オールソール

2019年11月22日

手を抜いてオールソールをするお店。 ウェルト交換篇

ウェルテッド製法のオールソールというのは、通常は
摩耗した革底(ヒールを含む)を取り外し、縫われていた古い糸を
すべて抜き、新しい革底を取り付けて再度元の穴に出し縫いを
行なえばいいのですが、手を抜いて、いい加減に修理するお店で
オールソールしてしまうととても面倒なことに巻込まれてしまいます。

こちらの靴。
革底はラバーソールとつま先補修ですでに部分補修されていますが
それ以外は特に痛んでいるところはない感じですが、
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お客様曰く、ここが…と。
踏まず部分がソールが分離してしまっています。
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踏まず部分のすくい縫いの糸が切れてしまっています。
すでに一度オールソールしてあるとのこと…。
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画像では分かり難いのですが、狭いコバの幅に縫い目が二列できています。
二列のところもあれば重なってしまっている部分もあります。

ウェスコなどのワークブーツ系のコバ幅が広い靴の場合では
出し縫いをもともと二列行なう仕様の靴もありますが、
(その場合一列はステッチダウン製法の縫い目)ビジネスシューズで
しかもこのコバの張り出しで二列縫うというのはあり得ませんので、
とうことはどういうことでしょうか…。

そうです、古い革底を剥がしたら元々ある縫い目の糸は抜かずに、
そのまま新しい革底を取り付け、元の縫い目はすでに糸で埋まっているので、
すこしずらしてもう一列縫ってしまっているという事になります…。

このような悪質な修理をされた靴というのは年に数足は
持込まれますが、このパターンもよくある事例です。
では分解。
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残っている出し縫いを擦り切って革底を剥がしていくと
むむっ、かかとの部分で革底が分離…。
革底が継いでありますね、これは話で聞いた事はありましたが
実際に行なっているところがあるとは…
もしかしたら70歳くらいの職人さんが修理した靴かもしれません。

というのは靴学校で教わっていた際の戦後の靴職人さんの授業で、
革底の長さが足りなかった場合には、このように継ぎ足す方法もあります、と。

その時はそれはないだろう、と作業を観ていましたし、
そもそもそんな手間の掛かることをわざわざしないし
長さが足りないってどういうこと?と思いつつ授業は
進行していきましたが。

恐らく戦後だと革底は充分に流通していないとか、
オーダーの革靴の需要が高く次から次へと依頼があり、
とても儲かった時代という話でしたので、材料が間に合わず
足りなかったからか?なんでしょうか。

しかし今は革底が枯渇している時代でもありませんし(年々高騰していますが)
革底問屋にネットで注文すればすぐに届きますし。

恐らくどのお店でも令和の時代にはしていないと思います(今回のお店以外)。
先程も云いましたが、わざわざ継ぐ加工を行なう方が手間ですし
かかとのちょっとを継いだからといってコストも変わりませんしね。

または出し縫いの感じからすると、かかとの継いでいる部分は
そもそも交換していず、古い革底をカットして残しているか可能性もありますね。
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継いでいたからか?とも疑いたくもありますが恐らく関係は
ないでしょうが金属製のシャンクが折れていました。
シャンクとは浮いている踏まず部分を支える為にヒール部分から
踏まず部分にかけて取り付けられている靴の背骨のようなパーツです。
靴によっては入っていないものもありますし、木材だったり樹脂だったり
と素材も色々です。
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踏まず部分以外でもすくい縫いの糸がやはり切れていますね。
二列、しかも元の縫い目より内側に縫っていましたので、
そうなると完全にすく縫いの糸を出し縫いで貫通してしまいますから。
赤矢印は元々の縫い目で黄色矢印が新しい(縫い足した)縫い目。
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そもそもウェルテッド製法という靴の構造が分からないと
この話の意味が伝わらないと思いますので以前の記事でも使用した
概略図を。
ウェルテッド製法2
ウェルテッド製法
今回の靴状態はというと、古い革底は剥がしたのですが、その際に
古い出し縫い(みどり部分)の糸を抜かずに新しい革底を貼付け、
古い縫い目より内側(本体側)に抜い足しているので、
本体とウェルトを縫い付けているすくい縫い(赤い部分)を貫通してしまい、
すくい縫いの糸が切れてしまっているという状態になっています。
通常は、もとの出し縫いの糸を抜いて同じ穴に縫い直す事になっています。

結局そのお店では糸を抜くのをめんどくさがり、しかし縫う場所がないので
外側にははみ出してしまうので縫えないので内側に寄せて
縫ってしまっているという事です。
場所によっては内側に縫う事もできず逆に外側に膨らんでしまったり
同じ位置に重なって縫ってしまったりなんですが、ひどいものです。
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ウェルトを外した状態。
中底面から開けられたすくい縫いの穴が見えます。
この穴に新たにウェルトをすくい縫いして取り付けていきます。
すくい縫いですので、名前の通りすくい針でそれぞれのパーツをすくうように
針を刺して縫製していきます。
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つま先部分は穴の間隔が寄るので糸が食い込みすぎないように
別の糸を縫い目に絡ませて締め付けていきます。
今回の靴はミシンでも縫製できるように開発された
グットイヤーウェルテッド製法の構造になっていますが、
なぜだか手縫いですくい縫いが行なわれています。
そして一般的なすくい縫いの縫い目のピッチよりなぜか
細かく縫われているので、縫い直す時間も1.5倍くらい掛かります…くぅ〜。
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かなりの力で糸を締め付けていくので麻糸が指に食い込んで
皮が裂かれてしまうので革サックを要装着です。
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かかと周りのウェルトはオリジナル通りにアルミの釘でカシメて固定しています。
ウェルトをが付いたので、後は通常のオールソールの手順と同じになります。
今回はシャンクが折れていたので焼きの入った硬い金属のシャンクに交換し、
コルクも詰め直して革底を取り付けて出し縫いを行い完成となります。
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ウェルト交換というのは今回のようにすくい縫いが切れてしまっている
靴の場合に必要になる補修行程ですので通常のウェルテッド製法の靴では
革底の交換のみ(ヒール部分も含みます)ですので必要はありません。

ウェルトも交換した場合はオールソールの倍ぐらいの費用が
掛かりますので、お見積もり後のご依頼率は65%ぐらいでしょうか。
なにせもう少し費やせば新しい靴も買えてしまいますので。

今回の靴は確か彼女に買ってもらった靴ということでしたので
特別思い入れもあったということでした。
本体の革も特に履き皺が痛んでいるとかダメージも無く、
底周りが新しくなればまったく問題なく履き続けられますし。
*本体の革が劣化して亀裂が複数入っているなどの場合はお勧めしません。

ちなみに今回の靴のようにコバがあるような靴が、全部ウェルテッド製法の
靴ではないのでご注意ください。
マッケイ製法やセメンテッド製法でも飾り押渕といって、飾りで同様のコバが
付いている靴もありますので。
AFTER
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ハーフソール・ビンテージスチール併用仕様になります。
持込まれた際の靴の状態は、オールソール後に靴底(つま先)が摩耗し
ハーフソールが取り付けられたのですが、つま先だけ早い段階でラバーが摩耗し
その後つま先だけ再度補修していると思われる状態でした。

であれば、そもそもオールソールの時点でハーフソールスチール併用仕様に
しておけば革底は摩耗しませんし、底縫いの糸も切れません。

ですので、当店で革底でのオールソールをご依頼される90%の方は、
オールソールの際には、ハーフソール・ビンテージスチール併用仕様を
オプションで装着されております。
初期投資はかかりますが、長い目で見るとランニングコストは抑えられます。

ハーフソールが取り付けらているので、底縫いの糸は擦り切れませんし
土台の革底も擦り減る事はありません。
(路面の雨水を吸い上げてのアッパーに雨シミもでき難いのです)
それぞれ摩耗した段階でハーフソールとスチールは部分的に交換できます。

