オールソール

2019年11月22日

手を抜いてオールソールをするお店。 ウェルト交換篇

ウェルテッド製法のオールソールというのは、通常は
摩耗した革底(ヒールを含む)を取り外し、縫われていた古い糸を
すべて抜き、新しい革底を取り付けて再度元の穴に出し縫いを
行なえばいいのですが、手を抜いて、いい加減に修理するお店で
オールソールしてしまうととても面倒なことに巻込まれてしまいます。

こちらの靴。
革底はラバーソールとつま先補修ですでに部分補修されていますが
それ以外は特に痛んでいるところはない感じですが、
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お客様曰く、ここが…と。
踏まず部分がソールが分離してしまっています。
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踏まず部分のすくい縫いの糸が切れてしまっています。
すでに一度オールソールしてあるとのこと…。
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画像では分かり難いのですが、狭いコバの幅に縫い目が二列できています。
二列のところもあれば重なってしまっている部分もあります。

ウェスコなどのワークブーツ系のコバ幅が広い靴の場合では
出し縫いをもともと二列行なう仕様の靴もありますが、
(その場合一列はステッチダウン製法の縫い目)ビジネスシューズで
しかもこのコバの張り出しで二列縫うというのはあり得ませんので、
とうことはどういうことでしょうか…。

そうです、古い革底を剥がしたら元々ある縫い目の糸は抜かずに、
そのまま新しい革底を取り付け、元の縫い目はすでに糸で埋まっているので、
すこしずらしてもう一列縫ってしまっているという事になります…。

このような悪質な修理をされた靴というのは年に数足は
持込まれますが、このパターンもよくある事例です。
では分解。
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残っている出し縫いを擦り切って革底を剥がしていくと
むむっ、かかとの部分で革底が分離…。
革底が継いでありますね、これは話で聞いた事はありましたが
実際に行なっているところがあるとは…
もしかしたら70歳くらいの職人さんが修理した靴かもしれません。

というのは靴学校で教わっていた際の戦後の靴職人さんの授業で、
革底の長さが足りなかった場合には、このように継ぎ足す方法もあります、と。

その時はそれはないだろう、と作業を観ていましたし、
そもそもそんな手間の掛かることをわざわざしないし
長さが足りないってどういうこと?と思いつつ授業は
進行していきましたが。

恐らく戦後だと革底は充分に流通していないとか、
オーダーの革靴の需要が高く次から次へと依頼があり、
とても儲かった時代という話でしたので、材料が間に合わず
足りなかったからか?なんでしょうか。

しかし今は革底が枯渇している時代でもありませんし(年々高騰していますが)
革底問屋にネットで注文すればすぐに届きますし。

恐らくどのお店でも令和の時代にはしていないと思います(今回のお店以外)。
先程も云いましたが、わざわざ継ぐ加工を行なう方が手間ですし
かかとのちょっとを継いだからといってコストも変わりませんしね。

または出し縫いの感じからすると、かかとの継いでいる部分は
そもそも交換していず、古い革底をカットして残しているか可能性もありますね。
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継いでいたからか?とも疑いたくもありますが恐らく関係は
ないでしょうが金属製のシャンクが折れていました。
シャンクとは浮いている踏まず部分を支える為にヒール部分から
踏まず部分にかけて取り付けられている靴の背骨のようなパーツです。
靴によっては入っていないものもありますし、木材だったり樹脂だったり
と素材も色々です。
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踏まず部分以外でもすくい縫いの糸がやはり切れていますね。
二列、しかも元の縫い目より内側に縫っていましたので、
そうなると完全にすく縫いの糸を出し縫いで貫通してしまいますから。
赤矢印は元々の縫い目で黄色矢印が新しい(縫い足した)縫い目。
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そもそもウェルテッド製法という靴の構造が分からないと
この話の意味が伝わらないと思いますので以前の記事でも使用した
概略図を。
ウェルテッド製法2
ウェルテッド製法
今回の靴状態はというと、古い革底は剥がしたのですが、その際に
古い出し縫い(みどり部分)の糸を抜かずに新しい革底を貼付け、
古い縫い目より内側(本体側)に抜い足しているので、
本体とウェルトを縫い付けているすくい縫い(赤い部分)を貫通してしまい、
すくい縫いの糸が切れてしまっているという状態になっています。
通常は、もとの出し縫いの糸を抜いて同じ穴に縫い直す事になっています。

結局そのお店では糸を抜くのをめんどくさがり、しかし縫う場所がないので
外側にははみ出してしまうので縫えないので内側に寄せて
縫ってしまっているという事です。
場所によっては内側に縫う事もできず逆に外側に膨らんでしまったり
同じ位置に重なって縫ってしまったりなんですが、ひどいものです。
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ウェルトを外した状態。
中底面から開けられたすくい縫いの穴が見えます。
この穴に新たにウェルトをすくい縫いして取り付けていきます。
すくい縫いですので、名前の通りすくい針でそれぞれのパーツをすくうように
針を刺して縫製していきます。
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つま先部分は穴の間隔が寄るので糸が食い込みすぎないように
別の糸を縫い目に絡ませて締め付けていきます。
今回の靴はミシンでも縫製できるように開発された
グットイヤーウェルテッド製法の構造になっていますが、
なぜだか手縫いですくい縫いが行なわれています。
そして一般的なすくい縫いの縫い目のピッチよりなぜか
細かく縫われているので、縫い直す時間も1.5倍くらい掛かります…くぅ〜。
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かなりの力で糸を締め付けていくので麻糸が指に食い込んで
皮が裂かれてしまうので革サックを要装着です。
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かかと周りのウェルトはオリジナル通りにアルミの釘でカシメて固定しています。
ウェルトをが付いたので、後は通常のオールソールの手順と同じになります。
今回はシャンクが折れていたので焼きの入った硬い金属のシャンクに交換し、
コルクも詰め直して革底を取り付けて出し縫いを行い完成となります。
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ウェルト交換というのは今回のようにすくい縫いが切れてしまっている
靴の場合に必要になる補修行程ですので通常のウェルテッド製法の靴では
革底の交換のみ(ヒール部分も含みます)ですので必要はありません。

ウェルトも交換した場合はオールソールの倍ぐらいの費用が
掛かりますので、お見積もり後のご依頼率は65%ぐらいでしょうか。
なにせもう少し費やせば新しい靴も買えてしまいますので。

今回の靴は確か彼女に買ってもらった靴ということでしたので
特別思い入れもあったということでした。
本体の革も特に履き皺が痛んでいるとかダメージも無く、
底周りが新しくなればまったく問題なく履き続けられますし。
*本体の革が劣化して亀裂が複数入っているなどの場合はお勧めしません。

ちなみに今回の靴のようにコバがあるような靴が、全部ウェルテッド製法の
靴ではないのでご注意ください。
マッケイ製法やセメンテッド製法でも飾り押渕といって、飾りで同様のコバが
付いている靴もありますので。
AFTER
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ハーフソール・ビンテージスチール併用仕様になります。
持込まれた際の靴の状態は、オールソール後に靴底(つま先)が摩耗し
ハーフソールが取り付けられたのですが、つま先だけ早い段階でラバーが摩耗し
その後つま先だけ再度補修していると思われる状態でした。

であれば、そもそもオールソールの時点でハーフソールスチール併用仕様に
しておけば革底は摩耗しませんし、底縫いの糸も切れません。

ですので、当店で革底でのオールソールをご依頼される90%の方は、
オールソールの際には、ハーフソール・ビンテージスチール併用仕様を
オプションで装着されております。
初期投資はかかりますが、長い目で見るとランニングコストは抑えられます。

ハーフソールが取り付けらているので、底縫いの糸は擦り切れませんし
土台の革底も擦り減る事はありません。
(路面の雨水を吸い上げてのアッパーに雨シミもでき難いのです)
それぞれ摩耗した段階でハーフソールとスチールは部分的に交換できます。

基本的にこの仕様であれば今後はオールソールの必要は無くなります。
ですので長く履くのであればとても合理的な修理かと思います。

ちなみにですが今回のようなすくい縫いが切れてしまうというのは
縫い位置に問題が無くても通常の使用でも加重に耐えられず糸が
切れてしまうという事もあります。
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後ろの人にちらりと見え隠れする赤い靴底が憎いですね…。
かかとを革付きのダヴリフトなどにすると赤く染められますが、
耐久性重視でvibramのラバーリフト仕様になっています。
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ちなみにこちらもウェルト交換になってしまった靴。
ご依頼時点ではすくい縫いが切れている事が分からなかった靴です。
オールソールはまだ行なった事が無く既製品の状態です。
分かりますかこの異常な状態。
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出し縫いが漉い縫いの内側を縫ってしまっています。
黒い点々が出し縫いの断面で外側にある白い線状の縫い目がすくい縫い。
位置が逆転していました…、あり得ない状態です。

もちろんこの場合も革の中を通過しているすくい縫いの糸を
貫通してしまっているのでNGです。
貫通していると革底を剥がすまでは糸同士が噛み合っているので
逆に糸が緩まずにウェルトが外れて見えない場合があります。
ですので「ソール交換で」、と受付して革底を剥がしてみたら
ウェルト交換が必要なってしまうというパターンもときどきはあります。

