ハンドソーンウェルテッド製法

2019年02月19日

普段やらないウェルト交換 A . MANETTI  ウェルティング篇

前回のあらすじはこちら

前回はソールを剥がしてみたらやっかいなウェルテッド製法だったので
あら大変…というところまででしたので、
今回はウェルト取り付け篇ということになります。

まずは革底を縫い付けるためのウェルトを縫い付けなければなりません。
ただ通常のウェルテッド製法であればすくい縫いする穴が
ちゃんと見えているので大変ではないのですが、今回は
アッパーの革が被って縫い穴が見えないし、縫い穴も
中底に切り込みを入れた部分の奥底に…。
ウェルト交換063
穴の位置関係が分からないのでマチ針で確認…。
つま先部分などはピッチが変わっているし、先芯も入っているので
分かり難さ倍増です。

位置が分かったところですくい縫いしてウェルトを固定していきます。
ウェルト交換030
縫って…
ウェルト交換031
縫って…
ウェルト交換032
縫って…
ウェルト交換033
つま先でようやく半分折り返し…
ウェルト交換038ウェルト交換039ウェルト交換040
ウェルト交換041
縫い付けているウェルトは濡らしてあります。
濡らす事で柔らかくなってカーブなどは縫い付け易いのですが
濡らした状態でテンションを掛けて縫い付ける事で
乾燥した時には、ぱりっとウェルトがいい感じで張ってくれます。

かかと部分は一般的にはハチマキと呼ばれる別パーツを
取り付ける事が多いのですが、
今回はオリジナル同様に一周ぐるりとウェルトが取り付きます。
かかと部分は合理的にタックス(アルミの釘)で潰して
固定されていましたので同様に固定しておきます。

一周回してきましたら、ウェルトの端同士は互い違いに漉いてありますので
重ねて同じ厚みになります。
ウェルト交換037
ウェルト交換042
取り付けたのは靴の周りに張り出しているこの部分。
全部が全部このように張り出しているタイプは、
中底に縫い付けられているウェルテッド製法かというと
そうではなく、マッケイ製法やセメンテッド製法では飾りウェルトという
パーツを間に挟み込んでいるだけの仕様もあります。
ウェルト交換044
ちなみに下画像が一般的なグットイヤーウェルテッド製法。
縫い付ける部分の革が被さっておらず、段差部分がよく見えると思います。
これだとかなり縫い付ける手間は楽なのです、穴が見えていますので。
ウェルト交換048
今回の靴で不思議な点が一点。
靴には踏まず部分にシャンクと云われる主に金属製のプレートが
施行されてヒールと踏まず部分を支えている背骨のようなパーツがあります。
通常そのパーツは踏まずに添ったラインで取り付けられているのですが
今回はその反りが逆向きでセットされていました。
ウェルト交換046
ちょっと分かり憎いのですが踏まず部分が膨らんでいると思います、
一般的にはこの反りは逆反りでセットするのですが…
なにかこれに効果があるのかどうか分かりませんが、
MANETTI工房の考えなのでしょうから同様にセットしておきます。

一応持ち主さんに、「逆向きで入っているんですけどー」と
確認しましたが、元通りでOKということでした。

国産の工場ライン製造ものと違って、あちらの工房モノっていうのは
時々あれっ?という一般的な仕様と異なっている場合があるので
有りなのか、無しなのか、驚きと困惑の間で…という感じです。

ウェルトが取り付けましたら、中もののコルクを入れます。
ウェルト交換047
もともとは薄いスポンジが入っていましたが、柔らかすぎるので
コルクの薄めを入れて余分を削り落とす事にしました。

オールソールするまで履き込んでいるので、
中底には足型の跡がしっかりと付いています。
ですので、これ以上不必要に中底が沈下するのを
予防する意味合いも含めコルクにしました。

次に革底を取り付けてヒドゥンチャネル仕様の加工を行ないます。
この加工は恐らく靴でしか行なわない作業だろうと思います。

ですので受付の際にこの部分の処理を口頭でご説明しても
イメージできず???と思われる事がしばしばです。
ヒドゥンは隠す、チャネルは溝、溝を隠す仕様と云う事になります。
ウェルト交換022
革底の端に革包丁を差し込んで15.0mmくらいの幅で厚みは1.0mmくらいで
革に切り込みを入れていくイメージでしょうか。
お刺身をおろす時に、おろしきらない感じでしょうか。