基本的にこの仕様であれば今後はオールソールの必要は無くなります。
ですので長く履くのであればとても合理的な修理かと思います。

ちなみにですが今回のようなすくい縫いが切れてしまうというのは
縫い位置に問題が無くても通常の使用でも加重に耐えられず糸が
切れてしまうという事もあります。
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後ろの人にちらりと見え隠れする赤い靴底が憎いですね…。
かかとを革付きのダヴリフトなどにすると赤く染められますが、
耐久性重視でvibramのラバーリフト仕様になっています。
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ちなみにこちらもウェルト交換になってしまった靴。
ご依頼時点ではすくい縫いが切れている事が分からなかった靴です。
オールソールはまだ行なった事が無く既製品の状態です。
分かりますかこの異常な状態。
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出し縫いが漉い縫いの内側を縫ってしまっています。
黒い点々が出し縫いの断面で外側にある白い線状の縫い目がすくい縫い。
位置が逆転していました…、あり得ない状態です。

もちろんこの場合も革の中を通過しているすくい縫いの糸を
貫通してしまっているのでNGです。
貫通していると革底を剥がすまでは糸同士が噛み合っているので
逆に糸が緩まずにウェルトが外れて見えない場合があります。
ですので「ソール交換で」、と受付して革底を剥がしてみたら
ウェルト交換が必要なってしまうというパターンもときどきはあります。

といっても、すくい縫いに出し縫いが貫通していない靴を探す方が
難しいかもしれません。
ところどころでも貫通してしまっている靴は普通にあります。
部分的にすくい縫いが切れている場合は、サービスで勝手に縫い直しています。

これは靴の高い安いに関係なく、例えば10万前後するクロケットジョーンズ
なんかでもしばしば貫通しています。
ひどい場合は出し縫いが逆に外側を縫い過ぎてしまっており
コバからはみ出してしまっているクロケットなんかもありました。

その靴が検品を通って市場で販売されているというのも問題なのですが。
クロケット特有のウェルトに切れ込みを入れて出し縫いを行なっているのが
縫い目の位置が悪い要因の一つかもしれませんが。

または靴のデザイン的にしゅっとした感じなので、そうなるとコバの
張り出し具合が抑えられる傾向にあるので、そもそも出し縫いをする
スペースが限られしまい、すくい縫いを貫通するような位置で縫製する
ことになってしまっているのかもしれませんね…。


今回もソールを剥がすまで分からず、後になってウェルト交換の必要が
生じてしまったのですが、これは私としてはとても申し訳ない状態です。

「オールソールで依頼したのにウェルト交換も追加なんて聞いていないよ!」
とお客様は思うでしょうしきっと…。

それに摩耗した靴底の交換と違い、ウェルト交換しても
見た目の仕上がりとしては、お客様が仕上った靴を見ても違いは
分からないのも問題なのですが。
(もちろん分かる人が見れば分かりますが)

例えば私がブラック店主であれば、ウェルト(すくい縫い)が壊れていないのに
交換する必要がありますと云って、ウェルトは交換せず
ソールだけ交換してウェルト交換の費用も請求する事もできてしまいますから。

ですので今回もお電話で、こうこうこうでウェルト交換が必要になります。
で、メールで壊れている状態を画像で送りますので確認されてください…
と、本当に交換が必要なんですアピールをさせて頂こうとしていると、
(もちろん追加費用も掛かってしまいますし、このままキャンセル
ということもできますともお伝えしております)

お客様:
「画像は見なくて大丈夫です、前回依頼した靴の仕上がり具合で
 信用しているので、そのまま進めてください」と。

店主:
「あざーすっ!」

「信用する」ということがなかなか難しい時代に、
確認もせず信用して頂けるというのはとても有り難いことです。

こちらの靴はかかとにウェルトが無いシングル仕様。
ウェルトは革底を縫い付ける縫い代と考えて頂くと分かり易いと思います。
ウェルテッド製法というのは、直接本体に革底を縫い付けないので
ソール交換の際の靴本体へのダメージが少ない(交換が容易)という
考えにより考案された製法になります。

しかし今回の事例のように、ちゃんと設計しその設計通りに製造しないと
かえって手間の掛かる製法になってしまうという事にも。
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左はウェルト縫い付け前、右が縫い付け後。
靴の周囲の張り出したウェルト(コバ)に、底面に貼付けた
ソールを垂直方向に縫い付けて固定するのがウェルテッド製法の構造になります。
底縫い後、ウェルト共々ソールを削り込み、靴のアウトラインを仕上げます。
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完成。
こちらはダイナイトソール仕様。
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基本的に当店ではウェルト交換は受け付けていないのですが、
というのウェルト交換をするには、糸作りからはじまり色々とやる事が多く、
また他の修理のように同時進行で数足の靴のリフトの交換、ハーフソール等々を
進める事ができず、ひとり店主の私が一足に係っきりになってしまう為、
他の修理品の進捗に影響が出て来てしまうので基本的にお断りしておりますが、
作業の途中で発覚!なんてことになると、途中で投げ出すというのは
あり得ませんので付きっきりで仕上げております。

ですので当店ではお時間が掛かってしまうので、ウェルト交換が
必要な方はスタッフが大勢いる規模の大きなお店でご依頼された方が
宜しいかと思う次第な今日この頃…。

ampersandand at 16:37|Permalink

2019年02月21日

普段やらないウェルト交換 A . MANETTI  半カラス篇

前回までのあらすじはこちら
A . MANETTI  分解篇
A . MANETTI  ウェルティング篇

底付けが前回までで終わりましたので、残すはヒールの取付けと
底面の仕上げになります。

ヒールの積上げ
一段目は靴底の丸みが強いので、取り付けた積上げ革の
膨らんだ中央部分を削り落として平に加工します。
その後、ヒールの角度を見ながら今回は三段積上げし
最後にダヴリフトを取付け化粧釘を打ち込みます。
ウェルト交換015ウェルト交換014ウェルト交換013

つま先部分はビンテージスチールをセットするので
その厚みの段差を加工しておきます。
既製品でスチールを取り付ける為にこの加工をすると、
だいたいの靴は底縫いの糸が切れてしまいます。
(切れてもスチールを固定するビスで固定されるので問題はないのですが)

オールソールの際に同時にスチールも取り付ける場合は、
凹みの加工を行なっても底縫いの糸が切れないように
出し縫いがかかる溝を深めに設定し底縫いを行なっていますので
画像のように凹みを作っても糸が見えてきません。
ウェルト交換012
革底面の表面はバフ掛けして表面を綺麗に整えてあります。
整えて綺麗にした表面をふのりで磨いて艶を出します。
ウェルト交換011
踏まず部分は今回は半カラス仕上げでご注文頂いておりますので
ふのりを付けず磨かずに残しておきます。
踏まず部分を染めるのでマスキングをし染料で
いっきに染め上げます。
ウェルト交換009ウェルト交換010
ウェルト交換008
染料でダークブラウンに染めた部分には気泡や埃などが
どうしても付着してしまいますので、#1000くらいの
紙ヤスリでコキコキと表面を研ぎます。
ウェルト交換007
研ぎ上げて表面が平滑になりましたら、防水と艶だしを兼ねて
メンチュウロウを塗布し、温めた鏝で薄く溶かし広げ伸ばします。
その後、布で再度コキコキと余分なロウを取り除き
艶が出るまで磨き上げます。

そうこうしましてようやく完成となります。
踏まず部分はオリジンルではウェルトが削られ接着のみで
縫われておりませんでしたが、しっかりと縫って仕上げております。

ですので、その分出し縫いの際にはウェルト部分の幅が
必要になりますので、踏まず部分のくびれは多少横幅がオリジナルよりは
広くなっている設定になります。

といっても充分踏まず部分はくびれているとは思うのですが、
どうでしょうか。
ウェルト交換006ウェルト交換002
ウェルト交換005
190219-1
これだけ磨き上げて仕上げても、一旦路上に出てしまえば…。
ですのヒドゥンチャネル仕様(半カラス仕上げ)に費用を掛けるより、
実質剛健なチャネル仕様でハーフソールスチール併用を
お勧めするわけなのですが…。

江戸っ子気質な、粋なヒドゥンチャネル仕様だなぁと思う
今日この頃…。

ampersandand at 23:52|Permalink

2019年02月19日

普段やらないウェルト交換 A . MANETTI  ウェルティング篇

前回のあらすじはこちら

前回はソールを剥がしてみたらやっかいなウェルテッド製法だったので
あら大変…というところまででしたので、
今回はウェルト取り付け篇ということになります。

まずは革底を縫い付けるためのウェルトを縫い付けなければなりません。
ただ通常のウェルテッド製法であればすくい縫いする穴が
ちゃんと見えているので大変ではないのですが、今回は
アッパーの革が被って縫い穴が見えないし、縫い穴も
中底に切り込みを入れた部分の奥底に…。
ウェルト交換063
穴の位置関係が分からないのでマチ針で確認…。
つま先部分などはピッチが変わっているし、先芯も入っているので
分かり難さ倍増です。