といっても、すくい縫いに出し縫いが貫通していない靴を探す方が
難しいかもしれません。
ところどころでも貫通してしまっている靴は普通にあります。
部分的にすくい縫いが切れている場合は、サービスで勝手に縫い直しています。

これは靴の高い安いに関係なく、例えば10万前後するクロケットジョーンズ
なんかでもしばしば貫通しています。
ひどい場合は出し縫いが逆に外側を縫い過ぎてしまっており
コバからはみ出してしまっているクロケットなんかもありました。

その靴が検品を通って市場で販売されているというのも問題なのですが。
クロケット特有のウェルトに切れ込みを入れて出し縫いを行なっているのが
縫い目の位置が悪い要因の一つかもしれませんが。

または靴のデザイン的にしゅっとした感じなので、そうなるとコバの
張り出し具合が抑えられる傾向にあるので、そもそも出し縫いをする
スペースが限られしまい、すくい縫いを貫通するような位置で縫製する
ことになってしまっているのかもしれませんね…。


今回もソールを剥がすまで分からず、後になってウェルト交換の必要が
生じてしまったのですが、これは私としてはとても申し訳ない状態です。

「オールソールで依頼したのにウェルト交換も追加なんて聞いていないよ!」
とお客様は思うでしょうしきっと…。

それに摩耗した靴底の交換と違い、ウェルト交換しても
見た目の仕上がりとしては、お客様が仕上った靴を見ても違いは
分からないのも問題なのですが。
(もちろん分かる人が見れば分かりますが)

例えば私がブラック店主であれば、ウェルト(すくい縫い)が壊れていないのに
交換する必要がありますと云って、ウェルトは交換せず
ソールだけ交換してウェルト交換の費用も請求する事もできてしまいますから。

ですので今回もお電話で、こうこうこうでウェルト交換が必要になります。
で、メールで壊れている状態を画像で送りますので確認されてください…
と、本当に交換が必要なんですアピールをさせて頂こうとしていると、
(もちろん追加費用も掛かってしまいますし、このままキャンセル
ということもできますともお伝えしております)

お客様:
「画像は見なくて大丈夫です、前回依頼した靴の仕上がり具合で
 信用しているので、そのまま進めてください」と。

店主:
「あざーすっ!」

「信用する」ということがなかなか難しい時代に、
確認もせず信用して頂けるというのはとても有り難いことです。

こちらの靴はかかとにウェルトが無いシングル仕様。
ウェルトは革底を縫い付ける縫い代と考えて頂くと分かり易いと思います。
ウェルテッド製法というのは、直接本体に革底を縫い付けないので
ソール交換の際の靴本体へのダメージが少ない(交換が容易)という
考えにより考案された製法になります。

しかし今回の事例のように、ちゃんと設計しその設計通りに製造しないと
かえって手間の掛かる製法になってしまうという事にも。
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左はウェルト縫い付け前、右が縫い付け後。
靴の周囲の張り出したウェルト(コバ)に、底面に貼付けた
ソールを垂直方向に縫い付けて固定するのがウェルテッド製法の構造になります。
底縫い後、ウェルト共々ソールを削り込み、靴のアウトラインを仕上げます。
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完成。
こちらはダイナイトソール仕様。
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基本的に当店ではウェルト交換は受け付けていないのですが、
というのウェルト交換をするには、糸作りからはじまり色々とやる事が多く、
また他の修理のように同時進行で数足の靴のリフトの交換、ハーフソール等々を
進める事ができず、ひとり店主の私が一足に係っきりになってしまう為、
他の修理品の進捗に影響が出て来てしまうので基本的にお断りしておりますが、
作業の途中で発覚!なんてことになると、途中で投げ出すというのは
あり得ませんので付きっきりで仕上げております。

ですので当店ではお時間が掛かってしまうので、ウェルト交換が
必要な方はスタッフが大勢いる規模の大きなお店でご依頼された方が
宜しいかと思う次第な今日この頃…。

ampersandand at 16:37|Permalink

2019年10月25日

GEORGE COXのオールソール クレープソールから革底にしてみる。

まだまだソールは履ける状態ですが、クレープソールは飽きたと
いうことで革底にイメチェン交換になります。
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厚底ですが中は白いスポンジになっています。
スポンジの土台にクレープソールを貼付け、その周りにクレープ素材の
板材を貼付けている仕様です。

クラークスもクレープソールで有名ですが、今回の仕様と同じように、
中はスポンジになっているモデルとクレープソールのみで出来た仕様のモデルが
外観のデザインは同じでも混在しているようです。

このようなモデルは中がスポンジは軽くていいのですが、かかとの
クレープ素材が減ってくると表出した部分は柔らかめのスポンジ素材
ですので、サクサク減っていってしまいます。

外観からはどちらのモデルか判断できないので
コスト削減なのか分かりませんが、だまされた感はありますよね。

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クレープソールを剥いた状態です。
10mmのスポンジベースにかかと部分には12mmくらいのスポンジの貼り合わせ。
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中ものはフェルト素材が使用されていてとてもスカスカな状態で敷かれています。
これでは履き込んでいった際には中底の落ち込みに偏りが生じてしまいます。

シャンクは木材が使用されています。木材のシャンクは5割ぐらいの確率で
割れている事がありますが今回は大丈夫そうです。
革底に穴が開いていたりして中まで浸水していると、木材が腐って折れて
しまう場合が多いようです。

靴のクリーニングで綺麗にピカピカ!というのを、ときどきワイドショー
などで取り上げられていますが、水洗いで靴を水没させて洗っていましたが
どうなんでしょうかねあれは。

今回の靴でそれを行なったとすると、まずはスポンジソールに接着されている
クレープソールは接着剤がふやかされて剥がれ易くなりますし、
接着剤で付いている部分は同様です。

次に木材のシャンクも水分を吸って劣化、または靴の内部はなかなか
乾かないので腐ってしまうかもしれません。
中ものがフェルトでしたのでいつまでたっても濡れているかもしれませんし。

中底は革ではなく紙の合成素材でしたので、水没させてしまうと
こちらもふやけて劣化してしまいます。中底が紙の合成素材というのは
ごくごく一般的で、紳士靴でウェルテッド製法以外であれば、
ほぼ合成素材の場合がほとんどです。
ウェルテッド製法の場合でも使われている事ができましたが。

靴を水没させて洗うというのではなく、日々のメンテナンスで
どうにか維持されていかれたほうが宜しいかと思います。

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最近というかしばしばですが、グットイヤーウェルテッド製法の靴は
漉い縫いが出し縫いに貫通されて切れてしまっています。

もう少し製造工程でシビアに製作して頂かないと修理する方はいい迷惑ですね。
今回もところどころ出し縫いで貫通されて切れていましたので
縫い直しが必要な部分がありました。
これはソールを剥がす前に分かる場合と、
剥がさないと分からない場合があります。

ジョージコックスのウェルトには樹脂製の幅広ウェルトが使用されて
いますがこの素材は経年劣化します。
今回もところどころで劣化によるひび割れが確認できましたが、
とりあえず今回はウェルト交換せずに大丈夫そうです。

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中途半端に敷かれていたフェルトは取り除き、一般的なコルクを
隙間なく充填します。
お客様にときどき尋ねられるのですが、
「コルクの交換はいくらかかりますか?」と。

オールソールの時にコルクの交換が有料のお店があるとのこと。
当店ではオールソールはすべて込み込みです。
シャンクが折れていれば無料で交換しますし、些細な補修は込み込みで
勝手に元通りに交換させて頂いております。
*但しウェルト交換が必要など、大掛かりな補修が必要な事が判明した際は
ご相談させて頂きますが。

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もとが厚底なのでシングルソールですとソールのボリューム感が
乏しいので革底はダブルソール仕様で。(4.0mmと5.0mmで合計9.0mm厚)
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フラットソールからヒール仕様に変更する際のヒールの高さの設定ですが
これは好きな高さに設定出来る部分ではなく、靴ごとに決まっています。
今回の靴は、ヒール部分に12.0mmのスポンジが足されていましたので
ヒールの高さは12.0mmとなります。

そして赤いハーフソール2.0mmがつきますので、合計で約14.0mmが
今回のヒール高になります。
ヒールの高さ設定については詳しくはこちらの記事で


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ご希望は底面は赤く、ということでしたので赤いハーフソールを使用し、
踏まず部分とダヴリフトの革は赤く染色。

余談ですが、赤い靴底といえばルブタンが有名ですが、
ルブタンがイヴサンローランを訴えたというニュースが以前ありました。
イヴサンローランが赤い靴底の靴を発売したことで商標権侵害を
ルブタンが訴えた、という話。

結局はルブタンが敗訴したようですが(当たり前ですが)、しかし一部では
赤い靴底の商標はルブタンに認められたという感じでしたが。
そんなばかな…ですね。
これが認められるならばハートマークは、星印は、ストライプは、水玉は…と
なりそうな気がしますが。
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ダブルの革底はウェルトと出し縫いしてからハーフソールを
取り付けていますので、底縫いの糸が擦り切れる事はありませんので
基本的に今後はオールソールの必要はありません。

