ハンドル交換
2020年11月04日
パイピングを巻き替える。 ETTINGERのMARSTON篇
今回のご依頼品はETTINGERのMARSTON
とても伝統的な飾り気のない質実剛健なザ・ブリーフケースといった佇まいです。
剛健ではありますが、やはり物理的な擦れには日々晒されていきますので
パイピングやその他に痛みが生じてきてはしまいます。
今回補修する範囲は、パイピング外周の両面交換/ハンドル交換/
ポケットのパイピング両面交換となります。
水色の範囲が今回交換する部分になります。
すでにポケットの付け根部分は一度他店にて補強補修がされているのですが
ポケット側のパイピングは補修していないのでそちら側が裂けてきて
しまっています。当初はポケットの付け根付近の四カ所の補強でしたが、
パイピング全体が割れてきていましたので全体交換に切り替えました。
外周はお約束の擦り切れです。
この部分は地面に置いたりしますので靴のかかと同様に擦れる宿命なのです。
ただこのパイピング仕様の場合は擦れてはしまいますがメリットがあります。
他の内縫い、外縫い構造の鞄と違ってパイピングが施されていることで
今回のようにパイピングを交換すれば本体を加工せず、元通りに
戻すことができます。
靴の革底の摩耗を予防するのにハーフソールを取り付けますが、
同様に鞄のパイピングとは地面から鞄本体を守るバンパー的な役割
なんだろうと思います。
もしこの鞄にこのパイピングが付いていなければ、今頃は本体自体が削れてしまい
穴が空いているか、角が潰れているかになっていて元通りの補修は難しく
外観は変わっていただろうと思います。
このような鞄の場合、一般的には本体は本体でまとめて縫製されています。
で、そこへパイピングを巻き付けて縫製しているので、パイピングを取り除いても
鞄自体は分解せず自立しています。
ナイロン製の鞄の場合は全てまとめて縫製されていることもあるので
交換不可の場合もあります。
ポケット付け根の外周側のパイピングはしばしば裂けてしまいがちです。
ポケットに荷物を入れれば重さで付け根は自ずと引っ張られます。
その荷重をパイピングの縫製一箇所だけで受け止めているので、
どうしてもその部分に負荷がかかり過ぎてしまいます。
ですので今回は縫い目に掛かる負荷を分散させるために外観からは
見えないようにステッチを脇の部分に追加して縫製してあります。
この手の伝統的なブリーフケースはほとんど同じ縫製の仕方で
どれも作られているので、いつも壊れる部分は同じ場所です。
少しだけ縫製箇所を増やすとか、隅をカシメで固定するとかで
強度は変わってくると思うのですが。
以前修理した鞄で、底部分の四隅のパイピングが始めから二重に
巻かれているメーカーのものがありました。
これはこれで工夫なんだと思います。
擦れる部分だから始めから補強しておく、という。
これは私も考えたことがありますが、あとは見栄えの好みかと思います。
パイピングはメーカーであればミシンに専用のアタッチメントを付けて
縫製していけば縫い進めると同時に縁取りされていくのですが、
修理の際はコツコツと二つ折りして巻き付けていき、ひと目ひと目を
八方ミシンの車輪を廻しながら縫っていきます。
なので片手で鞄を支えて膝も使いつつ回転させながら、
片手は車輪を廻してと雑技団的縫製になりがちです。
パイピング完成
革は通常の革より乾燥しにくいオイルレザーを使用していますので
擦れにも強くなっていますが、定期的にレザーローションでお手入れして頂くと
それだけ寿命が伸びますので必ず行なってください。
革が痛んでから熱心にお手入れする方が多いいですが、痛んでからでは
歯磨きと同じで革が元に戻ることはありません。
50代、60代のアンケートで若いうちからもっとしっかり
行なっておけば良かったことは?みたいなアンケートで
歯磨き、口腔ケアが一番だったという報道を聞いたことがありますが、
革のメンテナンスもそれに追加していただければと思います。
10年前からのメンテナンスが10年後には活きてきますので。
[サフィール] スムースレザーにしっとり潤いを与える ユニバーサルレザーローション 保湿 ツヤ 汚れ落とし 靴磨き バッグ 無色 レザークリーム メンズ free 150ml
じゃあ痛んでいたらお手入れしても意味がない?