位置が分かったところですくい縫いしてウェルトを固定していきます。
ウェルト交換030
縫って…
ウェルト交換031
縫って…
ウェルト交換032
縫って…
ウェルト交換033
つま先でようやく半分折り返し…
ウェルト交換038ウェルト交換039ウェルト交換040
ウェルト交換041
縫い付けているウェルトは濡らしてあります。
濡らす事で柔らかくなってカーブなどは縫い付け易いのですが
濡らした状態でテンションを掛けて縫い付ける事で
乾燥した時には、ぱりっとウェルトがいい感じで張ってくれます。

かかと部分は一般的にはハチマキと呼ばれる別パーツを
取り付ける事が多いのですが、
今回はオリジナル同様に一周ぐるりとウェルトが取り付きます。
かかと部分は合理的にタックス(アルミの釘)で潰して
固定されていましたので同様に固定しておきます。

一周回してきましたら、ウェルトの端同士は互い違いに漉いてありますので
重ねて同じ厚みになります。
ウェルト交換037
ウェルト交換042
取り付けたのは靴の周りに張り出しているこの部分。
全部が全部このように張り出しているタイプは、
中底に縫い付けられているウェルテッド製法かというと
そうではなく、マッケイ製法やセメンテッド製法では飾りウェルトという
パーツを間に挟み込んでいるだけの仕様もあります。
ウェルト交換044
ちなみに下画像が一般的なグットイヤーウェルテッド製法。
縫い付ける部分の革が被さっておらず、段差部分がよく見えると思います。
これだとかなり縫い付ける手間は楽なのです、穴が見えていますので。
ウェルト交換048
今回の靴で不思議な点が一点。
靴には踏まず部分にシャンクと云われる主に金属製のプレートが
施行されてヒールと踏まず部分を支えている背骨のようなパーツがあります。
通常そのパーツは踏まずに添ったラインで取り付けられているのですが
今回はその反りが逆向きでセットされていました。
ウェルト交換046
ちょっと分かり憎いのですが踏まず部分が膨らんでいると思います、
一般的にはこの反りは逆反りでセットするのですが…
なにかこれに効果があるのかどうか分かりませんが、
MANETTI工房の考えなのでしょうから同様にセットしておきます。

一応持ち主さんに、「逆向きで入っているんですけどー」と
確認しましたが、元通りでOKということでした。

国産の工場ライン製造ものと違って、あちらの工房モノっていうのは
時々あれっ?という一般的な仕様と異なっている場合があるので
有りなのか、無しなのか、驚きと困惑の間で…という感じです。

ウェルトが取り付けましたら、中もののコルクを入れます。
ウェルト交換047
もともとは薄いスポンジが入っていましたが、柔らかすぎるので
コルクの薄めを入れて余分を削り落とす事にしました。

オールソールするまで履き込んでいるので、
中底には足型の跡がしっかりと付いています。
ですので、これ以上不必要に中底が沈下するのを
予防する意味合いも含めコルクにしました。

次に革底を取り付けてヒドゥンチャネル仕様の加工を行ないます。
この加工は恐らく靴でしか行なわない作業だろうと思います。

ですので受付の際にこの部分の処理を口頭でご説明しても
イメージできず???と思われる事がしばしばです。
ヒドゥンは隠す、チャネルは溝、溝を隠す仕様と云う事になります。
ウェルト交換022
革底の端に革包丁を差し込んで15.0mmくらいの幅で厚みは1.0mmくらいで
革に切り込みを入れていくイメージでしょうか。
お刺身をおろす時に、おろしきらない感じでしょうか。

靴底もつま先側や踏まず部分でそれぞれ底面の丸みが異なりますので、
それに合わせて差し込んでいる包丁の角度も微妙に変えながら
切り込んでいきます。
ウェルト交換023ウェルト交換024
切り込みを入れ終えたらその部分を起こします。
端は薄く奥は厚めにというイメージで包丁を入れ込んでいますので
端の部分は革がひらひらするくらい薄くなっています。
革を起こした部分に溝を掘り、その溝に出し縫いを行います。
ウェルト交換025ウェルト交換028
革底での交換の場合、その多くはチャネル仕様、革底面に底縫いの縫い目が
見える仕様でご依頼されますが、
このヒドゥンチャネル仕様というのは当店の場合、
年に数件程度ご依頼があります。
ごく僅かなのは、私がお勧めしないということと、
手間が掛かるのでその分費用も割高になるのが理由かと思います。

お勧めしないのは、ヒドゥンチャネル仕様にするのであれば
チャネル仕様にハーフソールスチール併用仕様を
オプションで付けられた方が、それより費用は安くなりますし、
耐久性も格段に良くなるからであります。

費用が高い方を進めないというのは経営者としてはまずいのですが…。
といっても今回のご依頼主さんのように、
私が懇切丁寧に併用仕様のメリットをご案内しても、
「ヒドゥンチャネル仕様で。」という方もいらっしゃるのですが。

しかもつま先にはスチールを付けないということでしたので
そこは説得して付けて頂きましたが。
オプション追加を説得する経営者というのもいかがなわけではあるのですが。
しかしつま先がすぐに減ってしまうのは目に見えていましたし、
現に今まで修理された靴はすべてつま先がやられていましたので。
(歩き方によってはつま先が余り摩耗しない方もいらっしゃいます)

ウェルトと革底に出し縫いを掛けましたら、
今度は先程起こした革を伏せて縫い目を隠していきます。
ウェルト交換029

疲れ目で瞼がぴくぴくとしてきましたので、
今回はここまでと致します。

次回は仕上げの「靴底お化粧篇」になります。

ampersandand at 19:15|Permalink

2019年02月04日

普段やらないウェルト交換 A . MANETTI  分解篇

今回ご依頼品の靴はウェルト交換の必要があったのですが、
履き過ぎて擦り減った事が原因ではなく
もともとの靴の設計に問題があったのかもしれません。

今回の患者さんはこちら
ウェルト交換050

以前リフト交換の際にご相談を受けていたのですが、
これはその時期になったらオールソールできますかと。
ウェルト交換052
初見ではウェルトの幅が狭過ぎていて、縫い目が端ぎりぎりで
縫われ過ぎているので、ん〜。
ウェルトの幅もほぼこの縫い目一本分のスペースしかありません。
端を縫い過ぎているのでコバ側面には、縫った糸の厚みで
断面がもりもりと凹凸が見えてしまっているぐらいのぎりぎりさ。

ソール交換には新しく革底を取り付けてからウェルトと一緒に
貼り合わせ部分に凹凸が無くなるように側面を削りますが、
(削ると云っても何ミリも削るわけではなく、1.0mm以下程度)
その際に縫い穴が端に設定され過ぎていると穴が貫通してしまいます。

どういう事かと云いますと、略図ですがこんなイメージ。
コバ断面
A・交換前の状態、縫い穴が端にあり過ぎています。
B・ソールを取り付けて段差を削っていくと、穴がでてきてしまいます。

伝わっていますでしょうかこの感じ。
例えばDIYで木材を貼り合わせてその境目の段差が目立たなくなるように
ヤスリで互いを繋げて削ると思うのですが、そんな感じです。
削るというか表面をならす行程です。

ですのでこの状態ではソール交換の際の出し縫いができない
可能性がありそうですねと。

で、月日が流れその時期になり持ち込まれた靴をみてみると
むむ、漉い縫いが切れて、いやウェルトの縫い穴も裂けていますね…。
ウェルト交換051
こうなってしまうと出し縫いうんぬんではなく、ウェルトと本体を
固定している漉い縫いの穴が裂けてしまっているので、
ウェルト交換から行なうしか方法がありませんが…費用がかなり掛かります。
ウェルト交換+オールソール交換費用になりますので。

