すくい縫い

2018年11月16日

壊れすぎたオールデンを治してみる。 分解篇

今回の患者さんはこちら。

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ざっくりと…。
ソールもコルクが流出し始めていて瀕死の状態…。
コルクが流出している状態で履いてしまうと、
中底が陥没、そして割れが発生してしまいますのでご注意を。
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かかと内側部分もだいぶやられていますね。
(修理された箇所がまた擦り切れて壊れていますね…)

修理店を渡り歩いてすでに三度オールソールをされているとのこと。
あと10年ぐらいは履きたいということですが…。

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かんぬきから小指側面への裂けは、革の硬化が原因です。
履き皺が段々によっていますが、あまり伸びずにこの状態で硬化しています。
(シューキーパーを使われていないとこのように皺が深くなってしまいます)

ということは、歩行の際の屈曲に革の収縮が追いつかないので
結果、羽の付根部分の閂に負荷が掛かりますので、
そこを軸に硬化し弱っていた小指側面部分にかけて
裂けてしまったのかと推測されます。
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コートバン(馬のお尻の革)は繊維の密度が高く強靭といわれていますが、
牛革と違い繊維方向が一定方向のようで
その方向へ負荷が掛かった際には裂け易いという傾向があるようです。
また革の仕上げ行程により水に弱いのですが…

今回は水に濡れて、乾燥してを繰り返し硬化してしまった革なので
余計に裂け易い状態にあったかと思います。
他にも定番の小指の腹部分と先芯との境目にも
亀裂が入っている部分がちらほら…。
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このような状態ですので、修理はあまりお勧めできない事と、
修理しても、今後アッパーの何れかの部分で再度壊れてきてしまう
可能性もありますとお伝え…諦められるかと思いきや
悩まれるご様子もなくご依頼頂いた次第であります。

まずは靴底を分解していきます。
底縫いの糸をグラインダーで削り切り、ソールを剥がしていきます。
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ウェルトとソールのあいだからナイフを入れ、出し縫いを切って
剥がすやり方が職人ぽいのですが、そのやり方ですと
出し縫いがすくい縫いの糸を貫通してしまっている場合が
既製品でちょくちょくありますので、カットしてはいけない
すくい縫いの糸も一緒にカットしてしまう危険性があるので、
底面を削って出し縫いの糸を削り切ってしまったほうが確実です。

コルクから中底まで水が侵入してしまっています。
中底まで濡れてしまうと中底の割れにも繋がってしまうので
コルクが見える前にソール交換が必須です。
(コルクはウェルテッド製法の靴にしか基本入っていません)
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シャンクも浸水してしまい錆び始めています。
スチールのシャンクですとだいたいオールソール時期の靴では
錆びているものが多いのですが、錆びて折れているものというのは
1割程度でしょうか。

クロケットジョーンズなどの老舗の靴で多いのですが、
木材のシャンクを使っている場合が多く、内部まで浸水していると
木材ですので腐ったりして6割くらいは折れています。
(浸水していなくてもやはり折れてはいますが)

浸水と云っても、水たまりにずっぽり浸らなくても、
革は繊維構造ですので、路面の水を毛細管現象で
内部まで吸い上げてしまいます。

またこれがひどいとアッパー側面まで水を吸い上げてしまい
小指側面あたりに雨シミ跡が日本刀の刃文のように
波波にでてしまったり致します(この部分で革が割れ易くなります)
ハーフラバーソールを施行する事で底面からの
雨水の吸い上げを予防できます。

昔の国産の靴ですと、竹を使っていた時期もあるようですが
竹は撓りもあり丈夫で適材ではないかと思いますが、
木材のシャンクはあきらかに強度不足な気がします。
折れている場合は、丈夫なスチールシャンクに交換しています。

ちなみにこのシャンクですが、どういいった役割があるのかというと、
土踏まずの部分を支えるように取り付けられています。
ヒールに少し載っていて、土踏まずの浮いている部分を
上に持ち上げるようなイメージでしょうか。
別のオールデンですがこんな感じで入っています。
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ソールを剥がすと、ここで新たに損傷箇所を発見…。
すくい縫いが前側ほぼ切れていました…。
そして一緒に縫い付けられているアッパーの革も縫い穴部分までも
硬化していて割れてしまい、糸が外れてしまっている状態です…。
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こうなってしまうと、すくい縫いもやり直さなければなりません…。
何度かオールソールをされているとの事ですので、
出し縫いをする段階で、その都度すくい縫いの糸を貫通してしまい
糸が徐々に切れてきてしまったのかと。