かといえばそんなこともありませんが、挽回は難しいです。
しかしそれでも現状維持はできます。
なので痛んでも痛んでいなくても、使い始めから定期的に保湿を行なって
頂くことが重要です。(ミンクオイルはオススメしません)
続いてハンドル。
付け根部分が乾燥により裂けてきてしまっているので新しく作り直しです。
丸いハンドルの芯材には硬めだと樹脂のチューブかロープが使われています。
市販品で樹脂のチューブが使われているハンドルですと経年劣化により
しばしば割れていることがあるので当店では用いておりません。
Felisiも確かロープ芯を使ったハンドルだったと思います。
樹脂とロープでは仕上がった時の硬さが若干違うのと
今回、オリジナルは太さが少し太めなので、硬さと太さを
近づける為に試作を行いました。
ロープの太さは市販品で色々あるのですが、私がお気に入りの編み方と素材の
ロープだと種類が少なく、6.0径と9.0径しかしありません。
ご依頼品ですと9.0径を使用しても少し太さが物足りない感じなので
革を二重巻きにすることで太さの問題は解消。あとは硬さなんですが
硬くするには革を巻いていく際に接着剤でロープと革を全面貼り合わせながら
巻くことで硬質になることが何本目かの試作で発見。
通常は革の端の部分のみ接着剤を塗布し、ロープを巻き込みながら
最後に端を接着し、隙間が出ないようにヘラで合わさり目を追い込んで
いくのですが、今回は前面に接着剤を塗布しているので巻いている途中で
どこかに隙間が空いてしまうと、その部分がプカプカしたまま仕上がって
しまうので、ワンチャンスで密着させて隙間なく巻く、というのは
難しいところでした。
オリジナルは本体の金具を通す部分は革一枚でしたがそれでは徐々に伸びて
痛んでしまいがちですので、革を貼り合わせ二重にし、間には伸び留めに
ナイロンシートを挟み込んで縫製してあります。
ハンドルの痛むところは手に触れる部分か、この本体との連結部分なので
痛むとわかっているところは強度を高めて製作しています。
AFTER
パイピング全部とハンドルも交換すると費用はかなり高額になります。
保湿メンテナンス用のレザーローションは1.500円(当店税込店頭価格)なので、
それ1本でもし擦れや乾燥の進行度合いが変わるのであれば使わない手はないと
思います。
革のお手入れは一日にして成らず、といったところでしょうか。
とても伝統的な飾り気のない質実剛健なザ・ブリーフケースといった佇まいです。
剛健ではありますが、やはり物理的な擦れには日々晒されていきますので
パイピングやその他に痛みが生じてきてはしまいます。
今回補修する範囲は、パイピング外周の両面交換/ハンドル交換/
ポケットのパイピング両面交換となります。
水色の範囲が今回交換する部分になります。
すでにポケットの付け根部分は一度他店にて補強補修がされているのですが
ポケット側のパイピングは補修していないのでそちら側が裂けてきて
しまっています。当初はポケットの付け根付近の四カ所の補強でしたが、
パイピング全体が割れてきていましたので全体交換に切り替えました。
外周はお約束の擦り切れです。
この部分は地面に置いたりしますので靴のかかと同様に擦れる宿命なのです。
ただこのパイピング仕様の場合は擦れてはしまいますがメリットがあります。
他の内縫い、外縫い構造の鞄と違ってパイピングが施されていることで
今回のようにパイピングを交換すれば本体を加工せず、元通りに
戻すことができます。
靴の革底の摩耗を予防するのにハーフソールを取り付けますが、
同様に鞄のパイピングとは地面から鞄本体を守るバンパー的な役割
なんだろうと思います。
もしこの鞄にこのパイピングが付いていなければ、今頃は本体自体が削れてしまい
穴が空いているか、角が潰れているかになっていて元通りの補修は難しく
外観は変わっていただろうと思います。
このような鞄の場合、一般的には本体は本体でまとめて縫製されています。
で、そこへパイピングを巻き付けて縫製しているので、パイピングを取り除いても
鞄自体は分解せず自立しています。
ナイロン製の鞄の場合は全てまとめて縫製されていることもあるので
交換不可の場合もあります。
ポケット付け根の外周側のパイピングはしばしば裂けてしまいがちです。
ポケットに荷物を入れれば重さで付け根は自ずと引っ張られます。
その荷重をパイピングの縫製一箇所だけで受け止めているので、
どうしてもその部分に負荷がかかり過ぎてしまいます。