まずは分解。
積上げを外して、残った出し縫いを削り革底を剥がしていきます。
ウェルト交換055ウェルト交換056
踏まず部分に縫い目がありませんね。
ウェルト部分が絞られて出し縫いが見えていませんでしたので
ベベルドウェスト仕様かなと思っていたのですが、
単純に縫っておらず接着のみの仕様でした。
ベベルドウェストというのは、ウェルトまたは本底を薄く加工して
巻き上げて包み込む仕様になりますが、詳細は割愛致します。

ソールを剥がしてみたところ、グットイヤーウェルテッド製法ではなく
ハンドソーンウェルテッド製法ということが分かりました。
ウェルト交換057ウェルト交換058
ウェルトの幅が狭っ!!
あとで新しく縫い付けるウェルトと比べて頂くと
恐ろしく狭いのがお分かり頂けるかと思います。
ウェルト交換059
この設定ってウェルテッド製法で作る意味が無いような気がします。
そもそもウェルテッド製法というのは、何度もソール交換し易いように
考案された製法なのですが、このウェルト幅だと交換する際の
出し縫いで漉い縫いの糸は必ず裂けてしまいますし、
といいますか現状の状態でも漉くい縫いと出し縫いの位置が同じなので
すでにそうなっているのですが…

ですので結果的に履き込んでいくとその負荷で糸が徐々に
裂けてしまったのだろうと思われます。

本体から出ている糸はウェルトと中底を縫い付けていた糸になります。
ウェルト交換060ウェルト交換062ウェルト交換061
本体とウェルトを分解。

ここまででいったいそれがどのような状態なの?と
イメージが付かない方もいらっしゃるかと思いますので
略図を作ってみました。
略図はこんか感じで靴をカットした断面図イメージとなっています。
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まずは一般的なグットイヤーウェルテッド製法。
グットイヤーウェルテッド製法というのは、
それまですべて手縫いで行なわれていた作業を、
19世紀後半に発明されたミシンで、手縫いでしかできなかった行程を
一部仕様変更することで、代わりに縫製することが
できるようになった製法になります。

リブと云われる綿テープ(黄色)を中底に接着し、
そのリブと本体の甲革とウェルト(水色)を横方向で縫製しています。
そしてウェルトと革底を縦方向に出し縫い(緑色)で縫製しています。
オールソールとは、この出し縫い部分からやり直す行程になります。
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リブを取り付けているので、その分、革底との間に空間ができてしまいます。
この空間に5.0mm厚程度のコルク(オレンジ色)などで充填して埋めています。
ですのでグットイヤー製法の靴はコルクという厚いクッションが
入っていますので、履き込んでいくと自分の足型にコルクが沈みこんで
馴染み易いと雑誌などで謳われています。

ここで少しイメージして頂きたいのですが、沈むということは…
そうです、靴内部の容積が増えると云う事ですので、
結果、履き込んでいくとサイズが大きくなるという事にもなっています。
ですので、特にウェルテッド製法の靴の購入の際には、
その事を念頭において購入する必要があると思います。

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次にハンドソーンウェルテッド製法というのはミシンを使わずに
その名の通り、すべて手作業で行なう製法になります。
グットイヤーとの違いは手作業かミシンの違いというだけではなく、
同じウェルテッド製法ではあるのですが構造からして違っています。

グットイヤー製法では中底にリブを貼付けていますが、ハンドソーンの場合は
革中底自体を加工し、直接ウェルトを縫い付けています。
その為、コルクをいれるような空間は少ないので
今回の靴では薄いスポンジを入れてありました。
ですのでハンドソーン製法はグットイヤー製法に比べると、
中底の沈み込みは少ない傾向にあると思われます。
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革底に溝を作りその段差を利用しウェルトを漉うように縫製していきます。
略図では省力していますが、掘った溝は漉い縫い後に元の革で埋め戻します。

リブを別パーツで取り付けないので、ハンドソーンウェルテッド製法のほうが
グットイヤー製法より靴底の返りはいいとされていますが、
実際はどうなのでしょうか、わたしには判断がまだ付きませんが。

同じ材料で靴を作って、右はハンドソーン、左はグットイヤーというような
実験ができれば判断ができますが、違う靴で比べてもしょうがないですし。
革底や中底の厚みや甲革の硬さなどなどすべて設定が違うわけなので。
どこかのユーチューバーが実験してくれたらいいのですが。
その際は履き心地という主観的なものではなく、なにかの計測器で
靴底の屈曲率みたいな感じで計測してくれるといいのですが。
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で次に今回の靴もハンドソーンなのですが…また厄介な代物でした。
通常は漉い縫いする段階で余分な釣り込みシロの
甲革はカットしておくのですが、
今回の靴は甲革が残ったままで底面に被っていました。
漉い縫いの穴が見えないではないですか…。

そして漉い縫いする溝もなく、中底に切り込みを入れたところで
縫製している仕様になっていました…。
漉い縫いの穴がまったく見えないではないですか…。

で、先程のウェルトの幅が狭く出し縫いの糸と漉い縫いの糸が
同じ位置で縫製されているという状態が断面図で分かるかと思います。

こんな設定ではそもそもオールソールできないじゃん…ていう感じです。
なのでウェルテッド製法で作っている意味がないじゃん…と。

その弐に続く…



ampersandand at 23:46|Permalink

2018年11月25日

壊れすぎていないオールデンを治してみる。 ハーフソールかオールソール、どちらにするか問題。

前回のオールデンの修理と比較するとだいぶ軽症ですが
軽症なのでオールソールするか、部分補修(ハーフラバーソール)とするべきか
判断に悩む状態の今回のオールデン。
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前回のオールデンはこちら
「壊れすぎたオールデンを治してみる。 分解篇」
「壊れすぎたオールデンを治してみる。 裂け補修篇」

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悩みどころは革底が剥がれてこないかどうか。
特にウェルテッド製法の場合は特にそうなのですが
底縫いの糸が切れていると革底が剥がれてき易い場合があります。

ウェルテッド製法の場合は、中央にはコルクが充填されており
この部分は接着強度は求められません。
ですので革底との接着されている部分は実質
ウェルト部分の幅、1.0cm幅程度の面積となっているのが
剥がれ易いその理由となります。
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つま先はすでに他店でラバー補修されていましが、
ダブルソールのオールデンですので、履き始めは特に靴底が返らず
つま先が極端に摩耗したので早々修理されていたのでしょう。
貼られていたラバーを取り除くと…
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糸も完全に擦り切れていますので、ぱっくりと。

当店で底縫いの糸が擦り切れた状態でラバーや革素材で
つま先の補修をする場合は、補修部材を取り付ける前や、または
補修部材と一緒にビスでベース部分に固定するようにしています。
糸が完全に切れた状態の土台に補修部材を貼付けても
ベースになる部分がウェルトから剥がれてしまえば意味がありませんので。
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つま先部分の糸切れについては、ビスで固定できるので切れていても
部分補修という手段はとれるのですが、それ以外の部分、
特に屈曲部分の糸切れについては判断に悩みます。
上画像では周囲に縫われている糸目が擦り切れて見えなくなっています。

下画像はちょうど接地する部分の境目に糸が
擦り切れてなくなっているのが分かるかと思います。
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この状態からハーフラバーソールを取り付けるとなると
糸が切れている状態ですので、徐々にだったり何かのタイミングで
貼付けた土台となる革底が、先程のつま先部分のように
本体(ウェルト)から浮いてきてしまう場合があります。

ハーフラバーソールを貼付けたから剥がれたというよりは、
すでにある程度履き込まれている状態(糸が切れている)ですので、
貼っても貼らなくてもその時期だったという感じでしょうか。

また後ほど触れますが、オールデンの場合は新品の状態でも
本底、ミッドソール、ウェルトとの間が浮いてきている(ずれている)
場合が多く、底縫いでそれぞれを固定し、接着は底縫いを行なう際の
仮固定という位置づけの仕上げのようです。

では底縫いの糸が切れているからすぐに剥がれてくるかというと、
剥がれてくるものもあればこないものもあったりなかったり…。
また底縫いが擦り切れて、糸の断面がまだあるような状態ですと
その状態でハーフソールを貼付けると、糸の断面がハーフソールの
接着面に固定されますので、案外そのまま固定できるという場合もあります。