また、かかと部分もだいぶ斜めに摩耗した状態で履かれていたので、
外側へ靴が傾斜する格好になり、体重が外側に掛かりすぎて、
ウェルトが押し出されるような感じになったのも糸切れの
要因の一つかと思われます。
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すくい縫いとは中底部分に貼付けられたリブの段差から
(グットイヤーウェルテッド製法の場合)外側に付いているウェルトに
すくい上げるように針を通すのですが(上画像)、

この靴にはウェルト部分にボコボコとなにやら跡が多数ついています…。

恐らく以前の修理店でもオールソールの際に同様に
すくい縫いの糸が切れていたので、縫い直したようですが、
針をウェルト側(下画像)から差し込んでいたようです。
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ですので針で押し付けられた跡がぼこぼことウェルト部分に
凹みを作ってしまい、ソールを貼り直した際にコバ断面に
この隙間が影響しやしないかと心配です。

恐らく、残ったコルクかすなどで中底側から針を通す穴位置が
分かり難かったので、ウェルト側から針を指してしまったのだと思われます…。
針の跡がついてしまっているけどー。
こういう事されると困るんだけどー。

とほほ…の状態から気持ちを切り替えて、まずは針の加工。
すくい針の曲がりに合わせて針をライターであぶってなまし、
同じ曲がりに加工します。
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次に9本撚りの麻糸を一本ずつにより戻し、その一本ずつの
毛先を細く漉き、4本と5本のグループにまとめたのを、
またもとの9本組の一本に撚りまとめます。
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そうしますと毛先がうんと細く加工できます。
細く加工する事で、針に繋げた部分が針と同じ太さに絡み付けれるので
小さな穴を通す際に、針の付根が穴にひかかってイライラせずに縫えるのです。

すくい縫いが出る位置と出し縫いの穴の位置が近すぎるー。
しかしすくい縫いの穴をずらす事はできないので(元の穴を通しているので)
出し縫いの際に可能であれば少し外側を縫えれば…という感じでしょうか。
もともとのメーカーの設定が悪し。

すくい縫いの位置と出し縫いの位置の設定が宜しくない靴は
既製品でもちょくちょくあります。
値段に関係なく10万円クラスの靴でもちらほら見かけます。
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中底面からの画像。
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この段差部分から外側のウェルト側にすくいあげて縫っています。
縫い終わったので、中底部分にコルクを充填。
コルクは板コルクを使用しています。
粒コルクを練って充填する方法もありますが、それですと充填具合に
ムラができ易いので、板状に圧縮成形されたコルクを敷き詰めた方が
全体に均一の密度で敷き詰める事ができます。

またコルクの粒も細かな番手を使用する事で、履き込んでいった際の
中底面の沈下を適度に抑える事ができるのではないかと思います。

オールソールですので履き込まれてすでに中底面は
充分に足の形に凹んでいますので、これ以上の中底面の沈下は
必要無いかと思われます。

ウェルテッド製法の靴は、特にグットイヤーウェルテッド製法の場合
コルクが5.0mm厚程度、中底と本底の間に充填されています。
履き込んでいくと中底面からの加重で敷き詰められたコルクが
徐々に自分の足型に押し潰されることで
いわゆる「足に馴染んでくる」のひとつの要素にもなっています。

ただその場合、中底面が押し下がり靴内部の容積が
広がるということですので、サイズも必然的に緩くなって
しまうということです。

ですので羽ものの靴を購入する時には、
羽がある程度開いた状態のフィッティングで購入しないと、
後々に紐をそれ以上絞める事ができず、ゆるゆるに
なってしまいますのでご注意を。
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コルクを敷き詰める際も厚めに盛ってから、高い部分を基準面まで
削り落としていきます。
そうする事で、すでに中底面に記憶された足型をあまり損なわずに
その凹凸を再現する事ができるのではないかと思います。
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ウェルト面に針の跡(前回の修理店の仕業です)、
ぼこぼこ… まったく…。
仕上りに影響しそうなので軽く削って修正しておきます。

次回、「コートバンの裂け補修篇」へと続く…。

ampersandand at 00:26|Permalink