ダブルソールで靴底は硬めな仕上がりですので、つま先にはお決まりの
ビンテージスチールの併用仕様。
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シングルソールでもそうですが、ダブルソールの場合は尚更に
靴底は屈曲し難いので、摩耗し易いつま先にはビンテージスチールで
補強しておく事がお勧めであります。
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本体に使用されているオーストリッチの存在感に負けないように
ダブルソールの革底がいい感じですし、靴底のレッドカラーも印象的です。

オーストリッチといえば表面のイボイボのクィールマーク(羽根軸痕)。
このイボイボは平に潰れているものより、大きく丸く盛り上がっているものが
品質が良いとされているそうです。

オーストリッチといえばいつも思い出す話が、
知り合いの職人さんがオーストリッチの鞄をオーダーされ、
革も一級品のクィールマークが綺麗に表れている素材を探して
誂えたところ、ご依頼主に逆にそのイボが気に入らないので
平なイボの普通のオーストリッチにして欲しいと…。

職人は泣く泣く上等なイボを平に潰すことになりました、とさ…。

なんとも落語のような話ではありますが、
オーストリッチの革をみるといつもこの光景を思い出してしまう
今日この頃…。

ampersandand at 11:56|Permalink

2019年06月24日

クラークス、それぞれのソール交換。ソールどれにするか問題。

先日ご来店されたお客様が、(他の修理店でソール交換した際に)
靴の形が変わって戻ってきたんですが、治せますか?
という方がいらっしゃいました。
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こちらはもう廃盤になっているクラークスの短靴ということ。
(現在販売されているのはデザートブーツでチャッカブーツ仕様になります)

ブラウンはオリジナルのままでベージュのものがソール交換されて
形が変わって戻ってきたという靴。
比べると指の付根辺りからつま先にかけて細くなってしまっております。
小指が痛くて履けなくなったと云う事です。
で、このソール交換されて形が変わった靴を、
元の形に戻してオールソールできないかとのご相談。

お客様曰く、色違いのブラウン(同サイズ)の形状を参考に、
形が変わってしまったベージュを元の形状に戻す事は出来ないか…
ということでした。

これをお読みになられている方は、「それはできないでしょ」と
思われていると思いますが、クラークスのこのステッチダウン製法の
靴の場合に限りできてしまうのです(戻せる可能性はある)。

ただその場合、ブラウンの靴も一緒にオールソールしなければなりません。
ブラウンの中底面型が必要になりますがそれは分解しないと
採ることが出来ない為です。

ブラウンは(他店にて)かかとのクレープソールを部分補修された
ばかりでしたので今の時点でソール交換されるのはもったいないので、
ブラウンのクレープソールが摩耗した段階で二足ともソール交換されたら
いかがでしょうか?ということで、ではその時にということになりました。

ですので今回はこちらの靴のお話ではないのですが、
以前も確かクラークスで同様のお話を伺った事がありましたので、
オールソールをご依頼される場合は、どのように治すのかをちゃんと
お店に尋ねられた方がよいですよ、というご報告でした。

クラークスのソール交換については以前も何度か
記事を書いた事がありましたのでそちらも合わせてご参考に
されて頂ければと思います。

参考記事
「クラークスの修理専門店ではないのだけれど…」

クラークスのステッチダウン製法の場合だと、靴を元の形状に
戻せるかもしれないという理由は、本体とソール(中底)が完全に
バラバラにできるからであります。
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一般的な靴の場合、例えばセメンテッド製法、マッケイ製法、ウェルテッド製法
などは本体の形状は中底に固定されているのでソールを分解しても
本体は元の形状を維持しています。
ですのでそれらの仕様の場合は、本体の形が変わったクラークスのように
靴の形状が変わってしまうという事はあり得ないのです。

画像でも分かるように、ソールを分解すると本体は抜け殻のように
なってしまいますので、本体の形状というのはソールの外形に依存している
関係となっています。
ですのでソールの形状を元通りに製作しないと靴の形状、サイズ感が
変わってしまうという事になります。

恐らく前回ご依頼された修理店では中底の型採りを行なわずに
手持ちの似ている(似ていませんが)靴型を使ってしまい
結局はその違う形の靴に合わせてソール交換をしてしまった
ということだろうと思います。

工場などではいちいち一足ずつ底面を型採りしては
やっていられないという事でしょう。
そもそも、そうであるならばそれを事前に説明して受注しなければ
ならないと思うのですが、その点もお客様はとてもお怒りでした。
「靴の形が変わってしまいますよ」と云われれば頼まないですよね、と。

しかもクラークスの場合は靴の左右でも形状にブレがありますので
左右とも型採りする必要があるので余計手間がかかります。

ちなみにですが例えばクラークスのオリジナルの靴型があったとしても
それを使って履き込んだ靴をソール交換した場合、やはり形状やサイズが
少し変わってしまうとも考えられます。

ですので現状の履き込んだ靴の状態に合わせてソールを作成した方が
よいのではないか、と現時点では思っています。
履き込んで自分の足の形に変形している(させた)のだし、
わざわざ自分の足とは違う靴型の形状に矯正し直さなくてもいいのでは、と。

クラークスの場合、裏革が無い革一枚で作られているので
オールソールするくらいまで履き込んでいると革がかなり伸びています。
そしてソールも、底材のなかで一番柔らかいクレープソールが
用いられているので、中底がかなりの勢いで沈んでいますし、
アッパーを縫い付けている中底兼ミッドソールもフェルトのような生地
ですので前後左右にアウトラインも歪んでいます。

新品だとこのぐらいの中底面の凹みが
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ソール交換の時期だとこのぐらい足の形に凹んでいます。
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これだけ沈むと2とか3サイズくらい大きくなっているのではないでしょうか。
中底の凹み方は指先が特に凹む人、踏みつける部分が凹む人
ひとそれぞれ歩き方によって凹み方は違っています。
早歩きの方は指先が凹みやすいかもしれないですね。
こちらの方は親指のところが極端にぼこっと陥没しています。
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中底面の型採りする際は、指の凹みや足裏のの凹みまでは完全には
トレースすることは物理的に無理ですし、採れても足の凹みを
新しい中底で再現することもできません。
ですので、ソール交換した場合には足型に凹みがついていない
新品時点の先程の画像のような中底面に戻ります。

ただ皆さん革が延びて中底も深く沈んでサイズが緩くなった状態で
履かれているので、ソール交換するとちょうど良くなったということで
結果的にサイズ感は常々いい感じのようです。

そして厚みのある革中底を使用していますので、履き込んでいくと
足裏の負荷の掛かり具合で繊維が圧縮され、その中底には新たな
自分の足裏の形が記憶されていきます。

ではまずはこちらの事例からご紹介。
経年劣化によりクレープソールがねちょねちょ状態でごみが付着し放題…。
クラークスではよくあるクレープソールが嫌われる原因のパターンです。
BEFORE
デザートブーツ・クロムエクセルモデル
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底縫いの糸はボルドーカラーはないので麻糸を染めて糸作りから。
手縫いでちくちく…。
アッパーに開いている元の縫い目通りにミッドソールに
穴をあけ、その穴をひとつひとつ拾いながら縫っていきます。
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ミッドソール(中底)は耐久性のあるレザー(ショルダー)を用いております。
アウトソールは悩まれた結果、VIBRAM # 4014のブラックカラーをご選択

AFTER
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ミッドソールはソールと同色のブラックに染めずブラウンカラーに染め付け。
ブラックに染めた場合は、まとまりがでますが少し重い印象にもなります。
ブラウンカラーに染める事でアッパーのボルドーとの相性もよく
クラシック感もでていい感じです。
1906クラークス0041906クラークス005


こちらはデザートトレック。
同じくVIBRAM # 4014を用い、こちらはアイボリーカラーをご選択
クラークスのソール交換で一番選ばれているソールは#4014ソールになります。
ラバーとスポンジが混合されたような素材感で適度な弾力があります。
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こちらは三足同時依頼のデザートブーツの三種盛り。
それぞれ異なるソールで履き比べでしょうか。
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ちくちくちくちく…。
三足ぶっ続けで縫うと、知らない筋肉が痛みだします…。
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AFTER
まずはレザーソール仕様。
こちらはステッチダウン製法とマッケイ製法を併用しています。
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VIBRAM #2060 brown
こちらの素材はスポンジソール(同じような形状で#2021もあります)
とても軽量なので重いクレープソールからの交換ですと、
持った瞬間「軽っ!」と皆さんつい言葉がでてしまいます。
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VIBRAM #1136 black
トレッキングブーツなどにもよく使われているタンクソール。
硬質なラバー素材ですが凹凸でブロックが別れているので屈曲性は良好です。
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こちらは記事を書いていて見つけた蔵出しクラークス画像。
VIBRAM #2668 black
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日々修繕写真を撮っていますが、どんどん溜まっていくので
埋没してしまった熟成AFTER画像はわんさかございます。
ガムライトというVIBRAMオリジナル素材。
ラバー素材に比べ40%軽量ですが耐久性は変わらないという
スポンジ系素材です。
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カメラにぜひ付けてほしい機能なのですが、撮影の際に声で
タグ付けできるようにならないものでしょうか。