いずれにしても、このような場合によくお客様に尋ねられるのは
「どうですかね、剥がれてしまいますかね?」と。

店主の答えとしては、
「糸のみぞ知る…」
とはぼけられませんが、「どうでしょうかね〜」としか
お答えができません。

で、今回は…
まだまだ履き続けたいので「確実なオールソールで。」
ということになりました。
その場合は革底で行なうと、今回のように悩ましい経過を辿ってしまうので
ハーフソールビンテージスチール併用仕様(現役最強仕様)で
始めから万全の体制を敷くことになった次第であります。

それでは分解。
前回の瀕死のオールデンと違い、イレギュラーな事故も起こらず
いつもの手順とおりに。
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トップリフト(ダヴリフト)を外して
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積上げと下ハチマキを外して革底がでてきましたが、
ほぼ接着剤は塗布されていない状態です。
その代わりに、それぞれの段階で数種類の釘が使用され固定されています。
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老舗のメーカーの靴に多いのですが、ウェルテッド製法という作りは
そもそもオールソールし易いように考案された作り方ですので、
なのでオールソールの際にばらし易いように仮固定程度の
接着で済ませるという考えもあるかと思います。

また、昔は接着剤の効果が低くそれだけではそもそも固定できないので
革底は底縫いで固定し、かかとの部分は釘(木釘)で一段一段
固定するという考えがメーカーのよっては現代でも脈々と受け継がれて
いっているのかもしれません。

1884年にオールデンが誕生した頃のような路上が土ではなく
アスファルトで舗装された現代の路面では、底縫いの糸も
擦り切れ易いので、そろそろそんなメーカーは接着剤の使い方については
再考の余地はあるのではないでしょうか。

本底を剥がすとダブルソールですのでミッドソールがあります。
本底とミッドソールもほとんど接着されていない状態です。
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ミッドソールを剥がすと充填されたコルクが見えてきます。
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前回の瀕死のオールデンと異なり雨水の侵入も見られず
シャンクも錆びておらず鈍色の綺麗なままです。
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この後は、底縫いの糸を一目一目抜き、コルクを入れ直し、
ミッドソール、革底を取付けて出し縫いし、かかとを積上げていきましたら…

三分クッキング的な感じですが、完成となります。
AFTER
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ハーフソールビンテージスチール併用仕様で
リフトもVIBRAMラバーリフトですので
耐久性とランニングコストを踏まえた現代最強仕様となっております。
この仕様であれば、底縫い糸が擦り切れると云う事は無いので
革底が剥がれてくる事もありません。

摩耗した段階でそれぞれ、ハーフソール、スチール、ラバーリフトを
部分交換していって頂きますと、オールソールの必要は今後ないかと思います。

オールソールの段階だけではなく、新品の段階で
ハーフソールスチール併用仕様を行なえば同様の仕様になります。

今回はアッパーの状態もよく、履き皺の割れや小指部分の裂けなどは
見受けられませんでした。
(かかと内側の擦り切れはありましたが、補修対応で改善)
例えば、履き皺のひび割れ、革の硬化などアッパーの痛みが見られた場合は
オールソールはあまりお勧め致しません。
(なので前回のオールデンはお勧めしなかった訳のですが…)

底周りをオールソールで新品状態に戻しても、後に
アッパーが裂けたりしてしまうと、補修できても縫目が目立つところに
出来たりと見栄えが悪くなりますし、修理できない場合もあります。

ですのでそのようなアッパーの状態が悪い場合には、
オールソールではなく、部分補修で応急処置し、
「履けるところまで履く」というアドバイスになると思います。

ということは末永く愛用するには、日々のアッパー(本体の革)の
お手入れが重要と云う事なのですが(履き始めの時から)。
面倒であれば、屈曲部分(指回り)だけでもいいので、定期的に
保湿を行なってみて頂ければと思います(雨で濡れて乾いた後には特に)
*保湿といってもミンクオイルは使用しないでください。

面倒くさがりやさんにはレザーローションがおすすめです。
無色なので色を気にせず使用できます。

当店でも乾燥気味の修理靴には、乳化性クリーム(色付き)で磨く前に
こちらで保湿を行なってから磨いています。
この製品のみの使用でも、乾拭きすると程よく艶がでますのでいい商品です。

汚れ落としと保湿が同時にできるので面倒くさがりやさんには
もってこいです。
*使用には説明書をよくお読みになってお使いください。

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2018年11月17日

壊れすぎたオールデンを治してみる。 裂け補修篇

前回までのあらすじはこちら。
「壊れすぎたオールデンを治してみる。 分解篇」

今回は本体の裂け補修を行ないます。
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閂(かんぬき)部分から小指側面にかけての裂け…

閂の部分は負荷が掛かる部分ではありますが、
履く際には靴ひもが下段部分に通っておりますので
緩めていたとしても完全に羽が開ききるような状態にはならないはず。

ですので壊れるとすれば靴ひもを緩めて
立った状態でつっかけるように足を入れて履こうとする状態ですと
ベロの部分がぐっと爪先側へ倒されるので、閂部分に
一点集中で加重が加わり壊れてしまう場合があります。

靴を履く際には靴ひもを緩め、腰を掛けて履いて頂く事を
お勧め致します。
また立った状態で突っかけて履こうとすると、
かかとを踏んづけて潰してしまいがちですし。
今回のオールデンも軽く潰れています。

今回のように完全に断裂してしまうと、裂け目を合わせながら
縫製することはこの状態のままではできません。
元の位置に状態を固定したいのですが、固定するべき土台がありません。
また靴底の反発もあるので、ぐっと手で靴底を曲げていれば
合わさり目は近づくのですが、手を離してしまうと遠ざかってしまいます。

まずは比較的柔らかい裏革のみを手縫いで縢りながら
元の位置(状態)に縫合していきます。
アッパーのコートバンを押し広げ、その隙間から見える裏革のみを
たぐり寄せながら縫合します。

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隙間から指を突っ込み縫製しているので綺麗に縫えませんが
この縫製は表革のコードバンを元の位置関係に貼り合わせる為の
仮固定という具合です。
最終的にこの痛んでいる周辺には内側から革を宛てがい
それぞれ縫製し固定します。

これでベースとなる土台ができました。
アッパーを貼り合わせる前に、裏革と表革の間にナイロンを挟み込みます。
閂部分から裂け目に掛かるようにセットします。
ナイロンを挟み込みまとめて縫製する事で伸び止めの効果が期待できます。
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次にかんぬき部分を補修します。
かんぬき部分は、爪先側とかかと側のパーツの交差点です。
爪先側の表と裏革、かかと側の羽の表と裏革の合計四枚が
それぞれ互い違いに重なり合って縫製されています。

今回はそれに加えてナイロンなどの補強材も新たに挟み込んでいますので
スクランブル交差点状態です。

まずは下層のベロとのつながり部分をかがり縫い合わせ固定致します。
そして部分的に分解しておいた羽の付根を合わせ、仮固定しておきます。
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最後に内側から革を宛てがい補強致します。
小指側面部分から閂までを覆うようにセットし、
裂け目と閂と羽部分をそれぞれ縫製致します。
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加わる荷重をそれぞれの点ではなく、
革で補強した側面全体で受け止められるようなイメージです。

次にかかと内側の擦れ補修。
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かかとにはカウンター(月形)という芯材が固められて入っています。
(婦人靴では柔らかい芯材のもの、または入っていないものもあります)
これは不安定なかかと部分をホールドし、左右のぶれなどを制御してくれます。

ですので、かかと部分を踏みつけて潰してしまったり、
今回のように擦り切れて割れてしまう状態になってしまうと、
靴のホールド感は40%ぐらい低下してしまうことでしょう…。

わたし的には「かかとを踏んづけてしまう」というのは
あり得ない行為なのですが…。
iPhone Xを購入した日に、わざわざ軽く画面を割るような感じでしょうか。
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程度によって補修方法や使用する素材は異なります。
今回は摩耗が酷いのでえぐれている部分にまずは革を一枚宛てがいます。
状態によっては部分的に芯材を追加する場合もあります。

補強革でえぐれを補修し、このブーツのかかとの反りに合うように
型採りして作成した腰革で覆います。
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当店ではかかとの内側補修の際は通常履き口部分の縫い目は
見えなくなるように仕上げています。
かかとの内側を擦り切ってしまう方ですので、
縫い目は擦り切れないように隠してしまったほうがいいのでは?
という考えです。