ですので今回は縫い目に掛かる負荷を分散させるために外観からは
見えないようにステッチを脇の部分に追加して縫製してあります。
この手の伝統的なブリーフケースはほとんど同じ縫製の仕方で
どれも作られているので、いつも壊れる部分は同じ場所です。
少しだけ縫製箇所を増やすとか、隅をカシメで固定するとかで
強度は変わってくると思うのですが。
以前修理した鞄で、底部分の四隅のパイピングが始めから二重に
巻かれているメーカーのものがありました。
これはこれで工夫なんだと思います。
擦れる部分だから始めから補強しておく、という。
これは私も考えたことがありますが、あとは見栄えの好みかと思います。
パイピングはメーカーであればミシンに専用のアタッチメントを付けて
縫製していけば縫い進めると同時に縁取りされていくのですが、
修理の際はコツコツと二つ折りして巻き付けていき、ひと目ひと目を
八方ミシンの車輪を廻しながら縫っていきます。
なので片手で鞄を支えて膝も使いつつ回転させながら、
片手は車輪を廻してと雑技団的縫製になりがちです。
パイピング完成
革は通常の革より乾燥しにくいオイルレザーを使用していますので
擦れにも強くなっていますが、定期的にレザーローションでお手入れして頂くと
それだけ寿命が伸びますので必ず行なってください。
革が痛んでから熱心にお手入れする方が多いいですが、痛んでからでは
歯磨きと同じで革が元に戻ることはありません。
50代、60代のアンケートで若いうちからもっとしっかり
行なっておけば良かったことは?みたいなアンケートで
歯磨き、口腔ケアが一番だったという報道を聞いたことがありますが、
革のメンテナンスもそれに追加していただければと思います。
10年前からのメンテナンスが10年後には活きてきますので。
[サフィール] スムースレザーにしっとり潤いを与える ユニバーサルレザーローション 保湿 ツヤ 汚れ落とし 靴磨き バッグ 無色 レザークリーム メンズ free 150ml
じゃあ痛んでいたらお手入れしても意味がない?
かといえばそんなこともありませんが、挽回は難しいです。
しかしそれでも現状維持はできます。
なので痛んでも痛んでいなくても、使い始めから定期的に保湿を行なって
頂くことが重要です。(ミンクオイルはオススメしません)
続いてハンドル。
付け根部分が乾燥により裂けてきてしまっているので新しく作り直しです。
丸いハンドルの芯材には硬めだと樹脂のチューブかロープが使われています。
市販品で樹脂のチューブが使われているハンドルですと経年劣化により
しばしば割れていることがあるので当店では用いておりません。
Felisiも確かロープ芯を使ったハンドルだったと思います。
樹脂とロープでは仕上がった時の硬さが若干違うのと
今回、オリジナルは太さが少し太めなので、硬さと太さを
近づける為に試作を行いました。
ロープの太さは市販品で色々あるのですが、私がお気に入りの編み方と素材の
ロープだと種類が少なく、6.0径と9.0径しかしありません。
ご依頼品ですと9.0径を使用しても少し太さが物足りない感じなので
革を二重巻きにすることで太さの問題は解消。あとは硬さなんですが
硬くするには革を巻いていく際に接着剤でロープと革を全面貼り合わせながら
巻くことで硬質になることが何本目かの試作で発見。
通常は革の端の部分のみ接着剤を塗布し、ロープを巻き込みながら
最後に端を接着し、隙間が出ないようにヘラで合わさり目を追い込んで
いくのですが、今回は前面に接着剤を塗布しているので巻いている途中で
どこかに隙間が空いてしまうと、その部分がプカプカしたまま仕上がって
しまうので、ワンチャンスで密着させて隙間なく巻く、というのは
難しいところでした。
オリジナルは本体の金具を通す部分は革一枚でしたがそれでは徐々に伸びて
痛んでしまいがちですので、革を貼り合わせ二重にし、間には伸び留めに
ナイロンシートを挟み込んで縫製してあります。
ハンドルの痛むところは手に触れる部分か、この本体との連結部分なので
痛むとわかっているところは強度を高めて製作しています。
AFTER
パイピング全部とハンドルも交換すると費用はかなり高額になります。
保湿メンテナンス用のレザーローションは1.500円(当店税込店頭価格)なので、
それ1本でもし擦れや乾燥の進行度合いが変わるのであれば使わない手はないと
思います。
革のお手入れは一日にして成らず、といったところでしょうか。
ampersandand at 11:30|Permalink│