靴修理

2019年08月19日

つま先がとれた話。 治し方は人それぞれ篇

靴の修理の方法って特に決まっている訳ではなくて
その人その人でやり方が異なっています。
一般的なハーフソールやリフトの交換でも削り方であったり
加工の仕方が違っています(巧い下手ではなくて)

フランチャイズのお店でもお店によったり、そのお店で働いている
人によっても仕上がりが違っています。

これ困りますよね、始めにお願いした時は綺麗に仕上っていたのに
次にお願いしたらガタガタ…とか、下手な人に当たってしまったのでしょう。
作業をする人を指名できたらいいのでしょうが。
ちなみに当店は店主のワンオペなのでその点は心配ありませんが。

今回ご依頼頂いた修理品は一度、駅に入っている修理店で治されたのですが
すぐに壊れたので再修理ということで持込まれた靴になります。
お客様曰く、新品で履いていたらつま先が取れたので修理したら
また取れてきましたとのこと。
190817012190817013
つま先のソールがぽろっと取れています。
そもそも新品のソールがぽろっとつま先部分だけ取れるという事は
無いと思うのですが確かに取れています。
摩耗して取れたという感じではなく、鋭利な刃物でカットしたような断面です。
190817014
ウェルト部分もスパッと切断されています。
これも元々なのか、または前回の修理店で加工する際にウェルトまで
切ってしまったのではないか…多分そんな感じです。
ただストームウェルトでしたので完全にウェルトが破断されて
いなかったので補修は大丈夫でした。
190817015
始めの修理店では接着もそこそこに、とりあえず元の位置につま先のソールを
縫い付けて固定したようですが、案の定それでは取れてしまいます。
つま先って歩行の際にぐっと地面を押し出すのでこの方法では
底縫いの糸が擦り切れればおのずと分離してきてしまいます。
190817016
私の治し方としてはまず取れたパーツは使いませんので外してしまします。
次に底縫いの糸を抜いていきます。
前回の修理店では古い底縫いの糸を抜かずにそのまま重ねて縫ってしまって
いたので縫い穴が裂けたりと痛んでないか心配でしたが問題ないようです。
190817017190817018
で補修面を斜めに削り落とします。
この靴はウェルテッド製法の靴ですので実際にソールが接着されて
接着強度が維持できるのはウェルト部分の範囲になります。
190817019
矢印の範囲だいたい5.0から7.0mm程度でしょうか。
中央部分はコルクが充填されていますので接着強度はありません、
ですのでウェルテッド製法の靴の場合は底縫いの糸が擦り切れてしまうと
接着面積が狭いのでソールは剥がれ易い傾向にあります。

これはウェルテッド製法がそもそもソール交換し易いように
設計された製法ですので当たり前な訳ですが。
ですので私としてはオールソールする予定が無いのであれば
新品の段階で革底の場合はハーフソール(スチール併用)をお勧めしている
次第であります。

元のソールを斜めに削ったのは、接着面を増やす為と歩行の際の
圧力を分散させる為になります。
元の修理のように断面同士を合わせてもその境目に負荷が集中しますので
境目でぱきっと折れてしまいます。
斜めに削り互い違いに重なり合うようにすれば負荷が掛かるポイントは
斜面全体になりますので接合面が折れ難くなります。

といってもこの状態で直に補修パーツを取り付ける訳ではありません。
まずは下地のラバーを接着し、ソールの凹凸部分の凹面のレベルまで
合わさり目を削り落とし、そしてつま先側に傾斜するように削り落とします。
190817020190817021
この状態で元の縫い穴をひろってウェルトとラバー面を底縫いしていきます。
190817022190817023
そしてようやく補修パーツを接着して取り付けて周りを削り落としまして
完成となります。
190817024
190817025
まとめるとこんな構造です。
つま先
グレーの土台のソールを斜めに削り落とす。
水色は第一段階のラバー補修、そして黄色のウェルトと底縫いし
赤色の補修パーツをその土台に貼付けています。
接着面が広くなり剥がれ難く取付けできます。

この治し方ですと底縫いの糸が露出していないので擦り切れる事は
ありませんので、赤い補修パーツが摩耗しましたら剥がして再度交換
する事が可能です。

通常のつま先摩耗の場合は、底縫いまで行なわなくても擦り減った
土台を再接着しビスで固定し補修パーツという流れで可能ですが
今回のような特殊な場合はちゃんと補修するには何段階か行程を経て
補修する必要があります。(靴の製法によっても補修方法は異なります)

人によっては水色の補修は行なわずに赤い補修パーツを直接嵌め込んで
底縫いという方法が手間もかからず多いのかもしれません。
そのほうが見た目でちゃんと底縫いの糸が見えますので治した感と
かっこよさ感もありますし。

逆に私の治し方ですと底縫いをしていても隠れてしまうので
手間が掛かっている割には見栄えがしないかな…。
でもこの方法のほうが摩耗しやすいつま先には実用的ではありますので
推奨している次第であります。



ampersandand at 08:00|Permalink

2019年06月20日

エルメスだからって作りが良い訳ではないのか…。オールソール篇

19060351906036
エルメスの紳士靴。
革底がべろーんと剥がれてしまっています。
セメント製法(接着)かと思いきや一層目のソールは本体に底縫いされています。
二層目の革底のみを接着で固定。

ソールが剥がれてしまうとやりがちなのが、自分でDIYをして
この状態から接着剤をどばっと塗布して、むぎゅっと貼り合わせてたら
接着剤が隙間からはみ出してきて、焦ってはみ出た接着剤を
指でこすりとって、その指で靴を持ち替えた時に革を触ってしまって、
べたべたベたと接着剤の指紋の跡…という感じかと思います。
で二、三日したらソールが剥がれてきて…なんやねんと。

ソールの接着ってなにげにかなり面倒で厄介なのです。
基本的には古い接着剤はすべて削り取る、両面とも。
なのでこのべろんとした状態からではグラインダーで削る事はできません。
(紙ヤスリで擦り擦りやっても業務用の接着剤はとれません)

仮にソールを手で押し広げてグラインダーの回転している面に
接着面を宛てることが出来たとしてもソール面側は凹湾曲しているので
端の部分ばかりにグラインダーがあたってしまい縁がガタガタ、
結局貼り合わせたら隙間が開いている…なんてオチです。

そしてヒールがついているのでソールを完全に分離する事も出来ません。
ヒールは通常、本体に向けて釘が10数本打ち込まれていますので
綺麗に外す事も出来ませんしそれを再固定するというのは不可となります。