例えば、「クラークス」と云って撮影を始めると一連の撮影の画像には
(音声タグが有効な時間(撮影の期間)を設定できるようにすればいい)
「クラークス」というタグがついているので、ソフトで画像検索する際に
「クラークス」で検索すれば撮影したすべてのクラークス関連の画像が
表示されるようになれば、修繕の際のBEFOREとAFTER画像が行方不明に
ならなくて済むのですが。

スマホならば音声入力ができるのでアプリでできそうなんですが、
すでにあったりするのでしょうか。

できればその機能を、PENTAXの一眼レフに搭載して欲しいなと。
パソコンで画像を探しているうちに目が疲れてしまい、
記事を書く前に私の眼がシャットダウンな今日この頃…。

「Hey!PENTAX、クラークスの画像をだして」

ampersandand at 10:52|Permalink

2019年06月20日

エルメスだからって作りが良い訳ではないのか…。オールソール篇

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エルメスの紳士靴。
革底がべろーんと剥がれてしまっています。
セメント製法(接着)かと思いきや一層目のソールは本体に底縫いされています。
二層目の革底のみを接着で固定。

ソールが剥がれてしまうとやりがちなのが、自分でDIYをして
この状態から接着剤をどばっと塗布して、むぎゅっと貼り合わせてたら
接着剤が隙間からはみ出してきて、焦ってはみ出た接着剤を
指でこすりとって、その指で靴を持ち替えた時に革を触ってしまって、
べたべたベたと接着剤の指紋の跡…という感じかと思います。
で二、三日したらソールが剥がれてきて…なんやねんと。

ソールの接着ってなにげにかなり面倒で厄介なのです。
基本的には古い接着剤はすべて削り取る、両面とも。
なのでこのべろんとした状態からではグラインダーで削る事はできません。
(紙ヤスリで擦り擦りやっても業務用の接着剤はとれません)

仮にソールを手で押し広げてグラインダーの回転している面に
接着面を宛てることが出来たとしてもソール面側は凹湾曲しているので
端の部分ばかりにグラインダーがあたってしまい縁がガタガタ、
結局貼り合わせたら隙間が開いている…なんてオチです。

そしてヒールがついているのでソールを完全に分離する事も出来ません。
ヒールは通常、本体に向けて釘が10数本打ち込まれていますので
綺麗に外す事も出来ませんしそれを再固定するというのは不可となります。

また欧州で作られた靴ですと接着剤の配合が国内のモノと異なり
削るとねちゃねちゃと溶けてしまい素材にへばりついてこれまた厄介。
結局は削ってからねちゃねの表面を溶剤でコーティングしないと接着剤すら
つかない始末だったりします。

なので一般の方が思われている以上に再接着って難易度高し!なのです。
今回はそのような事情もあるのですが、そもそも靴底中央が
ぺこぺこでもうじき穴が開いてしまう交換目安の時期でしたし、
仮に接着できたとしても接着のみですのでまた剥がれてくる可能性は残ります。
基本的に革底を接着だけで固定するというのは私の考えではNGなのです。

婦人靴の革底はほぼ接着だけで固定されていますが、あれは革が薄く
柔らかいので歩行の際には靴に合わせて革底も一緒に曲がってくれますので
比較的、接着のみでも剥がれ難かったりします。
といっても革は繊維素材ですので、雨に濡れてしまうと毛細管現象で
内部まで雨水を吸い上げ接着面をふやかしてしまい剥がれてしまいがちです。

紳士靴の場合ですと5.0mm前後ある硬めの革底(ベンズ)を使用しているので
曲がり難く、また今回のように二層になっている場合ですと、
屈曲の際に一層目と二層目では二層目の方がより距離を曲がらなくてはならず
その距離のギャップで剥がれやすかったりもします。
1906039
ちなみにかかとはまだ一度もリフト交換していない段階。
かかとを一度も交換していないのに革底はすでにぺこぺこで
薄くなって交換時期となると…ランニングコスト悪し!ですね。

エルメスの肩を持つ訳ではないのですが、二層目を接着だけで
仕上げている今回の仕様というのは分からない訳ではありません。
1906038
今回の製法はボロネーゼ製法という作りになっています。
ボロネーゼ製法は、屈曲する前側に中底を取り付けずに
本体の革で包まれている状態になっています。

分かりやすく云うと靴下に革底が付いている状態です。
ですので画像のように手で軽く曲げただけで簡単に屈曲します。
ということは歩行の際には靴の屈曲性良いという仕様になります。
(逆に考えると底が薄いので疲れるとも云えますが)

で、二層めのソールも底縫いで本体に縫い付けてしまうと
厚みは変わらないのですが二層を縫製することで、層と層が結束し
少し曲がり難くなるので接着だけにしたのだろうと思われます。

といっても一般的な紳士靴は中底があり、底縫いもしているのですから
それに比べるとまだ底縫いしても屈曲性はいいのですが。
「ある程度履くと剥がれてきてしまう仕様」と比べ、
どちらがよいかという判断になる訳ですが。

ご来店は奥さまがお持ちになられたので以上の内容をご説明して
どのような仕様にするかご相談させて頂いた結果、
底縫いを掛けてハーフソールスチール併用仕様という設定で
交換する事になりました。

ちなみにレザーソールでオールソールする場合、当店では
このハーフソールスチール併用仕様を選択される場合が一番多いです。
手前から Church's・Hermes・JALAN SRIWIJAYA
1906028
19060271906026
この仕様ですとレザーソールと本体を縫い付けている底縫いの糸は
ハーフソールを取り付けていますので擦り切れず保護できます。
そして一番摩耗しやすいつま先もスチールで保護されています。

ハーフソールは底面の保護と滑り留め効果の他に、雨の日に路上からの
雨水の吸い上げを防ぎ、靴側面にできる雨シミ予防にも効果があります。
これは結果的に濡れと乾燥から生じる革の硬化からの履き皺の割れ予防にも
関係してくるかと思います。

基本的にこの仕様であればハーフソール、スチール、リフトを
摩耗した段階でそれぞれ交換して頂ければ、以後オールソールする必要は
ないという訳です。
AFTER
190614000
靴底はエルメスオレンジ風に染色。

エルメスのブランドカラーがオレンジというのは元々は違っていたそうで
戦争で徐々に梱包資材が無くなり、最後に残った派手な包装紙の
オレンジをしぶしぶ使用しなければならない状況に。
戦後、物資が整い元のゴールドや象牙色の梱包に戻したところ、
お客様からオレンジが良いという声で今のエルメスオレンジに
なったというらしいです。

出来過ぎているストーリーに疑いを抱いてしまいますが素敵なお話です。
1906029
始めに初期投資のハーフソールスチール併用仕様のコストは
掛かりますが、それを回収できるだけの耐久性はあると思います。
今回のエルメスのようにリフトを一度も交換する前に
オールソールなんてかなり費用対効果が悪いです。
といってもそのような靴はしばしばありますが。

ですので、新品の靴も履く前にハーフソールスチール併用仕様がおすすめです。
ウェルテッド製法の靴で、すでに製品の段階でウェルトを削り過ぎていて
オールソールの際にはそのままでは交換できない製品もあったりしますので。
「ビンテージスチールを取り付ける」まとめ記事はこちら

ampersandand at 21:26|Permalink

2019年02月21日

普段やらないウェルト交換 A . MANETTI  半カラス篇

前回までのあらすじはこちら
A . MANETTI  分解篇
A . MANETTI  ウェルティング篇

底付けが前回までで終わりましたので、残すはヒールの取付けと
底面の仕上げになります。

ヒールの積上げ
一段目は靴底の丸みが強いので、取り付けた積上げ革の
膨らんだ中央部分を削り落として平に加工します。
その後、ヒールの角度を見ながら今回は三段積上げし
最後にダヴリフトを取付け化粧釘を打ち込みます。
ウェルト交換015ウェルト交換014ウェルト交換013

つま先部分はビンテージスチールをセットするので
その厚みの段差を加工しておきます。
既製品でスチールを取り付ける為にこの加工をすると、
だいたいの靴は底縫いの糸が切れてしまいます。
(切れてもスチールを固定するビスで固定されるので問題はないのですが)

オールソールの際に同時にスチールも取り付ける場合は、
凹みの加工を行なっても底縫いの糸が切れないように
出し縫いがかかる溝を深めに設定し底縫いを行なっていますので
画像のように凹みを作っても糸が見えてきません。
ウェルト交換012
革底面の表面はバフ掛けして表面を綺麗に整えてあります。
整えて綺麗にした表面をふのりで磨いて艶を出します。
ウェルト交換011
踏まず部分は今回は半カラス仕上げでご注文頂いておりますので
ふのりを付けず磨かずに残しておきます。
踏まず部分を染めるのでマスキングをし染料で
いっきに染め上げます。
ウェルト交換009ウェルト交換010
ウェルト交換008
染料でダークブラウンに染めた部分には気泡や埃などが
どうしても付着してしまいますので、#1000くらいの
紙ヤスリでコキコキと表面を研ぎます。
ウェルト交換007
研ぎ上げて表面が平滑になりましたら、防水と艶だしを兼ねて
メンチュウロウを塗布し、温めた鏝で薄く溶かし広げ伸ばします。
その後、布で再度コキコキと余分なロウを取り除き
艶が出るまで磨き上げます。