画像は次回ご案内する予定の「壊れすぎていないオールデン」の
かかと補修のBEFORE/AFTER画像になります。
こちらは短靴ですので縫い目が見えない補修方法で行なっています。
BEFORE
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AFTER
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ブーツの場合は履き口部分が擦れる事は無いので、
また縫い目を隠す方法ですと、裏返しに縫製した革を
ひっくり返して内側に倒すので、ブーツでこの方法をとってしまうと
覆う面積が広く、内外の関係でひっくり返した内側に
皺がたくさんよってしまいます…って云われても??
と云う感じかと思います、その状態の画像があるはずなのですが行方不明…。

ですので今回は、少し仕上りの位置から革をはみ出しておいて、
縫製後にあまった革を縫い目の1.0mm隣りで、いちきりという道具で
さらう(切り落とす)方法で行ないました。

AFTER
レザーソール/レザーミッドソール/チャネル仕様/積上げ/ダヴリフト
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側面部分の補強革は黄色の範囲で取付け、かかとの補修は水色の範囲に
なっています。
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裂けていた部分はこんな感じ、ややピンぼけ。
黒い被写体は難しいです、ピントや露出が合わないな…。
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傷口は極力目立たないように塞がったのではないでしょうか。
遠目にはあまり目立ちませんし、日頃こまめに磨いて頂ければ
コートバン特有の照りで、補修の縫い目より輝く履き皺の艶が
先に目に入りますので。

裂け目は部分的に黒いコートバンで覆う方法も考えたのですが、
画像では分かり難いのですが、微妙にダークブラウン的な色合いにも
見える時があり、エイジングとお手入れのしなさ過ぎにより
色が不思議な感じに変化しています。
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ですので、仮にブラックのコートバンで被せても色がちぐはぐに
なってしまうかなというのと、今回はチャッカブーツですので
周辺にパーツを固定するのに利用できる縫い目がないので、
貼り合わせたそのパーツを囲うような縫い目がぐるっとできてしまいます。
そもそもブラックの在庫がないし、用意しても補修費用は
ぐっと跳ね上がってしまいます。
ボルドーのコートバンなら在庫はあるのですが。
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ソールはダブルソールですので、靴底が返り難く爪先が
摩耗し易くなりますので、ビンテージスチールをお勧め致しましたが、
「レザーで。」ということで。
リフトも当然耐久性の高いvibramラバーリフトではなくダヴリフトに。

当店としては持ち込まれた際の瀕死の状態からして、
日頃のメンテナンスを考えますと、ハーフソールスチール併用仕様で
VIBRAMラバーリフトをお勧めしたいところですが…。

ちなみにお渡しの際に履いて頂き、具合を確認して頂いたところ
とてもフィットして履き易くなったとのことで
そのまま履かれてお帰りになられました。

すくい縫いが切れたり緩んでいた状態でしたので、
裂けが無くても、それらの影響で外側へと広がっている状態
だったのだろうと思われます。

次回「壊れすぎていないオールデンを治してみる」篇に続く…。

ampersandand at 18:35|Permalink

2018年11月16日

壊れすぎたオールデンを治してみる。 分解篇

今回の患者さんはこちら。

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ざっくりと…。
ソールもコルクが流出し始めていて瀕死の状態…。
コルクが流出している状態で履いてしまうと、
中底が陥没、そして割れが発生してしまいますのでご注意を。
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かかと内側部分もだいぶやられていますね。
(修理された箇所がまた擦り切れて壊れていますね…)

修理店を渡り歩いてすでに三度オールソールをされているとのこと。
あと10年ぐらいは履きたいということですが…。

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かんぬきから小指側面への裂けは、革の硬化が原因です。
履き皺が段々によっていますが、あまり伸びずにこの状態で硬化しています。
(シューキーパーを使われていないとこのように皺が深くなってしまいます)

ということは、歩行の際の屈曲に革の収縮が追いつかないので
結果、羽の付根部分の閂に負荷が掛かりますので、
そこを軸に硬化し弱っていた小指側面部分にかけて
裂けてしまったのかと推測されます。
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コートバン(馬のお尻の革)は繊維の密度が高く強靭といわれていますが、
牛革と違い繊維方向が一定方向のようで
その方向へ負荷が掛かった際には裂け易いという傾向があるようです。
また革の仕上げ行程により水に弱いのですが…

今回は水に濡れて、乾燥してを繰り返し硬化してしまった革なので
余計に裂け易い状態にあったかと思います。
他にも定番の小指の腹部分と先芯との境目にも
亀裂が入っている部分がちらほら…。
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このような状態ですので、修理はあまりお勧めできない事と、
修理しても、今後アッパーの何れかの部分で再度壊れてきてしまう
可能性もありますとお伝え…諦められるかと思いきや
悩まれるご様子もなくご依頼頂いた次第であります。

まずは靴底を分解していきます。
底縫いの糸をグラインダーで削り切り、ソールを剥がしていきます。
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ウェルトとソールのあいだからナイフを入れ、出し縫いを切って
剥がすやり方が職人ぽいのですが、そのやり方ですと
出し縫いがすくい縫いの糸を貫通してしまっている場合が
既製品でちょくちょくありますので、カットしてはいけない
すくい縫いの糸も一緒にカットしてしまう危険性があるので、
底面を削って出し縫いの糸を削り切ってしまったほうが確実です。

コルクから中底まで水が侵入してしまっています。
中底まで濡れてしまうと中底の割れにも繋がってしまうので
コルクが見える前にソール交換が必須です。
(コルクはウェルテッド製法の靴にしか基本入っていません)
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シャンクも浸水してしまい錆び始めています。
スチールのシャンクですとだいたいオールソール時期の靴では
錆びているものが多いのですが、錆びて折れているものというのは
1割程度でしょうか。

クロケットジョーンズなどの老舗の靴で多いのですが、
木材のシャンクを使っている場合が多く、内部まで浸水していると
木材ですので腐ったりして6割くらいは折れています。
(浸水していなくてもやはり折れてはいますが)

浸水と云っても、水たまりにずっぽり浸らなくても、
革は繊維構造ですので、路面の水を毛細管現象で
内部まで吸い上げてしまいます。

またこれがひどいとアッパー側面まで水を吸い上げてしまい
小指側面あたりに雨シミ跡が日本刀の刃文のように
波波にでてしまったり致します(この部分で革が割れ易くなります)
ハーフラバーソールを施行する事で底面からの
雨水の吸い上げを予防できます。

昔の国産の靴ですと、竹を使っていた時期もあるようですが
竹は撓りもあり丈夫で適材ではないかと思いますが、
木材のシャンクはあきらかに強度不足な気がします。
折れている場合は、丈夫なスチールシャンクに交換しています。

ちなみにこのシャンクですが、どういいった役割があるのかというと、
土踏まずの部分を支えるように取り付けられています。
ヒールに少し載っていて、土踏まずの浮いている部分を
上に持ち上げるようなイメージでしょうか。
別のオールデンですがこんな感じで入っています。
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ソールを剥がすと、ここで新たに損傷箇所を発見…。
すくい縫いが前側ほぼ切れていました…。
そして一緒に縫い付けられているアッパーの革も縫い穴部分までも
硬化していて割れてしまい、糸が外れてしまっている状態です…。
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こうなってしまうと、すくい縫いもやり直さなければなりません…。
何度かオールソールをされているとの事ですので、
出し縫いをする段階で、その都度すくい縫いの糸を貫通してしまい
糸が徐々に切れてきてしまったのかと。

また、かかと部分もだいぶ斜めに摩耗した状態で履かれていたので、
外側へ靴が傾斜する格好になり、体重が外側に掛かりすぎて、
ウェルトが押し出されるような感じになったのも糸切れの
要因の一つかと思われます。
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すくい縫いとは中底部分に貼付けられたリブの段差から
(グットイヤーウェルテッド製法の場合)外側に付いているウェルトに
すくい上げるように針を通すのですが(上画像)、

この靴にはウェルト部分にボコボコとなにやら跡が多数ついています…。

恐らく以前の修理店でもオールソールの際に同様に
すくい縫いの糸が切れていたので、縫い直したようですが、
針をウェルト側(下画像)から差し込んでいたようです。
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ですので針で押し付けられた跡がぼこぼことウェルト部分に
凹みを作ってしまい、ソールを貼り直した際にコバ断面に
この隙間が影響しやしないかと心配です。