また欧州で作られた靴ですと接着剤の配合が国内のモノと異なり
削るとねちゃねちゃと溶けてしまい素材にへばりついてこれまた厄介。
結局は削ってからねちゃねの表面を溶剤でコーティングしないと接着剤すら
つかない始末だったりします。

なので一般の方が思われている以上に再接着って難易度高し!なのです。
今回はそのような事情もあるのですが、そもそも靴底中央が
ぺこぺこでもうじき穴が開いてしまう交換目安の時期でしたし、
仮に接着できたとしても接着のみですのでまた剥がれてくる可能性は残ります。
基本的に革底を接着だけで固定するというのは私の考えではNGなのです。

婦人靴の革底はほぼ接着だけで固定されていますが、あれは革が薄く
柔らかいので歩行の際には靴に合わせて革底も一緒に曲がってくれますので
比較的、接着のみでも剥がれ難かったりします。
といっても革は繊維素材ですので、雨に濡れてしまうと毛細管現象で
内部まで雨水を吸い上げ接着面をふやかしてしまい剥がれてしまいがちです。

紳士靴の場合ですと5.0mm前後ある硬めの革底(ベンズ)を使用しているので
曲がり難く、また今回のように二層になっている場合ですと、
屈曲の際に一層目と二層目では二層目の方がより距離を曲がらなくてはならず
その距離のギャップで剥がれやすかったりもします。
1906039
ちなみにかかとはまだ一度もリフト交換していない段階。
かかとを一度も交換していないのに革底はすでにぺこぺこで
薄くなって交換時期となると…ランニングコスト悪し!ですね。

エルメスの肩を持つ訳ではないのですが、二層目を接着だけで
仕上げている今回の仕様というのは分からない訳ではありません。
1906038
今回の製法はボロネーゼ製法という作りになっています。
ボロネーゼ製法は、屈曲する前側に中底を取り付けずに
本体の革で包まれている状態になっています。

分かりやすく云うと靴下に革底が付いている状態です。
ですので画像のように手で軽く曲げただけで簡単に屈曲します。
ということは歩行の際には靴の屈曲性良いという仕様になります。
(逆に考えると底が薄いので疲れるとも云えますが)

で、二層めのソールも底縫いで本体に縫い付けてしまうと
厚みは変わらないのですが二層を縫製することで、層と層が結束し
少し曲がり難くなるので接着だけにしたのだろうと思われます。

といっても一般的な紳士靴は中底があり、底縫いもしているのですから
それに比べるとまだ底縫いしても屈曲性はいいのですが。
「ある程度履くと剥がれてきてしまう仕様」と比べ、
どちらがよいかという判断になる訳ですが。

ご来店は奥さまがお持ちになられたので以上の内容をご説明して
どのような仕様にするかご相談させて頂いた結果、
底縫いを掛けてハーフソールスチール併用仕様という設定で
交換する事になりました。

ちなみにレザーソールでオールソールする場合、当店では
このハーフソールスチール併用仕様を選択される場合が一番多いです。
手前から Church's・Hermes・JALAN SRIWIJAYA
1906028
19060271906026
この仕様ですとレザーソールと本体を縫い付けている底縫いの糸は
ハーフソールを取り付けていますので擦り切れず保護できます。
そして一番摩耗しやすいつま先もスチールで保護されています。

ハーフソールは底面の保護と滑り留め効果の他に、雨の日に路上からの
雨水の吸い上げを防ぎ、靴側面にできる雨シミ予防にも効果があります。
これは結果的に濡れと乾燥から生じる革の硬化からの履き皺の割れ予防にも
関係してくるかと思います。

基本的にこの仕様であればハーフソール、スチール、リフトを
摩耗した段階でそれぞれ交換して頂ければ、以後オールソールする必要は
ないという訳です。
AFTER
190614000
靴底はエルメスオレンジ風に染色。

エルメスのブランドカラーがオレンジというのは元々は違っていたそうで
戦争で徐々に梱包資材が無くなり、最後に残った派手な包装紙の
オレンジをしぶしぶ使用しなければならない状況に。
戦後、物資が整い元のゴールドや象牙色の梱包に戻したところ、
お客様からオレンジが良いという声で今のエルメスオレンジに
なったというらしいです。

出来過ぎているストーリーに疑いを抱いてしまいますが素敵なお話です。
1906029
始めに初期投資のハーフソールスチール併用仕様のコストは
掛かりますが、それを回収できるだけの耐久性はあると思います。
今回のエルメスのようにリフトを一度も交換する前に
オールソールなんてかなり費用対効果が悪いです。
といってもそのような靴はしばしばありますが。

ですので、新品の靴も履く前にハーフソールスチール併用仕様がおすすめです。
ウェルテッド製法の靴で、すでに製品の段階でウェルトを削り過ぎていて
オールソールの際にはそのままでは交換できない製品もあったりしますので。
「ビンテージスチールを取り付ける」まとめ記事はこちら

ampersandand at 21:26|Permalink

2019年06月10日

「ブランドものだからって作りが良い訳ではないんですね」の話

そうじゃないって薄々ご存知かとは思いますが、
そうなんです、別にブランドモノでも値段が高いモノでも
一律に品質が良い品という事ではないことを…。

タイトルの「ブランドものだからって作りが良い訳ではないんですね」
というのは、ご来店の際になんでこのように壊れているのかを
説明させて頂いた際に、お客様が発せられた言葉なのですが、
そういうことです。

ご依頼品は、Diorの鞄。
持ち手が数カ所折れています。
BEFORE
19060041906006
この現象はなぜだかブランドモノではしばしば起きている現象です。
持ち手の厚みを構成しているほとんどの素材が芯材で裏表に薄い革を
貼り合わせている仕様。

芯材には段ボールのようなボール紙のようなパルプ系の素材を
接着剤で固めたものを用いている場合が多いです。
使い始めは硬さがあって良いのですが、経年劣化により
ぽきぽき折れてしまったり、ふやけてぶよぶよしてきてしまったり…。
国内ですと湿度が高いのでパルプ系の芯材は弱いのかもしれません。

その厚みのほとんどをそのような芯材で構成しているので
一旦その芯材が劣化してきてしまうと表面の薄皮程度の革では
形状を維持できずに折れてきてしまったり、千切れてしまいます。
GOYARDの持ち手もこのような仕様になっていて
とてもよく付根部分で千切れます。

持ち手断面がこちら、4.0mm厚程度ありますが、裏表の0.6mm程度が
革で他はパルプ系の芯材。
1906007
ちなみに持ち手修理のお問い合わせで多いのがコバ部分。
断面の塗装が剥離してきてしまっているので再塗装できないか。
残念ながら当店では行なっておりません。
1906005
既製品の多くがコバ部分の処理に樹脂系の塗料で仕上げています。
その塗料をぼってりと盛り上げて固着させています。
この方法を用いると、数枚貼り合わせてできた持ち手断面の凹凸を削ったりする
手間をかけずに塗料の厚みで隠せますのでお手軽です。