靴底もつま先側や踏まず部分でそれぞれ底面の丸みが異なりますので、
それに合わせて差し込んでいる包丁の角度も微妙に変えながら
切り込んでいきます。
ウェルト交換023ウェルト交換024
切り込みを入れ終えたらその部分を起こします。
端は薄く奥は厚めにというイメージで包丁を入れ込んでいますので
端の部分は革がひらひらするくらい薄くなっています。
革を起こした部分に溝を掘り、その溝に出し縫いを行います。
ウェルト交換025ウェルト交換028
革底での交換の場合、その多くはチャネル仕様、革底面に底縫いの縫い目が
見える仕様でご依頼されますが、
このヒドゥンチャネル仕様というのは当店の場合、
年に数件程度ご依頼があります。
ごく僅かなのは、私がお勧めしないということと、
手間が掛かるのでその分費用も割高になるのが理由かと思います。

お勧めしないのは、ヒドゥンチャネル仕様にするのであれば
チャネル仕様にハーフソールスチール併用仕様を
オプションで付けられた方が、それより費用は安くなりますし、
耐久性も格段に良くなるからであります。

費用が高い方を進めないというのは経営者としてはまずいのですが…。
といっても今回のご依頼主さんのように、
私が懇切丁寧に併用仕様のメリットをご案内しても、
「ヒドゥンチャネル仕様で。」という方もいらっしゃるのですが。

しかもつま先にはスチールを付けないということでしたので
そこは説得して付けて頂きましたが。
オプション追加を説得する経営者というのもいかがなわけではあるのですが。
しかしつま先がすぐに減ってしまうのは目に見えていましたし、
現に今まで修理された靴はすべてつま先がやられていましたので。
(歩き方によってはつま先が余り摩耗しない方もいらっしゃいます)

ウェルトと革底に出し縫いを掛けましたら、
今度は先程起こした革を伏せて縫い目を隠していきます。
ウェルト交換029

疲れ目で瞼がぴくぴくとしてきましたので、
今回はここまでと致します。

次回は仕上げの「靴底お化粧篇」になります。

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2019年02月04日

普段やらないウェルト交換 A . MANETTI  分解篇

今回ご依頼品の靴はウェルト交換の必要があったのですが、
履き過ぎて擦り減った事が原因ではなく
もともとの靴の設計に問題があったのかもしれません。

今回の患者さんはこちら
ウェルト交換050

以前リフト交換の際にご相談を受けていたのですが、
これはその時期になったらオールソールできますかと。
ウェルト交換052
初見ではウェルトの幅が狭過ぎていて、縫い目が端ぎりぎりで
縫われ過ぎているので、ん〜。
ウェルトの幅もほぼこの縫い目一本分のスペースしかありません。
端を縫い過ぎているのでコバ側面には、縫った糸の厚みで
断面がもりもりと凹凸が見えてしまっているぐらいのぎりぎりさ。

ソール交換には新しく革底を取り付けてからウェルトと一緒に
貼り合わせ部分に凹凸が無くなるように側面を削りますが、
(削ると云っても何ミリも削るわけではなく、1.0mm以下程度)
その際に縫い穴が端に設定され過ぎていると穴が貫通してしまいます。

どういう事かと云いますと、略図ですがこんなイメージ。
コバ断面
A・交換前の状態、縫い穴が端にあり過ぎています。
B・ソールを取り付けて段差を削っていくと、穴がでてきてしまいます。

伝わっていますでしょうかこの感じ。
例えばDIYで木材を貼り合わせてその境目の段差が目立たなくなるように
ヤスリで互いを繋げて削ると思うのですが、そんな感じです。
削るというか表面をならす行程です。

ですのでこの状態ではソール交換の際の出し縫いができない
可能性がありそうですねと。

で、月日が流れその時期になり持ち込まれた靴をみてみると
むむ、漉い縫いが切れて、いやウェルトの縫い穴も裂けていますね…。
ウェルト交換051
こうなってしまうと出し縫いうんぬんではなく、ウェルトと本体を
固定している漉い縫いの穴が裂けてしまっているので、
ウェルト交換から行なうしか方法がありませんが…費用がかなり掛かります。
ウェルト交換+オールソール交換費用になりますので。

まずは分解。
積上げを外して、残った出し縫いを削り革底を剥がしていきます。
ウェルト交換055ウェルト交換056
踏まず部分に縫い目がありませんね。
ウェルト部分が絞られて出し縫いが見えていませんでしたので
ベベルドウェスト仕様かなと思っていたのですが、
単純に縫っておらず接着のみの仕様でした。
ベベルドウェストというのは、ウェルトまたは本底を薄く加工して
巻き上げて包み込む仕様になりますが、詳細は割愛致します。

