ローファー

2020年10月12日

ローファーのかかとは傷みやすいのかもしれない。予防と対策篇

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今回のご依頼品は頂き物だというGUCCIのビットローファー。
前の持ち主さんによってかかと内側が擦り切れ放題にされており
ローファーによくある仕様の履き口にイタリアンテープ(巻革)と
言われる仕様になっていますがその部分も同様に擦り切れています。
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この場合、内側の擦り切れ補修の他に履き口のイタリアンテープ(黒い巻革)も
補修しなければならないので、それなりに補修費用がかかってしまいます。

補修方法としてがっつり直すのであればイタリアンテープを全て外して
新しく巻き直す必要がありますが、その場合はこの部分の縫製も全て解いて
甲部分の革パーツも取り外す必要があります。
黄色矢印部分の縫い目も分解。
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そうなると必然的に費用が嵩んでしまいます。
なのであまり見栄えが変わらず費用も抑えられる補修方法をご提案。
イタリアンテープは分解せず、かかとの痛んでいる部分のみ
新たに革を巻いて補修します。

画像はすでに革を巻いてテープを縫製した状態です。
反対側から踵を回ってぐるっと青矢印部分まで革を継いでいますが
あまりわからないと思います。
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履き口のイタリアンテープを補修しそれと同じ範囲の内側に
革を宛てがい補修していきます。
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一般的な方法では内側に革を宛ててそのまま縫製するのですが、
擦り切れさせてしまうような履き方の場合、縫い目の糸も擦り切れさせて
しまいますので一手間かけて縫い目を内側に隠す方法で補修を行なっています
(靴の状態や仕様にもよりますが)
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画像の青矢印部分に縫い目がありますが、これは本体にもともとある縫い目に
一針ずつ針を落として縫製しているので新たな縫い目が外観にはできていません。
縫い目から下部分は革を薄く漉いています。
これはあとで縫い付けた革を内側に折り返した時に重なるので
その時に段差が出ないように加工しています。
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縫い付けた革を内側に倒して接着。
これで先ほどの縫い目が革の内側に隠れるようになるので、
踵で擦れて縫い目を擦り切ってしまうことが予防できます。
縫い糸が擦り切れて革がずれグチャグチャになっている方もいますので。

ローファーの場合は紐靴と違い甲の部分で足の動きをしっかりと固定できない為、
歩行の際に踵がパカパカと浮き易い構造の靴かと思います。
その結果、今回のように踵周辺の革が擦れてしまいやすいと思います。

ですので革の表面が白く擦れてきたようであれば、
サフィールレザーローションで定期的に保湿することをお勧めします。
(こちらは店頭でも1.500円で販売しています)

また、毎回ひどく擦れてしまうようであれば市販の革パッドを
はじめに貼り付けてしまうの一考かと思います。
靴底をハーフソールで事前に保護するように踵内側も擦れるのが
分かっているならば、サフィール・ヒールグリップで保護するのもありでしょう。



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ampersandand at 22:34|Permalink

2019年04月29日

ローファーを購入する人が失敗するサイズ選びあるある。

サイズ調整して下さいというお問い合わせがありますが
「かかとに1.0cmくらいの隙間ができてぱかぱかしています」
この場合はサイズ調整というか、外で履いていなければ返品交換を
お勧め致します。
そもそも選択されたサイズが大幅に間違っている状態です。

ぱかぱかシューズに多い靴種は主にローファー。
ローファーは紐靴と同じような感覚で購入してしまうと
だいたいサイズを間違ってしまいます。

パターンとしては、甲の部分がきつく感じるのでワンサイズ、ツーサイズ
大きめを購入してしまうというあるある。
その結果、歩くたびに靴の中で足が前に滑るし、蹴り上げると
かかとが付いてこずぱかぱか…。
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そもそも紐靴と違って足を入れるだけの構造なので
甲の部分で抑えるだけで基本的にはスリッパと同じように
つっかけて履いているような状態です。
更に、足入れがし易いように履き口周りもあまり内側に倒されておらず
トップラインが低めに設定されています。

ではそのつっかけて履いている状態で脱げないようにするには
どうすればいいでしょうか?
紐靴であれば紐を縛れば抑えられますが、ローファーの場合は
調節が出来ません。
ですので、そもそも甲の部分を窮屈に設定してあります。
甲の部分でのみで足が抜けないように押さえつけているわけです。
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*黄色点線部分が絞ってあり、紐靴の靴型より甲も低く設定されています。

なので紐靴と同じ感覚で試着してしまうと、甲の部分はきつく感じるでしょう。
きつく感じないワンサイズ大きめを購入してしまうと甲は楽にはなりますが…。
歩いてみると、甲で抑えられずワンサイズ大きめなので
縦方向にも緩くなっているので足が前に滑ってしまうというわけです。
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紐靴と比べて足を覆う部分の少なさ、この少ない面積で
抑えなければならない靴なのでそもそもが窮屈な設定なわけです。