ただデメリットとしては手に触れる部分や折れ曲がる部分が次第に
かさぶたが剥がれるように塗料がぽろぽろと剥離してきてしまいます。
擦れて色が薄くなるのとは違い、画像のようにぽろぽろっと
剥離してしまうと見窄らしい見栄えになってしまいます。

これを再塗装するには、持ち手を本体から分離し、
グラインダーで塗料を削り落として全体を再塗装する必要があります。
再塗装費用とは別に、本体から分解し処理後にまた再縫製する手間も
掛かりますのであまり現実的ではありません。

補修しても再度同じように剥離してきてしまうので
その補修どうなのでしょうか…。
ですのでそのようなコバの再仕上げ補修は当店では行なっていませんし
そのような樹脂系の塗料も持ち合わせていません。

当店では製作、補修の際にはそのような問題が起こらない仕上げ剤を用いて
製作、補修を行なっています。
使用によりコバの部分が擦れて痛んだ際には再塗装は
可能な仕様となっております。
既製品でも同様の仕上げが行なわれている場合は、コバの再塗装は可能です。

では補修です。
Diorのチャームが付根に組み込まれているのでこの部分が厄介です。
まずは取り外して部分サンプルを製作してみます。
190600819060091906010
本体に持ち手を取り付ける順番とチャームを固定する順番に多少
頭を悩ませましたが縫製も取付けも製作には問題なさそうです。

持ち手の取付けには、実際に製品を製作する手順とは違いすでに鞄になっている
状態から持ち手を本体に縫製していくので、縫製の順番を試作の際に
考えつつ、持ち手の堅さや厚み具合を確認しています。

今回製作する持ち手には、1.6mmのオイルヌメ革を使用します。
裏表で1.6mmと1.6mmで合計3.2mm厚が革の厚みになります。
それだけだとオリジナルより厚みが若干薄いのと、
硬さが足りないので間に芯材を挟み込みます。

芯材は劣化し難く折れ難いフェルト系で1.0mmを選択しました。
合計4.2mmで厚みはほぼ革で構成されていますので、オリジナルのような
折れたりちぎれたりする事はないでしょう。

ブランドは鞄作りのプロばかり集まっているのに、
なぜそんな劣化する仕様で製作するのでしょうか…。
コスト面なのか、作りやすさなのか、壊れやすくしているのか(悪)…。

まずは持ち手の直線部分を縫製。
付根の部分は本体と縫製するのでこのミシンでは縫製できないので
途中まで縫製しておきます。
1906011
1906012
本体と縫製部分はミシンを変えることで縫い目のピッチが変わらないように、
とりあえず同じミシンでから縫い(針で穴をあけるだけ)しておきます。
1906013
ミシンを変えて本体と合体。
チャームがあったりベルトがあったりして混雑しているところを
分け入ってカタカタカタ…。

AFTER
付根部分の縫い目模様もオリジナル通りに縫製。
ほぼ元通りではないでしょうか。
190601419060151906016
修理するとオリジナルより質が悪くなると思われがちですが
Dior製より当店製作の持ち手の方が品質はいいですね。

「修理したからって質が悪くはならないんですね」 

by 店主

ampersandand at 18:31|Permalink

2019年06月07日

馬に乗る前に丈を詰める。

ロングブーツは左右で丈の長さが異なっていたり筒の太さが
異なっているというのはしばしばあります。
革を組み立てる製甲という行程や、靴の形にする釣り込み、
ソールを取り付ける底付けという行程それぞれで誤差が
生じ易いからだと思います。
190531008
ただ乗馬ブーツのように、完全に足の形状に添って作られた
ブーツの場合はその誤差で履けなくなってしまう事もあります。
今回のご依頼品は、右足は入るけど左足が入らないと云う状態…。

入らないというか、筒の端が左足だけきゅっと窮屈になっているとのこと。
左右の誤差があるのか、または足の太さが違うという事も考えられますが
採寸してみると確かに左足の筒の太さが6.0mm程度端の部分で
窄まっている様子。
190531007
一般的なルーズフィットなブーツであればサイズに余裕があるので
このぐらいの誤差は影響ないのだろうと思いますが。

丈の長さも長いので丈を詰めればおのずと履き口は太くなるので
足が入るようになるのではないかとお客様。
5.0cmカットぐらいということなのでその部分で計測してみると
右足のカット前の位置の寸法よりは周囲が増えるので
寸法上は足が入りそうです。

ただ、靴はまだ新品のようでしたので不良品ということでお店に
云えば交換してくれるのでは?とお伝え致しましたが
防水スプレーを掛けてしまったのでダメですとお店に云われましたと。
しかもネットで購入されたということ…。
「防水スプレーを掛けた」と云わなければとも思ったのですが…。
正直者は損をしてしまうご時世かな…。

まずはカットライン引きます。
オリジナルの曲線ラインから均等に5.0cm下げたところにラインを描きます。
その際に筒の高さも左右で部分的に異なっていますので、
微妙に調整して辻褄を合わせますが、直線ではなく曲線ラインなので
そのラインの繋がりも崩さないようにします。
190531015
190531010
かかとの合わさり目の市革は一緒にカットせずに残しておいて
オリジナル通りに内側に折り込みます。
解いてみると芯材に樹脂の板が入れ込まれていました。
とういうことは、騎乗の際はこの部分はまったく曲がらないのだろうか?
かかとの部分も通常のブーツはアキレス腱の部分で靴がくびれていますが
乗馬ブーツの場合はふくらはぎから直線的な形状になっています。
乗馬に適した形状なのか、それとも製造上の制約でそのような形状なのか…。
190531009
革はごついワークブーツさながら3.5mm厚くらいあります。
曲線ラインなので途中で停まらずに、一発で裁断したほうが後々の処理が
楽ですしラインも綺麗に仕上るのでここは集中、集中…。
190531011190531012

筒はがっしりとしていて通常のブーツのようには抑えても平らな形状に
ならないので、曲面のままカットしていますが、
頭の片隅では嫌なイメージが…
革包丁が滑って…なんていう妄想を打ち消しながら慎重に慎重に。
190531013190531014
190531017
190531016
カットした断面はエッジが立っていますので面取りをして
断面も滑らかに削りコバを仕上げていきます。
断面はブラックで染めてもとの感じの見栄えになるに仕上げます。
最後にミシン掛け。
左手でくるくる回しながらカタカタカタ…。
190531018190531020190531019
完成です。
カット後の履き口の寸法を計測してみますと