そうこうしましてようやく完成となります。
踏まず部分はオリジンルではウェルトが削られ接着のみで
縫われておりませんでしたが、しっかりと縫って仕上げております。

ですので、その分出し縫いの際にはウェルト部分の幅が
必要になりますので、踏まず部分のくびれは多少横幅がオリジナルよりは
広くなっている設定になります。

といっても充分踏まず部分はくびれているとは思うのですが、
どうでしょうか。
ウェルト交換006ウェルト交換002
ウェルト交換005
190219-1
これだけ磨き上げて仕上げても、一旦路上に出てしまえば…。
ですのヒドゥンチャネル仕様(半カラス仕上げ)に費用を掛けるより、
実質剛健なチャネル仕様でハーフソールスチール併用を
お勧めするわけなのですが…。

江戸っ子気質な、粋なヒドゥンチャネル仕様だなぁと思う
今日この頃…。

ampersandand at 23:52|Permalink

2019年02月19日

普段やらないウェルト交換 A . MANETTI  ウェルティング篇

前回のあらすじはこちら

前回はソールを剥がしてみたらやっかいなウェルテッド製法だったので
あら大変…というところまででしたので、
今回はウェルト取り付け篇ということになります。

まずは革底を縫い付けるためのウェルトを縫い付けなければなりません。
ただ通常のウェルテッド製法であればすくい縫いする穴が
ちゃんと見えているので大変ではないのですが、今回は
アッパーの革が被って縫い穴が見えないし、縫い穴も
中底に切り込みを入れた部分の奥底に…。
ウェルト交換063
穴の位置関係が分からないのでマチ針で確認…。
つま先部分などはピッチが変わっているし、先芯も入っているので
分かり難さ倍増です。

位置が分かったところですくい縫いしてウェルトを固定していきます。
ウェルト交換030
縫って…
ウェルト交換031
縫って…
ウェルト交換032
縫って…
ウェルト交換033
つま先でようやく半分折り返し…
ウェルト交換038ウェルト交換039ウェルト交換040
ウェルト交換041
縫い付けているウェルトは濡らしてあります。
濡らす事で柔らかくなってカーブなどは縫い付け易いのですが
濡らした状態でテンションを掛けて縫い付ける事で
乾燥した時には、ぱりっとウェルトがいい感じで張ってくれます。

かかと部分は一般的にはハチマキと呼ばれる別パーツを
取り付ける事が多いのですが、
今回はオリジナル同様に一周ぐるりとウェルトが取り付きます。
かかと部分は合理的にタックス(アルミの釘)で潰して
固定されていましたので同様に固定しておきます。

一周回してきましたら、ウェルトの端同士は互い違いに漉いてありますので
重ねて同じ厚みになります。
ウェルト交換037
ウェルト交換042
取り付けたのは靴の周りに張り出しているこの部分。
全部が全部このように張り出しているタイプは、
中底に縫い付けられているウェルテッド製法かというと
そうではなく、マッケイ製法やセメンテッド製法では飾りウェルトという
パーツを間に挟み込んでいるだけの仕様もあります。
ウェルト交換044
ちなみに下画像が一般的なグットイヤーウェルテッド製法。
縫い付ける部分の革が被さっておらず、段差部分がよく見えると思います。
これだとかなり縫い付ける手間は楽なのです、穴が見えていますので。
ウェルト交換048
今回の靴で不思議な点が一点。
靴には踏まず部分にシャンクと云われる主に金属製のプレートが
施行されてヒールと踏まず部分を支えている背骨のようなパーツがあります。
通常そのパーツは踏まずに添ったラインで取り付けられているのですが
今回はその反りが逆向きでセットされていました。
ウェルト交換046
ちょっと分かり憎いのですが踏まず部分が膨らんでいると思います、
一般的にはこの反りは逆反りでセットするのですが…
なにかこれに効果があるのかどうか分かりませんが、
MANETTI工房の考えなのでしょうから同様にセットしておきます。

一応持ち主さんに、「逆向きで入っているんですけどー」と
確認しましたが、元通りでOKということでした。

国産の工場ライン製造ものと違って、あちらの工房モノっていうのは
時々あれっ?という一般的な仕様と異なっている場合があるので
有りなのか、無しなのか、驚きと困惑の間で…という感じです。

ウェルトが取り付けましたら、中もののコルクを入れます。
ウェルト交換047
もともとは薄いスポンジが入っていましたが、柔らかすぎるので
コルクの薄めを入れて余分を削り落とす事にしました。

オールソールするまで履き込んでいるので、
中底には足型の跡がしっかりと付いています。
ですので、これ以上不必要に中底が沈下するのを
予防する意味合いも含めコルクにしました。

次に革底を取り付けてヒドゥンチャネル仕様の加工を行ないます。
この加工は恐らく靴でしか行なわない作業だろうと思います。

ですので受付の際にこの部分の処理を口頭でご説明しても
イメージできず???と思われる事がしばしばです。
ヒドゥンは隠す、チャネルは溝、溝を隠す仕様と云う事になります。
ウェルト交換022
革底の端に革包丁を差し込んで15.0mmくらいの幅で厚みは1.0mmくらいで
革に切り込みを入れていくイメージでしょうか。
お刺身をおろす時に、おろしきらない感じでしょうか。

靴底もつま先側や踏まず部分でそれぞれ底面の丸みが異なりますので、
それに合わせて差し込んでいる包丁の角度も微妙に変えながら
切り込んでいきます。
ウェルト交換023ウェルト交換024
切り込みを入れ終えたらその部分を起こします。
端は薄く奥は厚めにというイメージで包丁を入れ込んでいますので
端の部分は革がひらひらするくらい薄くなっています。
革を起こした部分に溝を掘り、その溝に出し縫いを行います。
ウェルト交換025ウェルト交換028
革底での交換の場合、その多くはチャネル仕様、革底面に底縫いの縫い目が
見える仕様でご依頼されますが、
このヒドゥンチャネル仕様というのは当店の場合、
年に数件程度ご依頼があります。
ごく僅かなのは、私がお勧めしないということと、
手間が掛かるのでその分費用も割高になるのが理由かと思います。

お勧めしないのは、ヒドゥンチャネル仕様にするのであれば
チャネル仕様にハーフソールスチール併用仕様を
オプションで付けられた方が、それより費用は安くなりますし、
耐久性も格段に良くなるからであります。

費用が高い方を進めないというのは経営者としてはまずいのですが…。
といっても今回のご依頼主さんのように、
私が懇切丁寧に併用仕様のメリットをご案内しても、
「ヒドゥンチャネル仕様で。」という方もいらっしゃるのですが。

しかもつま先にはスチールを付けないということでしたので
そこは説得して付けて頂きましたが。
オプション追加を説得する経営者というのもいかがなわけではあるのですが。
しかしつま先がすぐに減ってしまうのは目に見えていましたし、
現に今まで修理された靴はすべてつま先がやられていましたので。
(歩き方によってはつま先が余り摩耗しない方もいらっしゃいます)

ウェルトと革底に出し縫いを掛けましたら、
今度は先程起こした革を伏せて縫い目を隠していきます。
ウェルト交換029

疲れ目で瞼がぴくぴくとしてきましたので、
今回はここまでと致します。

次回は仕上げの「靴底お化粧篇」になります。

ampersandand at 19:15|Permalink

2018年11月25日

壊れすぎていないオールデンを治してみる。 ハーフソールかオールソール、どちらにするか問題。

前回のオールデンの修理と比較するとだいぶ軽症ですが
軽症なのでオールソールするか、部分補修(ハーフラバーソール)とするべきか
判断に悩む状態の今回のオールデン。
181105blog80

前回のオールデンはこちら
「壊れすぎたオールデンを治してみる。 分解篇」
「壊れすぎたオールデンを治してみる。 裂け補修篇」

181105blog77
悩みどころは革底が剥がれてこないかどうか。
特にウェルテッド製法の場合は特にそうなのですが
底縫いの糸が切れていると革底が剥がれてき易い場合があります。

ウェルテッド製法の場合は、中央にはコルクが充填されており
この部分は接着強度は求められません。
ですので革底との接着されている部分は実質
ウェルト部分の幅、1.0cm幅程度の面積となっているのが
剥がれ易いその理由となります。
181105blog75

つま先はすでに他店でラバー補修されていましが、
ダブルソールのオールデンですので、履き始めは特に靴底が返らず
つま先が極端に摩耗したので早々修理されていたのでしょう。
貼られていたラバーを取り除くと…
181105blog84
181105blog85
糸も完全に擦り切れていますので、ぱっくりと。

