指でこすりとって、その指で靴を持ち替えた時に革を触ってしまって、
べたべたベたと接着剤の指紋の跡…という感じかと思います。
で二、三日したらソールが剥がれてきて…なんやねんと。
ソールの接着ってなにげにかなり面倒で厄介なのです。
基本的には古い接着剤はすべて削り取る、両面とも。
なのでこのべろんとした状態からではグラインダーで削る事はできません。
(紙ヤスリで擦り擦りやっても業務用の接着剤はとれません)
仮にソールを手で押し広げてグラインダーの回転している面に
接着面を宛てることが出来たとしてもソール面側は凹湾曲しているので
端の部分ばかりにグラインダーがあたってしまい縁がガタガタ、
結局貼り合わせたら隙間が開いている…なんてオチです。
そしてヒールがついているのでソールを完全に分離する事も出来ません。
ヒールは通常、本体に向けて釘が10数本打ち込まれていますので
綺麗に外す事も出来ませんしそれを再固定するというのは不可となります。
また欧州で作られた靴ですと接着剤の配合が国内のモノと異なり
削るとねちゃねちゃと溶けてしまい素材にへばりついてこれまた厄介。
結局は削ってからねちゃねの表面を溶剤でコーティングしないと接着剤すら
つかない始末だったりします。
なので一般の方が思われている以上に再接着って難易度高し!なのです。
今回はそのような事情もあるのですが、そもそも靴底中央が
ぺこぺこでもうじき穴が開いてしまう交換目安の時期でしたし、
仮に接着できたとしても接着のみですのでまた剥がれてくる可能性は残ります。
基本的に革底を接着だけで固定するというのは私の考えではNGなのです。
婦人靴の革底はほぼ接着だけで固定されていますが、あれは革が薄く
柔らかいので歩行の際には靴に合わせて革底も一緒に曲がってくれますので
比較的、接着のみでも剥がれ難かったりします。
といっても革は繊維素材ですので、雨に濡れてしまうと毛細管現象で
内部まで雨水を吸い上げ接着面をふやかしてしまい剥がれてしまいがちです。
紳士靴の場合ですと5.0mm前後ある硬めの革底(ベンズ)を使用しているので
曲がり難く、また今回のように二層になっている場合ですと、
屈曲の際に一層目と二層目では二層目の方がより距離を曲がらなくてはならず
その距離のギャップで剥がれやすかったりもします。

ちなみにかかとはまだ一度もリフト交換していない段階。
かかとを一度も交換していないのに革底はすでにぺこぺこで
薄くなって交換時期となると…ランニングコスト悪し!ですね。
エルメスの肩を持つ訳ではないのですが、二層目を接着だけで
仕上げている今回の仕様というのは分からない訳ではありません。

今回の製法はボロネーゼ製法という作りになっています。
ボロネーゼ製法は、屈曲する前側に中底を取り付けずに
本体の革で包まれている状態になっています。
分かりやすく云うと靴下に革底が付いている状態です。
ですので画像のように手で軽く曲げただけで簡単に屈曲します。
ということは歩行の際には靴の屈曲性良いという仕様になります。
(逆に考えると底が薄いので疲れるとも云えますが)
で、二層めのソールも底縫いで本体に縫い付けてしまうと
厚みは変わらないのですが二層を縫製することで、層と層が結束し
少し曲がり難くなるので接着だけにしたのだろうと思われます。
といっても一般的な紳士靴は中底があり、底縫いもしているのですから
それに比べるとまだ底縫いしても屈曲性はいいのですが。
「ある程度履くと剥がれてきてしまう仕様」と比べ、
どちらがよいかという判断になる訳ですが。
ご来店は奥さまがお持ちになられたので以上の内容をご説明して
どのような仕様にするかご相談させて頂いた結果、
底縫いを掛けてハーフソールスチール併用仕様という設定で
交換する事になりました。
ちなみにレザーソールでオールソールする場合、当店では
このハーフソールスチール併用仕様を選択される場合が一番多いです。
手前から Church's・Hermes・JALAN SRIWIJAYA



この仕様ですとレザーソールと本体を縫い付けている底縫いの糸は
ハーフソールを取り付けていますので擦り切れず保護できます。
そして一番摩耗しやすいつま先もスチールで保護されています。
ハーフソールは底面の保護と滑り留め効果の他に、雨の日に路上からの
雨水の吸い上げを防ぎ、靴側面にできる雨シミ予防にも効果があります。
これは結果的に濡れと乾燥から生じる革の硬化からの履き皺の割れ予防にも
関係してくるかと思います。
基本的にこの仕様であればハーフソール、スチール、リフトを
摩耗した段階でそれぞれ交換して頂ければ、以後オールソールする必要は
ないという訳です。
AFTER

靴底はエルメスオレンジ風に染色。
エルメスのブランドカラーがオレンジというのは元々は違っていたそうで
戦争で徐々に梱包資材が無くなり、最後に残った派手な包装紙の
オレンジをしぶしぶ使用しなければならない状況に。
戦後、物資が整い元のゴールドや象牙色の梱包に戻したところ、
お客様からオレンジが良いという声で今のエルメスオレンジに
なったというらしいです。
出来過ぎているストーリーに疑いを抱いてしまいますが素敵なお話です。

始めに初期投資のハーフソールスチール併用仕様のコストは
掛かりますが、それを回収できるだけの耐久性はあると思います。
今回のエルメスのようにリフトを一度も交換する前に
オールソールなんてかなり費用対効果が悪いです。
といってもそのような靴はしばしばありますが。
ですので、新品の靴も履く前にハーフソールスチール併用仕様がおすすめです。
ウェルテッド製法の靴で、すでに製品の段階でウェルトを削り過ぎていて
オールソールの際にはそのままでは交換できない製品もあったりしますので。
「ビンテージスチールを取り付ける」まとめ記事はこちら
ampersandand at 21:26│
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