右足 315mm→330mm
左足 309mm→325mm

カット後の周囲寸法が履けていた右足の315mm以上の寸法に
広がっているのでこれで足が入るようになりました。
結局左足の履き口部分が特に窮屈になっていたようですが
そもそも左足自体の筒寸法が右足より細く作られていたようです。

といっても靴は安物ではなくイングランド製のしっかりとした
ものなのですが…検品はしっかりしてほしいものです。
またはこの程度はOKと云う事なのでしょうか。
190531021
ご依頼主さんは年配の女性の方で老後に趣味が無いので最近
乗馬を始めたとの事。
観光地でときどき乗っていたのがきっかけだと。
なかなかそれで乗馬をチョイスするというのは凄いのですが。

何かを始めるのに遅すぎるという事はないのだな…
と思う今日この頃。

ampersandand at 19:36|Permalink

2019年05月18日

こんまりしても残ったブーツ。 パラブーツの丈詰め篇

「I need to KonMari」
アメリカでその名前が片付ける(断捨離する)という動詞として
使われているという近藤麻理恵さん。
片付けの方法は、それが「ときめくかときめかないか」
断捨離していくという。

ご来店のお客様は、こんまりメソッドを実践したわけではないのでしょうが、
持ち物を整理して履かない靴は知人に譲り、この靴も丈が長く
結局余り履いていないということで、どうしようか悩んだ結果、
丈詰めしてみたら履けるようになるのではないか、
ということでご来店頂きました。
2018-025

編み上げのブーツでよくあるパターンですが
今回のようなくるぶしより数センチ上まで隠れる高さですと
だいたい履き難さを感じ丈詰めされる方が多いです。
お勧めの高さはくるぶしがちょうど隠れる高さが履き易いと思います。
くるぶしが隠れて固定されると靴が安定し足と一体化した
感じの履き心地が味わえます。
(革がしっかりしている場合は馴染むまではそうではありませんが)
2018-026
今回も8ホールから6ホールに丈詰め。
5ホールか悩まれましたが、5ホールですと外側のくるぶしに
履き口断面がかかっている状態でしたので靴擦れが起こし易い
可能性がありました。

また引っ掛けホックも一個だけ残るという中途半端な感じも否めず、
またベロと繋がっている仕様でしたので5ホールにすると
ベロの連結部分も一部カットするなど仕上がりが複雑になってしまう
ということもあり5ホールに。
2018-027
くるぶし周辺でカットする場合の高さの目安として、くるぶしが完全に
でるか隠れるかどっちかに設定したほうが宜しいかと思います。
カット断面が中途半端にくるぶしと接すると擦れたり骨に当たったりして
痛みの原因になる場合がありますので。
2018-0282018-0292018-030
カットした部分の両端の角はオリジナルのように丸い形状にしたいところですが
フック金具との距離が近くなり過ぎて強度不足となりますし
裏面に繋がっているベロと干渉してしまうので丸めずに仕上げてあります。
2019-03-430-0002019-03-430-001
カットした断面は表面を削って整え、コバ処理を行いブラックに染めて
仕上げています。
そうしまして完成となります。
AFTER
2019-03-430-0092019-03-430-010
履き難くて余り履いていないということですが、すでに筒が外側にぐっと
押し出されてくるぶしの形に癖づき始めているので、
丈詰めして出番が多くなれば今後はより馴染んで履き易くなる事でしょう。
2019-03-430-012
2019-03-430-011
しっかりした作りだったり、革が硬めのブーツだと可動域の足首周りの革が
始めは硬く負担を感じる事があるかと思いますが、それがある程度
足に馴染んでくると逆にそのしっかりとした感じがホールド感を高めて
とても履き易くなります。

革靴全般に云えますが新車の車と同じでならし運転期間が必要かと思います。
靴が自分の足を記憶する時間が必要かと。

当店に持込まれるご依頼品の中にはそもそも構造的に問題があったり
素材の劣化が進んでいて修理には向いていないモノもあります。
そういった品は「修理はおすすめ致しません」とお伝え致しますが
それでもご依頼主さんは治してくださいと云います。

それはきっとなにかしら「ときめいた」品々なのだろうと思います。
モノであふれている現代で、捨てずに修理してでも使い続けたい
モノたちということですので。

当店では、
「I don't need to KonMari」
だな、と思う今日この頃…。

ampersandand at 20:03|Permalink

2019年04月29日

ローファーを購入する人が失敗するサイズ選びあるある。

サイズ調整して下さいというお問い合わせがありますが
「かかとに1.0cmくらいの隙間ができてぱかぱかしています」
この場合はサイズ調整というか、外で履いていなければ返品交換を
お勧め致します。
そもそも選択されたサイズが大幅に間違っている状態です。

ぱかぱかシューズに多い靴種は主にローファー。
ローファーは紐靴と同じような感覚で購入してしまうと
だいたいサイズを間違ってしまいます。

パターンとしては、甲の部分がきつく感じるのでワンサイズ、ツーサイズ
大きめを購入してしまうというあるある。
その結果、歩くたびに靴の中で足が前に滑るし、蹴り上げると
かかとが付いてこずぱかぱか…。
190426-A
そもそも紐靴と違って足を入れるだけの構造なので
甲の部分で抑えるだけで基本的にはスリッパと同じように
つっかけて履いているような状態です。
更に、足入れがし易いように履き口周りもあまり内側に倒されておらず
トップラインが低めに設定されています。

ではそのつっかけて履いている状態で脱げないようにするには
どうすればいいでしょうか?
紐靴であれば紐を縛れば抑えられますが、ローファーの場合は
調節が出来ません。
ですので、そもそも甲の部分を窮屈に設定してあります。
甲の部分でのみで足が抜けないように押さえつけているわけです。
190426-A013
*黄色点線部分が絞ってあり、紐靴の靴型より甲も低く設定されています。

なので紐靴と同じ感覚で試着してしまうと、甲の部分はきつく感じるでしょう。
きつく感じないワンサイズ大きめを購入してしまうと甲は楽にはなりますが…。
歩いてみると、甲で抑えられずワンサイズ大きめなので
縦方向にも緩くなっているので足が前に滑ってしまうというわけです。
190426-011
紐靴と比べて足を覆う部分の少なさ、この少ない面積で
抑えなければならない靴なのでそもそもが窮屈な設定なわけです。

この逆なパターンもあります。
窮屈だけどかかとがぱかぱかならないので購入して履いてみたけど
甲の部分がきつくてしばらくすると足がしびれる…。

「甲の部分を広げてほしいのですが…」

ローファーは甲の部分にだいたいベルト状のパーツが付いていますが
この部分を伸ばす事はできません。
この部分で抑える為にしっかりと作られておりますし
伸ばそうとすると、ベルトパーツの付根部分の縫製や革に負荷が掛かって
裂けてしまいますので。