当店で底縫いの糸が擦り切れた状態でラバーや革素材で
つま先の補修をする場合は、補修部材を取り付ける前や、または
補修部材と一緒にビスでベース部分に固定するようにしています。
糸が完全に切れた状態の土台に補修部材を貼付けても
ベースになる部分がウェルトから剥がれてしまえば意味がありませんので。
181105blog69181105blog70
つま先部分の糸切れについては、ビスで固定できるので切れていても
部分補修という手段はとれるのですが、それ以外の部分、
特に屈曲部分の糸切れについては判断に悩みます。
上画像では周囲に縫われている糸目が擦り切れて見えなくなっています。

下画像はちょうど接地する部分の境目に糸が
擦り切れてなくなっているのが分かるかと思います。
181105blog73181105blog74
この状態からハーフラバーソールを取り付けるとなると
糸が切れている状態ですので、徐々にだったり何かのタイミングで
貼付けた土台となる革底が、先程のつま先部分のように
本体(ウェルト)から浮いてきてしまう場合があります。

ハーフラバーソールを貼付けたから剥がれたというよりは、
すでにある程度履き込まれている状態(糸が切れている)ですので、
貼っても貼らなくてもその時期だったという感じでしょうか。

また後ほど触れますが、オールデンの場合は新品の状態でも
本底、ミッドソール、ウェルトとの間が浮いてきている(ずれている)
場合が多く、底縫いでそれぞれを固定し、接着は底縫いを行なう際の
仮固定という位置づけの仕上げのようです。

では底縫いの糸が切れているからすぐに剥がれてくるかというと、
剥がれてくるものもあればこないものもあったりなかったり…。
また底縫いが擦り切れて、糸の断面がまだあるような状態ですと
その状態でハーフソールを貼付けると、糸の断面がハーフソールの
接着面に固定されますので、案外そのまま固定できるという場合もあります。

いずれにしても、このような場合によくお客様に尋ねられるのは
「どうですかね、剥がれてしまいますかね?」と。

店主の答えとしては、
「糸のみぞ知る…」
とはぼけられませんが、「どうでしょうかね〜」としか
お答えができません。

で、今回は…
まだまだ履き続けたいので「確実なオールソールで。」
ということになりました。
その場合は革底で行なうと、今回のように悩ましい経過を辿ってしまうので
ハーフソールビンテージスチール併用仕様(現役最強仕様)で
始めから万全の体制を敷くことになった次第であります。

それでは分解。
前回の瀕死のオールデンと違い、イレギュラーな事故も起こらず
いつもの手順とおりに。
181105blog81
トップリフト(ダヴリフト)を外して
181105blog82
積上げと下ハチマキを外して革底がでてきましたが、
ほぼ接着剤は塗布されていない状態です。
その代わりに、それぞれの段階で数種類の釘が使用され固定されています。
181105blog83
老舗のメーカーの靴に多いのですが、ウェルテッド製法という作りは
そもそもオールソールし易いように考案された作り方ですので、
なのでオールソールの際にばらし易いように仮固定程度の
接着で済ませるという考えもあるかと思います。

また、昔は接着剤の効果が低くそれだけではそもそも固定できないので
革底は底縫いで固定し、かかとの部分は釘(木釘)で一段一段
固定するという考えがメーカーのよっては現代でも脈々と受け継がれて
いっているのかもしれません。

1884年にオールデンが誕生した頃のような路上が土ではなく
アスファルトで舗装された現代の路面では、底縫いの糸も
擦り切れ易いので、そろそろそんなメーカーは接着剤の使い方については
再考の余地はあるのではないでしょうか。

本底を剥がすとダブルソールですのでミッドソールがあります。
本底とミッドソールもほとんど接着されていない状態です。
181105blog88
ミッドソールを剥がすと充填されたコルクが見えてきます。
181105blog89
前回の瀕死のオールデンと異なり雨水の侵入も見られず
シャンクも錆びておらず鈍色の綺麗なままです。
181105blog90181105blog92
この後は、底縫いの糸を一目一目抜き、コルクを入れ直し、
ミッドソール、革底を取付けて出し縫いし、かかとを積上げていきましたら…

三分クッキング的な感じですが、完成となります。
AFTER
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ハーフソールビンテージスチール併用仕様で
リフトもVIBRAMラバーリフトですので
耐久性とランニングコストを踏まえた現代最強仕様となっております。
この仕様であれば、底縫い糸が擦り切れると云う事は無いので
革底が剥がれてくる事もありません。

摩耗した段階でそれぞれ、ハーフソール、スチール、ラバーリフトを
部分交換していって頂きますと、オールソールの必要は今後ないかと思います。

オールソールの段階だけではなく、新品の段階で
ハーフソールスチール併用仕様を行なえば同様の仕様になります。

今回はアッパーの状態もよく、履き皺の割れや小指部分の裂けなどは
見受けられませんでした。
(かかと内側の擦り切れはありましたが、補修対応で改善)
例えば、履き皺のひび割れ、革の硬化などアッパーの痛みが見られた場合は
オールソールはあまりお勧め致しません。
(なので前回のオールデンはお勧めしなかった訳のですが…)

底周りをオールソールで新品状態に戻しても、後に
アッパーが裂けたりしてしまうと、補修できても縫目が目立つところに
出来たりと見栄えが悪くなりますし、修理できない場合もあります。

ですのでそのようなアッパーの状態が悪い場合には、
オールソールではなく、部分補修で応急処置し、
「履けるところまで履く」というアドバイスになると思います。

ということは末永く愛用するには、日々のアッパー(本体の革)の
お手入れが重要と云う事なのですが(履き始めの時から)。
面倒であれば、屈曲部分(指回り)だけでもいいので、定期的に
保湿を行なってみて頂ければと思います(雨で濡れて乾いた後には特に)
*保湿といってもミンクオイルは使用しないでください。

面倒くさがりやさんにはレザーローションがおすすめです。
無色なので色を気にせず使用できます。

当店でも乾燥気味の修理靴には、乳化性クリーム(色付き)で磨く前に
こちらで保湿を行なってから磨いています。
この製品のみの使用でも、乾拭きすると程よく艶がでますのでいい商品です。

汚れ落としと保湿が同時にできるので面倒くさがりやさんには
もってこいです。
*使用には説明書をよくお読みになってお使いください。

[サフィール] SAPHIR ユニバーサルレザーローション 150ml 汚れ落とし 保湿 ツヤ 靴磨き バッグ 無色 レザー クリーム 9550904002 (Free)


HPアイコンロゴアウトライン


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2018年11月17日

壊れすぎたオールデンを治してみる。 裂け補修篇

前回までのあらすじはこちら。
「壊れすぎたオールデンを治してみる。 分解篇」

今回は本体の裂け補修を行ないます。
181105blog29
181105blog34
閂(かんぬき)部分から小指側面にかけての裂け…

閂の部分は負荷が掛かる部分ではありますが、
履く際には靴ひもが下段部分に通っておりますので
緩めていたとしても完全に羽が開ききるような状態にはならないはず。

ですので壊れるとすれば靴ひもを緩めて
立った状態でつっかけるように足を入れて履こうとする状態ですと
ベロの部分がぐっと爪先側へ倒されるので、閂部分に
一点集中で加重が加わり壊れてしまう場合があります。

靴を履く際には靴ひもを緩め、腰を掛けて履いて頂く事を
お勧め致します。
また立った状態で突っかけて履こうとすると、
かかとを踏んづけて潰してしまいがちですし。
今回のオールデンも軽く潰れています。

今回のように完全に断裂してしまうと、裂け目を合わせながら
縫製することはこの状態のままではできません。
元の位置に状態を固定したいのですが、固定するべき土台がありません。
また靴底の反発もあるので、ぐっと手で靴底を曲げていれば
合わさり目は近づくのですが、手を離してしまうと遠ざかってしまいます。

まずは比較的柔らかい裏革のみを手縫いで縢りながら
元の位置(状態)に縫合していきます。
アッパーのコートバンを押し広げ、その隙間から見える裏革のみを
たぐり寄せながら縫合します。

181105blog20
181105blog21
隙間から指を突っ込み縫製しているので綺麗に縫えませんが
この縫製は表革のコードバンを元の位置関係に貼り合わせる為の
仮固定という具合です。
最終的にこの痛んでいる周辺には内側から革を宛てがい
それぞれ縫製し固定します。

これでベースとなる土台ができました。
アッパーを貼り合わせる前に、裏革と表革の間にナイロンを挟み込みます。
閂部分から裂け目に掛かるようにセットします。
ナイロンを挟み込みまとめて縫製する事で伸び止めの効果が期待できます。
181105blog23
次にかんぬき部分を補修します。
かんぬき部分は、爪先側とかかと側のパーツの交差点です。
爪先側の表と裏革、かかと側の羽の表と裏革の合計四枚が
それぞれ互い違いに重なり合って縫製されています。

今回はそれに加えてナイロンなどの補強材も新たに挟み込んでいますので
スクランブル交差点状態です。

まずは下層のベロとのつながり部分をかがり縫い合わせ固定致します。
そして部分的に分解しておいた羽の付根を合わせ、仮固定しておきます。
181105blog24
最後に内側から革を宛てがい補強致します。
小指側面部分から閂までを覆うようにセットし、
裂け目と閂と羽部分をそれぞれ縫製致します。
181105blog25
加わる荷重をそれぞれの点ではなく、
革で補強した側面全体で受け止められるようなイメージです。