ソールを剥がしてみたところ、グットイヤーウェルテッド製法ではなく
ハンドソーンウェルテッド製法ということが分かりました。
ウェルト交換057ウェルト交換058
ウェルトの幅が狭っ!!
あとで新しく縫い付けるウェルトと比べて頂くと
恐ろしく狭いのがお分かり頂けるかと思います。
ウェルト交換059
この設定ってウェルテッド製法で作る意味が無いような気がします。
そもそもウェルテッド製法というのは、何度もソール交換し易いように
考案された製法なのですが、このウェルト幅だと交換する際の
出し縫いで漉い縫いの糸は必ず裂けてしまいますし、
といいますか現状の状態でも漉くい縫いと出し縫いの位置が同じなので
すでにそうなっているのですが…

ですので結果的に履き込んでいくとその負荷で糸が徐々に
裂けてしまったのだろうと思われます。

本体から出ている糸はウェルトと中底を縫い付けていた糸になります。
ウェルト交換060ウェルト交換062ウェルト交換061
本体とウェルトを分解。

ここまででいったいそれがどのような状態なの?と
イメージが付かない方もいらっしゃるかと思いますので
略図を作ってみました。
略図はこんか感じで靴をカットした断面図イメージとなっています。
W6
W5
まずは一般的なグットイヤーウェルテッド製法。
グットイヤーウェルテッド製法というのは、
それまですべて手縫いで行なわれていた作業を、
19世紀後半に発明されたミシンで、手縫いでしかできなかった行程を
一部仕様変更することで、代わりに縫製することが
できるようになった製法になります。

リブと云われる綿テープ(黄色)を中底に接着し、
そのリブと本体の甲革とウェルト(水色)を横方向で縫製しています。
そしてウェルトと革底を縦方向に出し縫い(緑色)で縫製しています。
オールソールとは、この出し縫い部分からやり直す行程になります。
W1

リブを取り付けているので、その分、革底との間に空間ができてしまいます。
この空間に5.0mm厚程度のコルク(オレンジ色)などで充填して埋めています。
ですのでグットイヤー製法の靴はコルクという厚いクッションが
入っていますので、履き込んでいくと自分の足型にコルクが沈みこんで
馴染み易いと雑誌などで謳われています。

ここで少しイメージして頂きたいのですが、沈むということは…
そうです、靴内部の容積が増えると云う事ですので、
結果、履き込んでいくとサイズが大きくなるという事にもなっています。
ですので、特にウェルテッド製法の靴の購入の際には、
その事を念頭において購入する必要があると思います。

181105blog19
次にハンドソーンウェルテッド製法というのはミシンを使わずに
その名の通り、すべて手作業で行なう製法になります。
グットイヤーとの違いは手作業かミシンの違いというだけではなく、
同じウェルテッド製法ではあるのですが構造からして違っています。

グットイヤー製法では中底にリブを貼付けていますが、ハンドソーンの場合は
革中底自体を加工し、直接ウェルトを縫い付けています。
その為、コルクをいれるような空間は少ないので
今回の靴では薄いスポンジを入れてありました。
ですのでハンドソーン製法はグットイヤー製法に比べると、
中底の沈み込みは少ない傾向にあると思われます。
W2

革底に溝を作りその段差を利用しウェルトを漉うように縫製していきます。
略図では省力していますが、掘った溝は漉い縫い後に元の革で埋め戻します。

リブを別パーツで取り付けないので、ハンドソーンウェルテッド製法のほうが
グットイヤー製法より靴底の返りはいいとされていますが、
実際はどうなのでしょうか、わたしには判断がまだ付きませんが。

同じ材料で靴を作って、右はハンドソーン、左はグットイヤーというような
実験ができれば判断ができますが、違う靴で比べてもしょうがないですし。
革底や中底の厚みや甲革の硬さなどなどすべて設定が違うわけなので。
どこかのユーチューバーが実験してくれたらいいのですが。
その際は履き心地という主観的なものではなく、なにかの計測器で
靴底の屈曲率みたいな感じで計測してくれるといいのですが。
W3


で次に今回の靴もハンドソーンなのですが…また厄介な代物でした。
通常は漉い縫いする段階で余分な釣り込みシロの
甲革はカットしておくのですが、
今回の靴は甲革が残ったままで底面に被っていました。
漉い縫いの穴が見えないではないですか…。

そして漉い縫いする溝もなく、中底に切り込みを入れたところで
縫製している仕様になっていました…。
漉い縫いの穴がまったく見えないではないですか…。

で、先程のウェルトの幅が狭く出し縫いの糸と漉い縫いの糸が
同じ位置で縫製されているという状態が断面図で分かるかと思います。

こんな設定ではそもそもオールソールできないじゃん…ていう感じです。
なのでウェルテッド製法で作っている意味がないじゃん…と。

その弐に続く…



ampersandand at 23:46|Permalink