この逆なパターンもあります。
窮屈だけどかかとがぱかぱかならないので購入して履いてみたけど
甲の部分がきつくてしばらくすると足がしびれる…。

「甲の部分を広げてほしいのですが…」

ローファーは甲の部分にだいたいベルト状のパーツが付いていますが
この部分を伸ばす事はできません。
この部分で抑える為にしっかりと作られておりますし
伸ばそうとすると、ベルトパーツの付根部分の縫製や革に負荷が掛かって
裂けてしまいますので。

ベルト状のパーツがなく、甲からベロまで繋がってるタイプのモデルは
反り上がる付根部分でそもそも裂け易いデザインなので走ったり、
階段を駆け降りたり、しゃがんだり、立った状態で履こうとしない方が
宜しいかと思います。

ローファーの壊れ易い箇所あるあるでは、甲の付根以外だと
かかと部分内側になります。
紐靴のように甲の部分とかかとの芯材で足と靴を固定できないので
歩行の際にかかとが浮かび上がり履き口でひっかかるという動きを
繰り返す結果、内側部分が擦れ易い傾向にあります。
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こんな感じで擦れていきます。
ローファーは履き口部分にはイタリアンテープが施されていて
トップラインに縫い目がない場合がほとんどです。

その場合、内側に革を宛てて縫製する際にトップラインに縫い目がないので、
新たに縫い目が出来てしまいます。
縁取りのイタリアンテープを分解して行なえば、
元通りに補修は可能だと思いますがあまり現実的ではありません。

ですので擦れているようであれば、レザーローションで保湿しておくことで
擦れの進行を遅らせる事が出来ると思います。
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ちなみに女性が履くパンプスでは、ほぼ指先のみで脱げないように
なっていますので、その指周りの窮屈さはローファーでひいひい云っている
男性には耐えられないでしょう。
解剖学の先生が云うには、女性は子供を産む時の痛みに耐えられるように
男性より痛みには強くできている、ということを聞いた事がありますが
それはパンプスを履くのにも役立っているのかもしれません。

高校生になって学校指定でローファーを履かなければならない
学生は多いようですが、それまで革靴を余り履いた事がない子供が
初めて履く革靴がローファーというのは酷な事のように思います。
学生ローファーは主に、ガラス加工された硬い革で出来ていますので
なおさら履きづらいでしょうに…。

初めての革靴でそれまで履いていたスニーカーのような柔らかなフィット感で
サイズ選びを行なえば、おのずとサイズオーバーに陥り易いかと思います。
そして日常の脱ぎ履きでは、かかとを踏んづけてしまう生徒も多いでしょう…。
(かかとを踏み潰してしまうと靴としてはお役目終了です)

ローファーではなく外羽の紐靴が初めての革靴には、
また骨格形成される成長期の子供には健康にもいいのではないかと思います。

ちなみに私の高校は学ランでしたが、靴は自由でしたので
「学ランにエンジニアブーツを履く」という謎の高校生でした。
下駄箱には入っていたのでしょうか?記憶にありません…。
その後、エンジニアブーツを履いた事は無く、
特別エンジニアブーツが好きだったわけでもなさそうですので、
若気の至りというやつだったのでしょうか…。

ローファーに関連して以前ユニークな修理をした事がありましたので
宜しければこちらもどうぞ。
「ALDENのリジェクト品を正規品に…。」

次回、
「ウェルテッド製法の靴を半年後に後悔しない為のサイズ選び篇」
になります。


ampersandand at 21:58|Permalink

2017年10月09日

ローファーがコリコリして、痛いんですけど案件

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本日のコリコリ案件はこちらのローファー。
ローファーという靴種も、色々と問題が発生し易いデザインです。
よくあるのが、甲の部分の締め付けが痛い、かかとがスポスポなど。

本日はコリコリ案件。
革が内側にタブついていて、コリコリと堅くなっているとのこと。
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一見普通に見えるのですが、矢印部分が張り出しています。
張り出した部分が、骨に当たり痛いんですと。
外側(靴の外側)は大丈夫だけど、内側(踏まず側)だけが痛いと。

痛くない反対側はこんな感じ。
弛んでいません、ほんと微妙な差ですがこれで痛みが生じてしまうのです。

似たような事例で、ワークブーツなどでベロが羽部分と繋がっていて
折り畳まれ重なっている仕様がありますが、
これも時々同じような症状が発生致します。
この場合は、コリコリではなくゴリゴリ案件となりますが。