次にかかと内側の擦れ補修。
181105blog31
かかとにはカウンター(月形)という芯材が固められて入っています。
(婦人靴では柔らかい芯材のもの、または入っていないものもあります)
これは不安定なかかと部分をホールドし、左右のぶれなどを制御してくれます。

ですので、かかと部分を踏みつけて潰してしまったり、
今回のように擦り切れて割れてしまう状態になってしまうと、
靴のホールド感は40%ぐらい低下してしまうことでしょう…。

わたし的には「かかとを踏んづけてしまう」というのは
あり得ない行為なのですが…。
iPhone Xを購入した日に、わざわざ軽く画面を割るような感じでしょうか。
181105blog46
程度によって補修方法や使用する素材は異なります。
今回は摩耗が酷いのでえぐれている部分にまずは革を一枚宛てがいます。
状態によっては部分的に芯材を追加する場合もあります。

補強革でえぐれを補修し、このブーツのかかとの反りに合うように
型採りして作成した腰革で覆います。
181105blog47
181105blog48
当店ではかかとの内側補修の際は通常履き口部分の縫い目は
見えなくなるように仕上げています。
かかとの内側を擦り切ってしまう方ですので、
縫い目は擦り切れないように隠してしまったほうがいいのでは?
という考えです。

画像は次回ご案内する予定の「壊れすぎていないオールデン」の
かかと補修のBEFORE/AFTER画像になります。
こちらは短靴ですので縫い目が見えない補修方法で行なっています。
BEFORE
181105blog79
AFTER
181105blog52

ブーツの場合は履き口部分が擦れる事は無いので、
また縫い目を隠す方法ですと、裏返しに縫製した革を
ひっくり返して内側に倒すので、ブーツでこの方法をとってしまうと
覆う面積が広く、内外の関係でひっくり返した内側に
皺がたくさんよってしまいます…って云われても??
と云う感じかと思います、その状態の画像があるはずなのですが行方不明…。

ですので今回は、少し仕上りの位置から革をはみ出しておいて、
縫製後にあまった革を縫い目の1.0mm隣りで、いちきりという道具で
さらう(切り落とす)方法で行ないました。

AFTER
レザーソール/レザーミッドソール/チャネル仕様/積上げ/ダヴリフト
181105blog43
側面部分の補強革は黄色の範囲で取付け、かかとの補修は水色の範囲に
なっています。
181105blog43-1
181105blog44
裂けていた部分はこんな感じ、ややピンぼけ。
黒い被写体は難しいです、ピントや露出が合わないな…。
1116
傷口は極力目立たないように塞がったのではないでしょうか。
遠目にはあまり目立ちませんし、日頃こまめに磨いて頂ければ
コートバン特有の照りで、補修の縫い目より輝く履き皺の艶が
先に目に入りますので。

裂け目は部分的に黒いコートバンで覆う方法も考えたのですが、
画像では分かり難いのですが、微妙にダークブラウン的な色合いにも
見える時があり、エイジングとお手入れのしなさ過ぎにより
色が不思議な感じに変化しています。
181105blog45
ですので、仮にブラックのコートバンで被せても色がちぐはぐに
なってしまうかなというのと、今回はチャッカブーツですので
周辺にパーツを固定するのに利用できる縫い目がないので、
貼り合わせたそのパーツを囲うような縫い目がぐるっとできてしまいます。
そもそもブラックの在庫がないし、用意しても補修費用は
ぐっと跳ね上がってしまいます。
ボルドーのコートバンなら在庫はあるのですが。
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ソールはダブルソールですので、靴底が返り難く爪先が
摩耗し易くなりますので、ビンテージスチールをお勧め致しましたが、
「レザーで。」ということで。
リフトも当然耐久性の高いvibramラバーリフトではなくダヴリフトに。

当店としては持ち込まれた際の瀕死の状態からして、
日頃のメンテナンスを考えますと、ハーフソールスチール併用仕様で
VIBRAMラバーリフトをお勧めしたいところですが…。

ちなみにお渡しの際に履いて頂き、具合を確認して頂いたところ
とてもフィットして履き易くなったとのことで
そのまま履かれてお帰りになられました。

すくい縫いが切れたり緩んでいた状態でしたので、
裂けが無くても、それらの影響で外側へと広がっている状態
だったのだろうと思われます。

次回「壊れすぎていないオールデンを治してみる」篇に続く…。

ampersandand at 18:35|Permalink

2018年11月16日

壊れすぎたオールデンを治してみる。 分解篇

今回の患者さんはこちら。

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ざっくりと…。
ソールもコルクが流出し始めていて瀕死の状態…。
コルクが流出している状態で履いてしまうと、
中底が陥没、そして割れが発生してしまいますのでご注意を。
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かかと内側部分もだいぶやられていますね。
(修理された箇所がまた擦り切れて壊れていますね…)

修理店を渡り歩いてすでに三度オールソールをされているとのこと。
あと10年ぐらいは履きたいということですが…。

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かんぬきから小指側面への裂けは、革の硬化が原因です。
履き皺が段々によっていますが、あまり伸びずにこの状態で硬化しています。
(シューキーパーを使われていないとこのように皺が深くなってしまいます)

ということは、歩行の際の屈曲に革の収縮が追いつかないので
結果、羽の付根部分の閂に負荷が掛かりますので、
そこを軸に硬化し弱っていた小指側面部分にかけて
裂けてしまったのかと推測されます。
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コートバン(馬のお尻の革)は繊維の密度が高く強靭といわれていますが、
牛革と違い繊維方向が一定方向のようで
その方向へ負荷が掛かった際には裂け易いという傾向があるようです。
また革の仕上げ行程により水に弱いのですが…

今回は水に濡れて、乾燥してを繰り返し硬化してしまった革なので
余計に裂け易い状態にあったかと思います。
他にも定番の小指の腹部分と先芯との境目にも
亀裂が入っている部分がちらほら…。
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このような状態ですので、修理はあまりお勧めできない事と、
修理しても、今後アッパーの何れかの部分で再度壊れてきてしまう
可能性もありますとお伝え…諦められるかと思いきや
悩まれるご様子もなくご依頼頂いた次第であります。

まずは靴底を分解していきます。
底縫いの糸をグラインダーで削り切り、ソールを剥がしていきます。
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ウェルトとソールのあいだからナイフを入れ、出し縫いを切って
剥がすやり方が職人ぽいのですが、そのやり方ですと
出し縫いがすくい縫いの糸を貫通してしまっている場合が
既製品でちょくちょくありますので、カットしてはいけない
すくい縫いの糸も一緒にカットしてしまう危険性があるので、
底面を削って出し縫いの糸を削り切ってしまったほうが確実です。

コルクから中底まで水が侵入してしまっています。
中底まで濡れてしまうと中底の割れにも繋がってしまうので
コルクが見える前にソール交換が必須です。
(コルクはウェルテッド製法の靴にしか基本入っていません)
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シャンクも浸水してしまい錆び始めています。
スチールのシャンクですとだいたいオールソール時期の靴では
錆びているものが多いのですが、錆びて折れているものというのは
1割程度でしょうか。

クロケットジョーンズなどの老舗の靴で多いのですが、
木材のシャンクを使っている場合が多く、内部まで浸水していると
木材ですので腐ったりして6割くらいは折れています。
(浸水していなくてもやはり折れてはいますが)

浸水と云っても、水たまりにずっぽり浸らなくても、
革は繊維構造ですので、路面の水を毛細管現象で
内部まで吸い上げてしまいます。

またこれがひどいとアッパー側面まで水を吸い上げてしまい
小指側面あたりに雨シミ跡が日本刀の刃文のように
波波にでてしまったり致します(この部分で革が割れ易くなります)
ハーフラバーソールを施行する事で底面からの
雨水の吸い上げを予防できます。

昔の国産の靴ですと、竹を使っていた時期もあるようですが
竹は撓りもあり丈夫で適材ではないかと思いますが、
木材のシャンクはあきらかに強度不足な気がします。
折れている場合は、丈夫なスチールシャンクに交換しています。

ちなみにこのシャンクですが、どういいった役割があるのかというと、
土踏まずの部分を支えるように取り付けられています。
ヒールに少し載っていて、土踏まずの浮いている部分を
上に持ち上げるようなイメージでしょうか。
別のオールデンですがこんな感じで入っています。
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ソールを剥がすと、ここで新たに損傷箇所を発見…。
すくい縫いが前側ほぼ切れていました…。
そして一緒に縫い付けられているアッパーの革も縫い穴部分までも
硬化していて割れてしまい、糸が外れてしまっている状態です…。
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こうなってしまうと、すくい縫いもやり直さなければなりません…。
何度かオールソールをされているとの事ですので、
出し縫いをする段階で、その都度すくい縫いの糸を貫通してしまい
糸が徐々に切れてきてしまったのかと。