ベルト状のパーツがなく、甲からベロまで繋がってるタイプのモデルは
反り上がる付根部分でそもそも裂け易いデザインなので走ったり、
階段を駆け降りたり、しゃがんだり、立った状態で履こうとしない方が
宜しいかと思います。

ローファーの壊れ易い箇所あるあるでは、甲の付根以外だと
かかと部分内側になります。
紐靴のように甲の部分とかかとの芯材で足と靴を固定できないので
歩行の際にかかとが浮かび上がり履き口でひっかかるという動きを
繰り返す結果、内側部分が擦れ易い傾向にあります。
190426-009
こんな感じで擦れていきます。
ローファーは履き口部分にはイタリアンテープが施されていて
トップラインに縫い目がない場合がほとんどです。

その場合、内側に革を宛てて縫製する際にトップラインに縫い目がないので、
新たに縫い目が出来てしまいます。
縁取りのイタリアンテープを分解して行なえば、
元通りに補修は可能だと思いますがあまり現実的ではありません。

ですので擦れているようであれば、レザーローションで保湿しておくことで
擦れの進行を遅らせる事が出来ると思います。
190426-010190426-012
[サフィール] ユニバーサルレザーローション 150ml 汚れ落とし 保湿 ツヤ 靴磨き バッグ 無色 レザー クリーム 9550904002 (Free)




ちなみに女性が履くパンプスでは、ほぼ指先のみで脱げないように
なっていますので、その指周りの窮屈さはローファーでひいひい云っている
男性には耐えられないでしょう。
解剖学の先生が云うには、女性は子供を産む時の痛みに耐えられるように
男性より痛みには強くできている、ということを聞いた事がありますが
それはパンプスを履くのにも役立っているのかもしれません。

高校生になって学校指定でローファーを履かなければならない
学生は多いようですが、それまで革靴を余り履いた事がない子供が
初めて履く革靴がローファーというのは酷な事のように思います。
学生ローファーは主に、ガラス加工された硬い革で出来ていますので
なおさら履きづらいでしょうに…。

初めての革靴でそれまで履いていたスニーカーのような柔らかなフィット感で
サイズ選びを行なえば、おのずとサイズオーバーに陥り易いかと思います。
そして日常の脱ぎ履きでは、かかとを踏んづけてしまう生徒も多いでしょう…。
(かかとを踏み潰してしまうと靴としてはお役目終了です)

ローファーではなく外羽の紐靴が初めての革靴には、
また骨格形成される成長期の子供には健康にもいいのではないかと思います。

ちなみに私の高校は学ランでしたが、靴は自由でしたので
「学ランにエンジニアブーツを履く」という謎の高校生でした。
下駄箱には入っていたのでしょうか?記憶にありません…。
その後、エンジニアブーツを履いた事は無く、
特別エンジニアブーツが好きだったわけでもなさそうですので、
若気の至りというやつだったのでしょうか…。

ローファーに関連して以前ユニークな修理をした事がありましたので
宜しければこちらもどうぞ。
「ALDENのリジェクト品を正規品に…。」

次回、
「ウェルテッド製法の靴を半年後に後悔しない為のサイズ選び篇」
になります。


ampersandand at 21:58|Permalink

2019年02月21日

普段やらないウェルト交換 A . MANETTI  半カラス篇

前回までのあらすじはこちら
A . MANETTI  分解篇
A . MANETTI  ウェルティング篇

底付けが前回までで終わりましたので、残すはヒールの取付けと
底面の仕上げになります。

ヒールの積上げ
一段目は靴底の丸みが強いので、取り付けた積上げ革の
膨らんだ中央部分を削り落として平に加工します。
その後、ヒールの角度を見ながら今回は三段積上げし
最後にダヴリフトを取付け化粧釘を打ち込みます。
ウェルト交換015ウェルト交換014ウェルト交換013

つま先部分はビンテージスチールをセットするので
その厚みの段差を加工しておきます。
既製品でスチールを取り付ける為にこの加工をすると、
だいたいの靴は底縫いの糸が切れてしまいます。
(切れてもスチールを固定するビスで固定されるので問題はないのですが)

オールソールの際に同時にスチールも取り付ける場合は、
凹みの加工を行なっても底縫いの糸が切れないように
出し縫いがかかる溝を深めに設定し底縫いを行なっていますので
画像のように凹みを作っても糸が見えてきません。
ウェルト交換012
革底面の表面はバフ掛けして表面を綺麗に整えてあります。
整えて綺麗にした表面をふのりで磨いて艶を出します。
ウェルト交換011
踏まず部分は今回は半カラス仕上げでご注文頂いておりますので
ふのりを付けず磨かずに残しておきます。
踏まず部分を染めるのでマスキングをし染料で
いっきに染め上げます。
ウェルト交換009ウェルト交換010
ウェルト交換008
染料でダークブラウンに染めた部分には気泡や埃などが
どうしても付着してしまいますので、#1000くらいの
紙ヤスリでコキコキと表面を研ぎます。
ウェルト交換007
研ぎ上げて表面が平滑になりましたら、防水と艶だしを兼ねて
メンチュウロウを塗布し、温めた鏝で薄く溶かし広げ伸ばします。
その後、布で再度コキコキと余分なロウを取り除き
艶が出るまで磨き上げます。

そうこうしましてようやく完成となります。
踏まず部分はオリジンルではウェルトが削られ接着のみで
縫われておりませんでしたが、しっかりと縫って仕上げております。

ですので、その分出し縫いの際にはウェルト部分の幅が
必要になりますので、踏まず部分のくびれは多少横幅がオリジナルよりは
広くなっている設定になります。

といっても充分踏まず部分はくびれているとは思うのですが、
どうでしょうか。
ウェルト交換006ウェルト交換002
ウェルト交換005
190219-1
これだけ磨き上げて仕上げても、一旦路上に出てしまえば…。
ですのヒドゥンチャネル仕様(半カラス仕上げ)に費用を掛けるより、
実質剛健なチャネル仕様でハーフソールスチール併用を
お勧めするわけなのですが…。