恐らく、残ったコルクかすなどで中底側から針を通す穴位置が
分かり難かったので、ウェルト側から針を指してしまったのだと思われます…。
針の跡がついてしまっているけどー。
こういう事されると困るんだけどー。

とほほ…の状態から気持ちを切り替えて、まずは針の加工。
すくい針の曲がりに合わせて針をライターであぶってなまし、
同じ曲がりに加工します。
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次に9本撚りの麻糸を一本ずつにより戻し、その一本ずつの
毛先を細く漉き、4本と5本のグループにまとめたのを、
またもとの9本組の一本に撚りまとめます。
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そうしますと毛先がうんと細く加工できます。
細く加工する事で、針に繋げた部分が針と同じ太さに絡み付けれるので
小さな穴を通す際に、針の付根が穴にひかかってイライラせずに縫えるのです。

すくい縫いが出る位置と出し縫いの穴の位置が近すぎるー。
しかしすくい縫いの穴をずらす事はできないので(元の穴を通しているので)
出し縫いの際に可能であれば少し外側を縫えれば…という感じでしょうか。
もともとのメーカーの設定が悪し。

すくい縫いの位置と出し縫いの位置の設定が宜しくない靴は
既製品でもちょくちょくあります。
値段に関係なく10万円クラスの靴でもちらほら見かけます。
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中底面からの画像。
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この段差部分から外側のウェルト側にすくいあげて縫っています。
縫い終わったので、中底部分にコルクを充填。
コルクは板コルクを使用しています。
粒コルクを練って充填する方法もありますが、それですと充填具合に
ムラができ易いので、板状に圧縮成形されたコルクを敷き詰めた方が
全体に均一の密度で敷き詰める事ができます。

またコルクの粒も細かな番手を使用する事で、履き込んでいった際の
中底面の沈下を適度に抑える事ができるのではないかと思います。

オールソールですので履き込まれてすでに中底面は
充分に足の形に凹んでいますので、これ以上の中底面の沈下は
必要無いかと思われます。

ウェルテッド製法の靴は、特にグットイヤーウェルテッド製法の場合
コルクが5.0mm厚程度、中底と本底の間に充填されています。
履き込んでいくと中底面からの加重で敷き詰められたコルクが
徐々に自分の足型に押し潰されることで
いわゆる「足に馴染んでくる」のひとつの要素にもなっています。

ただその場合、中底面が押し下がり靴内部の容積が
広がるということですので、サイズも必然的に緩くなって
しまうということです。

ですので羽ものの靴を購入する時には、
羽がある程度開いた状態のフィッティングで購入しないと、
後々に紐をそれ以上絞める事ができず、ゆるゆるに
なってしまいますのでご注意を。
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コルクを敷き詰める際も厚めに盛ってから、高い部分を基準面まで
削り落としていきます。
そうする事で、すでに中底面に記憶された足型をあまり損なわずに
その凹凸を再現する事ができるのではないかと思います。
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ウェルト面に針の跡(前回の修理店の仕業です)、
ぼこぼこ… まったく…。
仕上りに影響しそうなので軽く削って修正しておきます。

次回、「コートバンの裂け補修篇」へと続く…。

ampersandand at 00:26|Permalink

2018年10月15日

運転させないホワイツブーツ。 丈詰めとソール交換篇

White's Boots
camper3029camper3736
ワークブーツはおおむね重いのですが、その中でもヘビー級に
君臨しているのが、White's Boots になるのでしょうか。
1.0kgまで量れる測定器でもEEEE表示、いったい階級はどこなのでしょうか…。

ソールが厚く、車の運転ができないのでレザーソールでシンプルな
感じにされたいとのこと。また丈も長過ぎですと。

ご依頼品はすでに一度他店でソール交換されており
現在は、vibram#2021 ソールが取付けられている状態です。

ちなみにもともとのオリジナルソールはこんな感じ。
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レザーソールにごついコマンドソール仕様。
画像から判断しますと恐らくオリジナルのヒールの設定より
#2021ソールでは10.0mmくらいかかと側が低くなっているのではないか
と思われます。

違和感が無いかお客さまに確認したところ、逆にこのぐらいのほうが
ヒールの高さはいい感じですと。

ちなみに同じタイミングでオールソールでお預かりしていた
レンガ色のWESCOブーツ。
こちらは摩耗した状態ですが片足で約940gにて軽量をパスしています。
WESCOも一度すでにオールソールされているようです。
camper2726
camper3837

この二足の底付けの仕様について今回主に書こうと思ったのですが
長くなりそうですし、図式を作成しないと文章では伝わらないだろうな…
ということで、業務の兼ね合いで詳しくは割愛させて頂く事にしました。

WESCOは前側が通常のステッチダウン製法(かかと側は中底にビス固定)
ホワイツブーツは複式ステッチダウン製法といいましょうか…。
camper3433camper3231camper3332camper3130

分解して思った事は、ホワイツブーツはなんでこんな
面倒くさい仕様なのだろうかと。
この仕様について手間が掛かる割にはなにか
メリットがあるのだろうか…と。
ソール交換し難いだけではないのか…。

なので前回修理されたお店でも手こずったようで、だし縫いは
ウェルトから外に縫い外れてしまった部分があったり、
コバを削りすぎていて(または始めからぎりぎりだったのか)、
今回オールソールする際に、縫い直すスペースがほぼ無い部分もちらほら…。
これ困るですよね…。

それにひきかえWESCOについては至って合理的な仕様になっているなぁと。
縫うところは縫って、必要の無いところはビス固定で手間を省くという感じ。

ではではホワイツブーツにもどりまして、
ソール交換はいつものレザーソールでの交換と同じですので
行程は割愛いたしましてブログ映えし易い丈詰めをご紹介。
180504001180504000
丈はくるぶし丈にカット。
この長さが紐靴では足首も固定でき、脱ぎ履きもそこまで面倒ではないので
お勧めな丈であります。

カット断面はオリジナルと同じようにパイピング処理を行ないます。
縫い割って展開して落としミシンを掛けます。
180504003
180504004
このブーツは取り外しできるベロが、確かなにか名前があるのですが
思い出せませんのでベロと云う事で進めますが、このベロも
丈詰めに合わせてカットします。
180504007180504006180504005

そして完成となります。
レザーソール/ハーフソールスチール併用仕様
180506003180506004
レザーソールはダブルのように見えますが、もともとこの靴にはミッドソール
というには厚いものですが、ミッドソールがベースにあるので
その部分に新たにレザーソールを取付けているので、
結果ダブルソールのようになっています。

ヒールの高さはお客様のご希望とおり、ソール交換前の高さの設定で
製作しています。(ですのでおおもとのオリジナルよりは低くなっています)
ハーフソールもごついものではなくシンプルなVIBRAMソールでフラットに。
丈詰め部分はループは必要ないという事でしたので取り除いております。

革底周りの色は、ブラウンカラーに染色。
オリジナルはごついコマンドソールが縫い付けられていますが、
今回はレザーソールを本体と縫い付けてからハーフソールを取付けていますので
底縫いの糸切れの心配もなく、ハーフソールが摩耗した時には、リフト同様に
部分的に交換可能な仕様となっています。
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180506010180506008180506009
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お渡しの際に履いて頂くと、運転できそうですということで
そのまま履かれてお帰りになられました。

誤解のないように追記致しますが、
「vibram#2021は重くて曲がらないソールなの?」
まったくそんなことはなく、逆にこの手のフラットソールの中では
最軽量の部類に属しますし、軽量で屈曲性もよく
クッション性に富んだソールになっています。
ですので女性の方からスニーカー系の靴まで幅広くお勧めできる
ソールとなります。

今回の靴は、本体の革も厚く、ミッドソールも通常のレザーソールと
同じ5.0mm程度あり、またウェルト周りの設定も屈曲しづらいような
硬くなっているような靴ですので、ソールうんぬんというよりは
本体側の影響が大きい靴となります。

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2018年03月25日

いい加減な修理店 B オールソール篇 その参

前回までのあらすじ
その壱はこちら
その弐はこちら

はるばる長野から当店を信用して頂いて?ご依頼頂きましたので
修理店Cにならないようにしっかりと修理させて頂きます。

もちろん仕事の出来は距離には比例しませんが、遠くになればなるほど
プレッシャーはかかります、それだけ送料も掛かる訳ですし。
年に何件か海外からもご依頼頂くことがありますが、どうしてうちなの?
と思わないではありませんが、グローバルな世の中です。