また、かかと部分もだいぶ斜めに摩耗した状態で履かれていたので、
外側へ靴が傾斜する格好になり、体重が外側に掛かりすぎて、
ウェルトが押し出されるような感じになったのも糸切れの
要因の一つかと思われます。
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すくい縫いとは中底部分に貼付けられたリブの段差から
(グットイヤーウェルテッド製法の場合)外側に付いているウェルトに
すくい上げるように針を通すのですが(上画像)、

この靴にはウェルト部分にボコボコとなにやら跡が多数ついています…。

恐らく以前の修理店でもオールソールの際に同様に
すくい縫いの糸が切れていたので、縫い直したようですが、
針をウェルト側(下画像)から差し込んでいたようです。
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ですので針で押し付けられた跡がぼこぼことウェルト部分に
凹みを作ってしまい、ソールを貼り直した際にコバ断面に
この隙間が影響しやしないかと心配です。

恐らく、残ったコルクかすなどで中底側から針を通す穴位置が
分かり難かったので、ウェルト側から針を指してしまったのだと思われます…。
針の跡がついてしまっているけどー。
こういう事されると困るんだけどー。

とほほ…の状態から気持ちを切り替えて、まずは針の加工。
すくい針の曲がりに合わせて針をライターであぶってなまし、
同じ曲がりに加工します。
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次に9本撚りの麻糸を一本ずつにより戻し、その一本ずつの
毛先を細く漉き、4本と5本のグループにまとめたのを、
またもとの9本組の一本に撚りまとめます。
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そうしますと毛先がうんと細く加工できます。
細く加工する事で、針に繋げた部分が針と同じ太さに絡み付けれるので
小さな穴を通す際に、針の付根が穴にひかかってイライラせずに縫えるのです。

すくい縫いが出る位置と出し縫いの穴の位置が近すぎるー。
しかしすくい縫いの穴をずらす事はできないので(元の穴を通しているので)
出し縫いの際に可能であれば少し外側を縫えれば…という感じでしょうか。
もともとのメーカーの設定が悪し。

すくい縫いの位置と出し縫いの位置の設定が宜しくない靴は
既製品でもちょくちょくあります。
値段に関係なく10万円クラスの靴でもちらほら見かけます。
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中底面からの画像。
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この段差部分から外側のウェルト側にすくいあげて縫っています。
縫い終わったので、中底部分にコルクを充填。
コルクは板コルクを使用しています。
粒コルクを練って充填する方法もありますが、それですと充填具合に
ムラができ易いので、板状に圧縮成形されたコルクを敷き詰めた方が
全体に均一の密度で敷き詰める事ができます。

またコルクの粒も細かな番手を使用する事で、履き込んでいった際の
中底面の沈下を適度に抑える事ができるのではないかと思います。

オールソールですので履き込まれてすでに中底面は
充分に足の形に凹んでいますので、これ以上の中底面の沈下は
必要無いかと思われます。

ウェルテッド製法の靴は、特にグットイヤーウェルテッド製法の場合
コルクが5.0mm厚程度、中底と本底の間に充填されています。
履き込んでいくと中底面からの加重で敷き詰められたコルクが
徐々に自分の足型に押し潰されることで
いわゆる「足に馴染んでくる」のひとつの要素にもなっています。

ただその場合、中底面が押し下がり靴内部の容積が
広がるということですので、サイズも必然的に緩くなって
しまうということです。

ですので羽ものの靴を購入する時には、
羽がある程度開いた状態のフィッティングで購入しないと、
後々に紐をそれ以上絞める事ができず、ゆるゆるに
なってしまいますのでご注意を。
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コルクを敷き詰める際も厚めに盛ってから、高い部分を基準面まで
削り落としていきます。
そうする事で、すでに中底面に記憶された足型をあまり損なわずに
その凹凸を再現する事ができるのではないかと思います。
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ウェルト面に針の跡(前回の修理店の仕業です)、
ぼこぼこ… まったく…。
仕上りに影響しそうなので軽く削って修正しておきます。

次回、「コートバンの裂け補修篇」へと続く…。

ampersandand at 00:26|Permalink

2018年05月06日

ブラックペアン 佐伯式モカシン置換術 オールソール篇

ブラックペアン……、期待していたのですが私のイメージとは
少し違っていて、第一回と第二回をもってリタイアしてしまいました。

「片っ端から救ってやるよ。」云ってみたいものです。
0505
from TBS

今回の患者さんは、7年前の(開業時)私だと助けられない症状になりますが
(実際にこれまでにもお断りしたこともありますし)
わたしも少しは経験を積んできていますので、
モカシン置換術によってなんとか助けられるかと思います。
(といってもこの状態はかなり深刻ですので今回は例外的な感じですが)

しかも今回は世界的にも例が無い、2足同時置換術。
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親指側の縫い合わさり部分が、縫い穴から裂けてしまっています。
縫い穴が裂けていなければ穴を拾って縫い直すだけなので簡単なのですが、
その縫い穴が裂けてしまうと、まずは縫い穴を再建する必要があります。

通常は革と革が重なってその部分を縫い合わせていますが
今回のようなモカシンの場合は、革と革の断面をそれぞれ
45度くらいにカットしてその断面同士を合わせ、その革の厚みの間に
針を通しその穴を掬い縫いして縫っている状態となります。

<断面略図>
水色/上面革パーツ
黄色/側面革パーツ
赤色/掬い縫い糸
モカシン
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見栄えを気にしないで治してもいいのならばなんでも可能ですが
見栄えを変えないで治そうとなると…。
スナイプまたは佐伯式モカシン置換術しかありませんね…。
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2足とも親指の当たる箇所が裂けてしまっています。
略図でも分かるように、革の間を通して縫製していますので
通常の重ね合って縫製している状態に比べれば強度的には
弱い仕様かと思います。

壊れていない小指側はこんな感じ
20180428064

特に屈曲部分ですと直角に縫い合わせて硬くなっている部分を
歩く度に折曲げ、尚かつ関節が当たって押し出す圧も掛かり負担増です。

2足ですので計四箇所を再建しなければなりません。
箇所によって裂け具合はまちまちですのでそれに応じた処置を
行っていきます。

この処置で問題になるのが、補修した箇所が他の部分に比べ革が重なり
硬くなるので履いた時に痛くならないか…。
これは結局治して履いて頂かないとどうなるか分からないところです。

しかも今回は「親指の関節が当たって裂けている」という
構造的な原因というよりも、その使用環境によってという原因が
はっきりしていますので、それに耐えられるように治さなければなりません。

治し方の程度としては、見栄え重視から強度重視まで方法が幾つかあります。
見栄え重視といってもだからといってすぐ壊れては意味が無いので
もちろん実用強度は担保しています。
落としどころはそれぞれで状態が違うので
作業を行いつつ塩梅を見定めていく感じとなります。

まずは縫い穴を再建し掬い縫いのピッチを写していきます。
穴の数を間違えてしまうと糸がでるところが無くなってしまいますので。
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もちろん縫合している時は、渡海先生並みの早さで縫っている
イメージな訳ですが…。
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やらないですけど、今回は上面のパーツの縫い穴だけが裂けているので
上面のパーツ自体をそっくり交換してしまっても修理は可能なのだと思います。
それには費用と時間が無制限に掛かってしまいますが…。

それでは完成となります、まずはソール交換から。
AFTER
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つま先はサービス仕様の強化ラバー埋め込み式となります。
底縫いの段階でラバー厚分を凹ませてから底縫いを行うことで
つま先が摩耗した際にはラバー部分のみを交換できます。
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この仕様ですと履き始めの著しいつま先の摩耗に有効的です。
つま先の底縫いの糸が強化ラバーの下に隠れていますので
つま先の糸切れが起こらない仕様になっています。
*レザーソールの場合はご希望でサービス仕様となります。

スコッチグレインの靴もつま先ラバーで同様の仕様になっているのですが、
埋め込まれたラバーを革底共々、底縫いで縫製してしまっているので
摩耗しても部分交換が出来ない仕様になっています、残念…。

モカシン部分
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モカシン部分はとりあえず見栄え重視で仕上げました。
より強度的にアップさせるにはモカシンの縫い目の隣に
ミシンで細かくステッチを入れた方が強度がでます。

お渡しの際に仕上りを確認して頂き、その旨お伝えしましたところ、
より強度がでる方が良いとのことで、ステッチの見栄えも気にならない
ということになりましたので、この後、追加でステッチを入れてあります。

心配だったモカシン再建部分の革の硬さですが、後日伺ったところ
履き心地には問題が無いということで、予後の経過も
ひと安心といったところです。

ちなみにですが、今回はドラマ「ブラックペアン」を
もじった記事になりますので、もちろんお分かりだとは思いますが、
佐伯式モカシン置換術やスナイプなどという呼び名の
修理方法は修理業界にはありません。
ですので、ミスターミニットなどで

「裂けてしまったので、佐伯式モカシン置換術でお願いします!」

と云っても「えっ?」となってしまいますのでご注意願います。
もしかしたら関西のお店だったら

「スナイプ式じゃあかんの?」

と、のってきてくれるかもしれませんが。
HPアイコンロゴアウトライン


ampersandand at 23:39|Permalink