江戸っ子気質な、粋なヒドゥンチャネル仕様だなぁと思う
今日この頃…。

ampersandand at 23:52|Permalink

2019年02月19日

普段やらないウェルト交換 A . MANETTI  ウェルティング篇

前回のあらすじはこちら

前回はソールを剥がしてみたらやっかいなウェルテッド製法だったので
あら大変…というところまででしたので、
今回はウェルト取り付け篇ということになります。

まずは革底を縫い付けるためのウェルトを縫い付けなければなりません。
ただ通常のウェルテッド製法であればすくい縫いする穴が
ちゃんと見えているので大変ではないのですが、今回は
アッパーの革が被って縫い穴が見えないし、縫い穴も
中底に切り込みを入れた部分の奥底に…。
ウェルト交換063
穴の位置関係が分からないのでマチ針で確認…。
つま先部分などはピッチが変わっているし、先芯も入っているので
分かり難さ倍増です。

位置が分かったところですくい縫いしてウェルトを固定していきます。
ウェルト交換030
縫って…
ウェルト交換031
縫って…
ウェルト交換032
縫って…
ウェルト交換033
つま先でようやく半分折り返し…
ウェルト交換038ウェルト交換039ウェルト交換040
ウェルト交換041
縫い付けているウェルトは濡らしてあります。
濡らす事で柔らかくなってカーブなどは縫い付け易いのですが
濡らした状態でテンションを掛けて縫い付ける事で
乾燥した時には、ぱりっとウェルトがいい感じで張ってくれます。

かかと部分は一般的にはハチマキと呼ばれる別パーツを
取り付ける事が多いのですが、
今回はオリジナル同様に一周ぐるりとウェルトが取り付きます。
かかと部分は合理的にタックス(アルミの釘)で潰して
固定されていましたので同様に固定しておきます。

一周回してきましたら、ウェルトの端同士は互い違いに漉いてありますので
重ねて同じ厚みになります。
ウェルト交換037
ウェルト交換042
取り付けたのは靴の周りに張り出しているこの部分。
全部が全部このように張り出しているタイプは、
中底に縫い付けられているウェルテッド製法かというと
そうではなく、マッケイ製法やセメンテッド製法では飾りウェルトという
パーツを間に挟み込んでいるだけの仕様もあります。
ウェルト交換044
ちなみに下画像が一般的なグットイヤーウェルテッド製法。
縫い付ける部分の革が被さっておらず、段差部分がよく見えると思います。
これだとかなり縫い付ける手間は楽なのです、穴が見えていますので。
ウェルト交換048
今回の靴で不思議な点が一点。
靴には踏まず部分にシャンクと云われる主に金属製のプレートが
施行されてヒールと踏まず部分を支えている背骨のようなパーツがあります。
通常そのパーツは踏まずに添ったラインで取り付けられているのですが
今回はその反りが逆向きでセットされていました。
ウェルト交換046
ちょっと分かり憎いのですが踏まず部分が膨らんでいると思います、
一般的にはこの反りは逆反りでセットするのですが…
なにかこれに効果があるのかどうか分かりませんが、
MANETTI工房の考えなのでしょうから同様にセットしておきます。

一応持ち主さんに、「逆向きで入っているんですけどー」と
確認しましたが、元通りでOKということでした。

国産の工場ライン製造ものと違って、あちらの工房モノっていうのは
時々あれっ?という一般的な仕様と異なっている場合があるので
有りなのか、無しなのか、驚きと困惑の間で…という感じです。

ウェルトが取り付けましたら、中もののコルクを入れます。
ウェルト交換047
もともとは薄いスポンジが入っていましたが、柔らかすぎるので
コルクの薄めを入れて余分を削り落とす事にしました。

オールソールするまで履き込んでいるので、
中底には足型の跡がしっかりと付いています。
ですので、これ以上不必要に中底が沈下するのを
予防する意味合いも含めコルクにしました。

次に革底を取り付けてヒドゥンチャネル仕様の加工を行ないます。
この加工は恐らく靴でしか行なわない作業だろうと思います。

ですので受付の際にこの部分の処理を口頭でご説明しても
イメージできず???と思われる事がしばしばです。
ヒドゥンは隠す、チャネルは溝、溝を隠す仕様と云う事になります。
ウェルト交換022
革底の端に革包丁を差し込んで15.0mmくらいの幅で厚みは1.0mmくらいで
革に切り込みを入れていくイメージでしょうか。
お刺身をおろす時に、おろしきらない感じでしょうか。

靴底もつま先側や踏まず部分でそれぞれ底面の丸みが異なりますので、
それに合わせて差し込んでいる包丁の角度も微妙に変えながら
切り込んでいきます。
ウェルト交換023ウェルト交換024
切り込みを入れ終えたらその部分を起こします。
端は薄く奥は厚めにというイメージで包丁を入れ込んでいますので
端の部分は革がひらひらするくらい薄くなっています。
革を起こした部分に溝を掘り、その溝に出し縫いを行います。
ウェルト交換025ウェルト交換028
革底での交換の場合、その多くはチャネル仕様、革底面に底縫いの縫い目が
見える仕様でご依頼されますが、
このヒドゥンチャネル仕様というのは当店の場合、
年に数件程度ご依頼があります。
ごく僅かなのは、私がお勧めしないということと、
手間が掛かるのでその分費用も割高になるのが理由かと思います。

お勧めしないのは、ヒドゥンチャネル仕様にするのであれば
チャネル仕様にハーフソールスチール併用仕様を
オプションで付けられた方が、それより費用は安くなりますし、
耐久性も格段に良くなるからであります。

費用が高い方を進めないというのは経営者としてはまずいのですが…。
といっても今回のご依頼主さんのように、
私が懇切丁寧に併用仕様のメリットをご案内しても、
「ヒドゥンチャネル仕様で。」という方もいらっしゃるのですが。

しかもつま先にはスチールを付けないということでしたので
そこは説得して付けて頂きましたが。
オプション追加を説得する経営者というのもいかがなわけではあるのですが。
しかしつま先がすぐに減ってしまうのは目に見えていましたし、
現に今まで修理された靴はすべてつま先がやられていましたので。
(歩き方によってはつま先が余り摩耗しない方もいらっしゃいます)

ウェルトと革底に出し縫いを掛けましたら、
今度は先程起こした革を伏せて縫い目を隠していきます。
ウェルト交換029

疲れ目で瞼がぴくぴくとしてきましたので、
今回はここまでと致します。

次回は仕上げの「靴底お化粧篇」になります。

ampersandand at 19:15|Permalink

2019年02月04日

普段やらないウェルト交換 A . MANETTI  分解篇

今回ご依頼品の靴はウェルト交換の必要があったのですが、
履き過ぎて擦り減った事が原因ではなく
もともとの靴の設計に問題があったのかもしれません。

今回の患者さんはこちら
ウェルト交換050

以前リフト交換の際にご相談を受けていたのですが、
これはその時期になったらオールソールできますかと。
ウェルト交換052
初見ではウェルトの幅が狭過ぎていて、縫い目が端ぎりぎりで
縫われ過ぎているので、ん〜。
ウェルトの幅もほぼこの縫い目一本分のスペースしかありません。
端を縫い過ぎているのでコバ側面には、縫った糸の厚みで
断面がもりもりと凹凸が見えてしまっているぐらいのぎりぎりさ。