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この靴を製造する際の型紙の段階で、甲の部分のパーツを
もう少し狭く設定していれば、内側のたるみは生じなかったのですが、
型紙がちょっと悪かったのかなと思います。

ときどき、サイズがキツくて伸ばしてくださいと
ご来店される事がありますが、実際に履いて頂いた状態で触診しますと、
革は余っているしゆるい感じ、では実際に痛い部分を指して頂くと
コリコリ…
ということが時々あります。

キツいのではなく、コリコリが当たって「痛い」が「キツい」に変換。
この場合、残念ながらコリコリは伸びませんし改善のしようがありません…。
(今回のような場合は除去できる位置ですが、指周りなどは分解できないので)

コリコリ部分というのは、革が重なり合っていて、
その部分が縫製されますとコリコリと堅くなります。
それが人により、当たる方と当たらない方、または当たっていても
気にならない方など場合によりけりです。

ですので製作する場合には、革が重なる部分というのは
そうならないように漉き加工を行いますし、
なるべく内側に段差が生じないように致します。

または、そのような部分が可動域や骨部分にこないように
避けてデザインを行ったりしますが、痛みの感じ方や骨格は
人それぞれですので、完全には不可避かと思います。

また、そればかり気にしていますと、
デザインのバランスも悪くなります。
痛くないけど、可愛く、かっこ良くない…
どこかで折り合いをつけるしかないのですが。

とりあえず現状確認しますので、甲ベルトを外します。
モカシン部分の縫目も解いて、もたついている部分を広げてみますと
革が折れているのが確認できます。

この折れている分だけ、型紙を修正して製造していれば
このようなコリコリ現象は生じなかったのですが…。
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これにより、折れて重なっている部分が内側に押し出されますので
出っ張っていると云う事になります。
(制作時は靴型につり込んでいますので、出っ張ていた訳ではないのですが)

ちなみに、痛くない外側はと云うと、こんな感じで折り込まれておらず
サイド部分とツラで縫い合わされています。
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改善方法ですが、折り重なっていた部分を取り除き、
再度縫製する事で「改善できるのではないかと思います」
畳まれていたピンクの点線部分をカット致します。
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そして、元と同じようにサイド部分のパーツと縫製致します。
モカ縫い部分を閉じて、そのまま甲パーツをかがり縫いしてゆきます。
そして、最後に甲ベルトを本体と縫製しましたら完成となります。
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すでに完成した靴の状態で縫製するには、
靴の中で針を動かし抜き差ししないとならないので
手縫いするにも、サクサク縫えずもどかしい…。
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最初に弛んでいた部分が無くなったのが確認出来ると思います。
分かりますかね、微妙ですよね見た目では。
両足とも外側をコリコリ除去加工致しました。
このちょっとしたことが、靴では命取りになったりまします。

私もときどき、似たようなコリコリ痛があるのですが、
すでに数年履きならした靴でもそれは突然やってきます。

ある朝、家を出ましたら小指部分がずきっと。
とりあえず駅のベンチで脱いでみますと、なんていうことはない
靴下の指先部分の縫目の固まりのコリコリが、
ちょうど小指の腹の位置にきていて、
それが痛みの原因になっているなんてことが。

靴下の僅かな縫目の固まりでも、丁度よいところ(悪いところ)に
きてしまえば痛みが生じてしまいます。

知人に、
「今まで修理してきたもので一番難しかったのは何?」
と聞かれた事がありました。

答えは、今回のような修理です。
色々と技術的に難しい修理は他にも色々とありますが、
それらは原因があって理由もあり、そして修繕結果も確認できます。

例えば、鞄の持ち手が千切れた修理の場合は、
千切れた原因を探し、作りが悪ければ壊れ難い仕様で製作し、
素材が悪ければしっかりしたもので作り替えます。

補修後は、ちゃんと縫製されているか目視することは当たり前ですが
負荷を掛けてみて、縫目が緩んでいないかなど状態を確認します。

今回のような補修の場合は、原因は分かりましたし
問題の部分も取り除きました、が、
その結果は、ご本人が履いて状態を確かめてみるまで分かりません。
(今回は郵送でのご返却でしたし)

もうちょっと取り除いた方がよかったか… 
サイズが窮屈になっていないか…
まだ痛いと云われやしないか…
なんてと、もやもや…。

なので、結果を自分で確認できない、
相手(感覚)任せな修理というのは、
すべて難しいというか、不安な感じです。

それは知り合いにプレゼントを贈る、あの感じでしょうか。
好みは重々分かっているけど、これ気に入ってもらえるかな…
なんていう感じです。

ちなみに今回のプレゼントは、痛みもなく喜んで頂けたようです。
(痛みのあるプレゼントとって…)

ampersandand at 10:23|Permalink