2018031925

それでは修理してゆきます。

貼付けられていたハーフソールをすべて剥がしたところ、
縫い付けられていた革底の糸がすでに完全に擦り切れていましたので
ハーフソールの交換ではなくオールソールということになりました。
*分解しているところの画像を取り忘れましたが、オールソールとは革底、
 ヒールすべての部分を取り外し、新たに作り直す修理になります。

底縫いの糸が切れている場合、その状態でハーフソールを取付けることは
できるのですが、あとでウェルトと革底の部分が剥がれて(浮いて)きてしまう
可能性が高くなりますので、完全に切れている場合はお勧めしておりません。
しかもダブルソール仕様でしたので余計に剥がれ易い状態でした。

仕様については長野県ということで雪の心配もあるとのことで
滑り難い仕様であとはお任せでと。

雰囲気のある革のブーツですので、オリジナルのようなボリュームのある
ソールが相性がいいと思いますので、当店お勧めの仕様で行うことに致します。

2018031924

オリジナルのヒール部分は、合成素材のブロックにスタックといわれる
1.0mm程度の革が巻かれているブロックヒールの仕様でしたが
今回は、革を一段ずつ積上げてゆきます。
革で5段積んでリフトで1段積むので合計6段積みます。
両足で12段積上げていくことになります。

よく「木」と間違えられますが、革を削って表面の毛羽立ちを整えて
いきますと、ご覧のように木のように見えてきますが、革です。
2018031923

今回の仕様は、
革底/コマンドハーフソール5.0mm(伊)/コマンドリフト10.0mm(伊)
仕様になります。

取付けた革底をウェルトと底縫いして取付け、
その後ハーフソールを取付けています。
この仕様ですと、ハーフソールとリフトが摩耗した段階で交換していけば
底縫いの糸は切れず、革底も摩耗しないので基本的にNO MORE AII SOLE!
今後オールソールの必要がない仕様になります。

AFTER

20180319162018031918

問1.
雪道も想定しこの靴にはコマンドハーフソール5.0mmが付いています。
この靴のオフセットは30mmでした。
画像Aの部分の高さを求めなさい。
*革底、ウェルトの厚みは含まれていません。

ヒント
前回の「その弐」を参照。
0324-9
2018031919
既製品でハーフソールと一緒に底縫いを行っている商品がありますが
それですと、ハーフソールを交換する際に底縫いの糸を
切らなければならなくなります。
ですので、一旦革底を縫い付けてからハーフソールを
取付けるのがよいと思います。
201803191520180319172018031922
2018031912

問1の答え
35mm となります。

以上「いい加減な修理店 B オールソール篇」でした。
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ampersandand at 19:00|Permalink

2018年03月24日

いい加減な修理店 B オールソール篇 その弐

前回までのあらすじはこちら。

古いハーフソールを剥がさずに二重に貼ることで履き心地が
悪くなるのか?
話が分かりづらくなるので、「片足のハーフソールは半分残っている状態」
というのは一旦おいておきます。
これで履き心地に違和感が生じるのは当たり前なので。

落差(オフセット)とは?


オールソールのお問い合わせの際に、いつもこの部分が伝わりづらいので
これについて別記事を書こうと思っているので今回はかいつまんでご紹介します。

靴にはそれぞれでヒールの高さが決まっています。
ですので、オールソールするからといってもっとヒールを高くしたい!、
ぺったんこヒールにしたい!あのvibramソールを使いたい!
と云う訳にはいきません。
(あまりこの部分を考慮しないでソールを取付けているお店もあるようですが)

こちらをご覧下さい。
0324-3
分かり易いのでこちらのパンプスを使ってご説明したいと思います。

「ヒールの高さはどのくらいですか?」と尋ねますと
みなさん決まってCの部分を計測されると思います。

このパンプスは前側にプラットフォームという厚底仕様になっていますが
アッパーの革で一緒につり込まれていますので外からは見えません。
実際の足が入っているレベルはAの下線位置になります。
Bの部分がプラットフォームの厚みです。
0324-1

この場合のヒールの高さは、Cの高さではなくAの高さになります。
Cの高さというのは、Bの高さによって変化してしまいますが、
Aは変わることはありませんので、オールソールの際はこの高さを基準に
それぞれの仕様を決めていきます。

例えば
C/90mm
B/25mm の場合

90 - 25 = 65mm 

このパンプスのヒール高は、90mmではなく65mmになります。
これを「落差」、または「オフセット」といいます。
ここ、テストにでるので覚えておいてください。
図だけみると修理の話?って感じです。
C点からA点を通り、B点へ繋げる際の最短距離を求めなさい…

この落差は、靴それぞれもとになる靴型で設計されています。
踏みつける際に、足が曲がる位置と靴が曲がる位置を
合わせた設計になっています。

このパンンプスの場合は、65mmが正解ですが、前側に25mm足しているので
ヒールにも同じ分を足した高さ、90mmを取付ければ落差は合うことになります。
重要なのは、前後でそれぞれプラスマイナスをし、もともとの
落差を変えないことが大切です。

*多少の許容範囲はありますが。

例えばこのパンプスをオールソールする時に、
前側のプラットフォームを取り除いてソール交換すれば、
ヒールは90mmでなはく65mmを取付けることができます。
見かけのヒールの高さは低くなっていますが、
実際の高低差(落差)は変わっていません。

ちなみにハイヒールを本来の設定より低くしてしまうと、
踏みつける位置は踏まず側(後方)に下がってきてしまいます。

その場合パンプスは、履き口が広がってしまい脱げ易くなる、
シャンクが折れるなどの症状が生じる可能性があります。
ただ、多少それぞれで許容範囲がありますので
ハイヒールのヒール土台まで摩耗してしまっている方、ご安心ください。

前置きが長くなりましたが、今回のご依頼品ではどうでしょうか。

0324-6
こちらの靴の落差は、およそ30mmと云うことが分かりました。
およそというのは、ヒール部分も修理店Bにてリフト交換がすでにされています。
ですので、この修理店は何をしでかしているのか分かりません。
リフト交換の際に必要以上に削っていたりすると、ヒールの
高さも狂ってしまっている可能性があるからです。

接地具合や残されたヒールブロックを見る限り、あまり修理店Bの
影響はヒールにはでていないようです。

旧修理店で貼られたハーフソールは、通常の2.0mm厚でした。
修理店Bで重ねて貼られたハーフソールは、厚めの3.5mm厚。
合計前側が、5.5mm高くなっています(摩耗している分はありますが)

先程の落差設定でいくと、通常のハーフソールでも前側が2.0mm
高くなっているので、その時点でおかしくはないのか?ですが
2.0mmですとまず問題がありません。
しかし、これが3.5mmにすると途端に違和感が生じてしまいます。

店頭でお客さんに3.5mmのハーフソールを地面に置いて
取付ける靴で踏みつけて立って頂くと、みなさん違和感を感じられます。
たった1.5mmの差なのですが。

ちなみに3.5mmのハーフソールを新品の靴に取付けたい場合はどうするのか?
ですが、リフトも3.5mm追加しなければなりません。
しかし、3.5mm厚のリフトというのはないので、始めに付いている
6.0mmにリフトを外し、9.5mm(10.0)のリフトを取付ければ計算が合います。

ただ、これでは減っていないリフトをわざわざ交換するのでもったいないです。
ですので、ハーフソールは一旦2.0mmを取付け、のちのちそれが摩耗した頃には
リフトも減っているので、そのときに前後とも交換すれば宜しいかと思います。

ご依頼品の違和感の原因とはなんだったのか?

皆さんもうお分かりだと思いますが、
「前側が5.5mm高くなっている(靴が後ろに傾斜している)」
「左右の靴で前側の高さが異なる(片足はハーフソールが半分なので)」

というところだと思います。
1.5mm(3.5)の差でも違和感があるのに、5.5mmそれも
左右で違うとなると違和感ありありでしょう…。

結局、修理店Bで治してから履かなくなってしまったのですが、
もったいないので今回検索して当店をご指名頂いたとのこと。
でもそんな事があると、もう一度修理に出すのは
怖かったんじゃないかと思います。
しかも今回はオールソールでお金も掛かりますし、しかも郵送なので。

その参へつづく…。
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