ソール交換には新しく革底を取り付けてからウェルトと一緒に
貼り合わせ部分に凹凸が無くなるように側面を削りますが、
(削ると云っても何ミリも削るわけではなく、1.0mm以下程度)
その際に縫い穴が端に設定され過ぎていると穴が貫通してしまいます。

どういう事かと云いますと、略図ですがこんなイメージ。
コバ断面
A・交換前の状態、縫い穴が端にあり過ぎています。
B・ソールを取り付けて段差を削っていくと、穴がでてきてしまいます。

伝わっていますでしょうかこの感じ。
例えばDIYで木材を貼り合わせてその境目の段差が目立たなくなるように
ヤスリで互いを繋げて削ると思うのですが、そんな感じです。
削るというか表面をならす行程です。

ですのでこの状態ではソール交換の際の出し縫いができない
可能性がありそうですねと。

で、月日が流れその時期になり持ち込まれた靴をみてみると
むむ、漉い縫いが切れて、いやウェルトの縫い穴も裂けていますね…。
ウェルト交換051
こうなってしまうと出し縫いうんぬんではなく、ウェルトと本体を
固定している漉い縫いの穴が裂けてしまっているので、
ウェルト交換から行なうしか方法がありませんが…費用がかなり掛かります。
ウェルト交換+オールソール交換費用になりますので。

まずは分解。
積上げを外して、残った出し縫いを削り革底を剥がしていきます。
ウェルト交換055ウェルト交換056
踏まず部分に縫い目がありませんね。
ウェルト部分が絞られて出し縫いが見えていませんでしたので
ベベルドウェスト仕様かなと思っていたのですが、
単純に縫っておらず接着のみの仕様でした。
ベベルドウェストというのは、ウェルトまたは本底を薄く加工して
巻き上げて包み込む仕様になりますが、詳細は割愛致します。

ソールを剥がしてみたところ、グットイヤーウェルテッド製法ではなく
ハンドソーンウェルテッド製法ということが分かりました。
ウェルト交換057ウェルト交換058
ウェルトの幅が狭っ!!
あとで新しく縫い付けるウェルトと比べて頂くと
恐ろしく狭いのがお分かり頂けるかと思います。
ウェルト交換059
この設定ってウェルテッド製法で作る意味が無いような気がします。
そもそもウェルテッド製法というのは、何度もソール交換し易いように
考案された製法なのですが、このウェルト幅だと交換する際の
出し縫いで漉い縫いの糸は必ず裂けてしまいますし、
といいますか現状の状態でも漉くい縫いと出し縫いの位置が同じなので
すでにそうなっているのですが…

ですので結果的に履き込んでいくとその負荷で糸が徐々に
裂けてしまったのだろうと思われます。

本体から出ている糸はウェルトと中底を縫い付けていた糸になります。
ウェルト交換060ウェルト交換062ウェルト交換061
本体とウェルトを分解。

ここまででいったいそれがどのような状態なの?と
イメージが付かない方もいらっしゃるかと思いますので
略図を作ってみました。
略図はこんか感じで靴をカットした断面図イメージとなっています。
W6
W5
まずは一般的なグットイヤーウェルテッド製法。
グットイヤーウェルテッド製法というのは、
それまですべて手縫いで行なわれていた作業を、
19世紀後半に発明されたミシンで、手縫いでしかできなかった行程を
一部仕様変更することで、代わりに縫製することが
できるようになった製法になります。

リブと云われる綿テープ(黄色)を中底に接着し、
そのリブと本体の甲革とウェルト(水色)を横方向で縫製しています。
そしてウェルトと革底を縦方向に出し縫い(緑色)で縫製しています。
オールソールとは、この出し縫い部分からやり直す行程になります。
W1

リブを取り付けているので、その分、革底との間に空間ができてしまいます。
この空間に5.0mm厚程度のコルク(オレンジ色)などで充填して埋めています。
ですのでグットイヤー製法の靴はコルクという厚いクッションが
入っていますので、履き込んでいくと自分の足型にコルクが沈みこんで
馴染み易いと雑誌などで謳われています。

ここで少しイメージして頂きたいのですが、沈むということは…
そうです、靴内部の容積が増えると云う事ですので、
結果、履き込んでいくとサイズが大きくなるという事にもなっています。
ですので、特にウェルテッド製法の靴の購入の際には、
その事を念頭において購入する必要があると思います。

181105blog19
次にハンドソーンウェルテッド製法というのはミシンを使わずに
その名の通り、すべて手作業で行なう製法になります。
グットイヤーとの違いは手作業かミシンの違いというだけではなく、
同じウェルテッド製法ではあるのですが構造からして違っています。

グットイヤー製法では中底にリブを貼付けていますが、ハンドソーンの場合は
革中底自体を加工し、直接ウェルトを縫い付けています。
その為、コルクをいれるような空間は少ないので
今回の靴では薄いスポンジを入れてありました。
ですのでハンドソーン製法はグットイヤー製法に比べると、
中底の沈み込みは少ない傾向にあると思われます。
W2

革底に溝を作りその段差を利用しウェルトを漉うように縫製していきます。
略図では省力していますが、掘った溝は漉い縫い後に元の革で埋め戻します。

リブを別パーツで取り付けないので、ハンドソーンウェルテッド製法のほうが
グットイヤー製法より靴底の返りはいいとされていますが、
実際はどうなのでしょうか、わたしには判断がまだ付きませんが。

同じ材料で靴を作って、右はハンドソーン、左はグットイヤーというような
実験ができれば判断ができますが、違う靴で比べてもしょうがないですし。
革底や中底の厚みや甲革の硬さなどなどすべて設定が違うわけなので。
どこかのユーチューバーが実験してくれたらいいのですが。
その際は履き心地という主観的なものではなく、なにかの計測器で
靴底の屈曲率みたいな感じで計測してくれるといいのですが。
W3


で次に今回の靴もハンドソーンなのですが…また厄介な代物でした。
通常は漉い縫いする段階で余分な釣り込みシロの
甲革はカットしておくのですが、
今回の靴は甲革が残ったままで底面に被っていました。
漉い縫いの穴が見えないではないですか…。

そして漉い縫いする溝もなく、中底に切り込みを入れたところで
縫製している仕様になっていました…。
漉い縫いの穴がまったく見えないではないですか…。

で、先程のウェルトの幅が狭く出し縫いの糸と漉い縫いの糸が
同じ位置で縫製されているという状態が断面図で分かるかと思います。

こんな設定ではそもそもオールソールできないじゃん…ていう感じです。
なのでウェルテッド製法で作っている意味がないじゃん…と。

その弐に続く…



ampersandand at 23:46|Permalink

2018年05月31日

できればヒールは外さないでおく。

ハイヒールってどうやって固定されているかご存知でしょうか。
知っていれば走らないとは思いますが…。

アジア圏生産の靴なんかは、ホチキスみたいなのでぽちっと
留めてあるだけのものなんかもあります、恐ろしい…。
階段降りている最中にハイヒールがはずれてしまった時には…
ダッシュしている時にぽきっと…

足首をやられる程度で済めばいいのですが…。
2018042802520180428024
ハイヒールは基本的には釘が5本と真ん中に太めのネジで固定されています。
上画像のようなピンヒール系で付根も小さめのヒールの場合は
打ち込むスペースが無いので、釘2本とネジ1本だったりもします。
今回のヒールが外れてしまった靴は、ネジが3本で固定されていました。
固定方法としてはしっかりとしていますが…
2018042802720180428028
それでも3本中2本のネジが折れてしまっています。
前側が2本が折れているということは、極端に後ろに体重が
掛かったのかと思います。

この場合は新たにネジで固定するのですが、
ネジの位置というのはほぼずらせません。
ずらして打ちたいのですが、ずらすとヒールを貫通して外観に
でてしまう可能性が高いです。

ヒール付根部分が小さいので、その中で収まるように
ネジを打ち込むとなるとネジの角度や深さは限られています。

ちなみに中央部分に打てそうですが、この部分にはヒール内部に
鉄パイプが貫通されていますのでネジが当たって入りませんし、
中底面にはシャンクという鉄のプレートも施行されていますので
太さのあるネジを貫通させることが難しい状態となっています。

木材でもそうですが、一度開けられた穴に再度ネジを固定すると
当初よりは若干締まりが劣ります。

今回は元の太さより気持ち径が太めのネジを使用し
ネジの食い付きを良くした状態で固定することにしました。

ただヒール固定をご依頼頂く際にはお伝えしておりますが
一度外れてしまったヒールの場合は、以上の理由で
元の強度で固定できない場合が多いいので、
走ったりと階段を駆け下りたりなどの極端な負荷が掛かるような
使用はお控えくださいと。
(万が一外れてしまって、怪我をしてしまっても一切保証はできませんので)

なお、ヒール交換、オールソールなどでヒール自体をを新しく交換して
取付ける場合は問題ありません。

以上の理由でできればヒールは外したくないのでありますが
ヒールに巻かれている革を巻き替える際は、外さなければなりません。

スムース革の場合は、本体の下に巻き込まれていますし、
スタック革巻きの場合は、表面を削って整えるのでヒールを
本体から外さなければなりません。
20180428038
ただ画像のようなスタック巻きという革の場合は
下側であればヒールを外さずに部分的に巻き直して補修することが可能です。

だいたいヒールが傷つく場合は下側が多いかと思います。
路上の側溝や階段などの何気ない溝や段差にヒールが挟まったり…

まずは傷ついてる範囲でスタック革のスジに添ってカットします。
20180428039
20180428040
このスタックと云う革は、板状の革を縦に重ねて
それを薄くスライスして作っているのだと思います。
箱根寄木細工は横方向にスライスしていますが、
これは縦方向にスライスしている感じです。

わざわざなんでこんな素材があるのか、ですが、
もともと紳士靴でみられるような積上げを表現する為なのだと思います。
20180319242018031923
婦人靴でも大昔はこのように革を一段ずつ重ねて作っていた
時代もあるようですが、製作は大変ですしヒールが細いと
革を積んだ構造では耐えられないので形状に限界もあります。
その名残が現在のプラスチックヒールに巻き付けるこの仕様なのだと思います。
では巻き付けます。
20180428041
製品もプラスチックのヒールにスタック革を巻き付け
表面を綺麗に削って整えているので、革の厚み合わず段差ができます。
段差を合わせつつ削り、革の表面を整えていきます。
革の表面は削ったままだと毛羽立っていますので、
コテなどを使って絞めてゆきます。
2018042805220180428051
あとは茶色に染めてリフトを付けたら完成となります。
すでに染まっている部分も軽く染めて小傷を目立たなくさせ、
合わさり目の色が合うように色を重ねる回数を調整します。
2018042805620180428053
巻き直しても、初日に階段ぶつけてしまったら…悲しいですね。
ですので部分補修、巻き替えの場合はかなり痛んでからの
ご決断でも宜しいかと思います。

ぶつけて表面がめくれてしまったような状態の場合は、
めくれた革がきれいに残っていれば、その部分を接着して
少し目立たなくもできます。

ちなにみ少し前にテレビで紹介されていた
不死身のパンプスといわれる、FAMZONの付け替え出来るパンプス。
これだとヒールが傷ついたらヒールごと交換できるのでいいかもしれません。
ヒールの固定はワンタッチでカチッとできるようなので簡単みたいです。


01
FAMZON HPより
固定強度は問題ないということですが、例えなリフトが擦り減って
土台部分まで斜めに減ってしまった状態で、歩かれるご婦人方は
多数いらっしゃいますが、そのような本来の角度とは違う接地角度で
歩行してしまっている場合でも強度保証の想定内なのかとちょっと心配です。
ワンタッチ構造って、本来と異なる角度で負荷が掛かると
割合簡単に外れてしまったり、割れたりするものですから。

また詳細は分かりませんが、HPを見る限り8.0cmヒールと6.0cmヒール
どちらの高さでも本体に共用で取付けられる?ようですが
2.0cm高さが違うのに大丈夫なのだろうか…

2.0cm違うと踏みつける位置が前後するので、本体がどちらの設定で
設計されているかによりますが、どちらかの高さのヒールでは
歩行の際に履き口が広がって足が抜けやすくなってしまわないのだろうか…
などなど気になる部分がありますが、ヒールと本体で色や素材の組み合わせが
できるので面白そうです。

ただヒールは付け替えて不死身かもしれませんが、
肝心の減りやすいつま先が不死身ではないので、
当店にて不死身のハーフソール仕様にして頂ければと思います。
なお、このFAMZONの靴のリフト交換は出来ないかもしれません。
内部の構造が通常とは異なりますし、ピンの太さも特殊な感じがしますので。
または交換できても、他店にてリフト交換した場合は
ヒール固定強度の保証外なんてこともあるかもしれませんので。
HPアイコンロゴアウトライン


ampersandand at 13:05|Permalink