裂ける
2019年08月20日
小指のところが裂ける人へ。
オールソールで持込まれる靴の40%くらいは、だいたい小指のところが
裂け始めている、または裏革が薄く擦り切れている場合が多いです。
小指以外でも指の付根周辺、歩行の際に屈曲する部分の履き皺で
ひび割れてきている靴もやはり多いです。
アッパーの革で痛むと云えばほぼこの屈曲部分の革と云っていい感じです。
ですのでお手入れが面倒な方は最悪、この屈曲部分にレザーローションを
定期的に塗布して頂ければ宜しいかと思います。
つま先とかかと部分というのは芯材が入っていて革が固められていますので
通常の使用ではまず革は裂けません。
(かかとを踏みつけたり指を掛けて履いているとすぐ壊れますが)
水色が先芯が入って革が硬くなっている範囲。
赤い線が屈曲位置、屈曲位置は人により位置が異なります。
その前後に革が余っていれば革がたるみます。
ときどき靴をおろす時に棒を当てて恣意的な位置に履き皺を作る、
という方法があるのですがどう思いますか?と尋ねられます。
どうなんでしょうか、自分の足が曲がる位置、踏みつけ位置というのは
決まっているので、その位置と違う希望の場所に皺を作っても余計に
皺だらけになってしまうのでは?と思います、
やった事がないので分かりませんが。
また市販の靴は左右で革の質が異なる事がしばしばありますので
革の繊維の締まり具合によっても皺の入り方は違ってきますので
どうなのでしょうか。
今回のご依頼品は小指の腹部分で右足はすでに革が裂けています
(黄色矢印部分)
先芯部分は革が広がらず、小指部分は外へと押し出されていきますので
革が伸びないところと伸びるところの境目で革が裂けるという
「小指の革が裂ける症候群」の典型的事例となります。
先芯の深さや捨て寸により小指が先芯部分まで到達している場合は
どうなるか?この場合革が伸びず、または硬質な部分ですので小指に
痛みが生じてしまう場合があります(これは残念ながら改善できません)
内側の状態。
小指部分が裂ける場合は表革が乾燥して割れる場合と
内側からどんどん擦り切れていってしまい表側まで貫通してしまう
場合があります(またはその併用)。今回は後者になります。
小指から指の付根周辺にかけて裏革が摩耗して無くなっています。
まずはこの部分に内側から革を当てて補強を行ないます。
革の漉き加工。
表革まで薄くなっているので少し厚めの革を用います。
ライニングがブラックなので黒革で。
革の端は段差があると脱ぎ履きの際にめくれ易くなりますので
段差がでないように床面(裏面)を薄く漉いて加工します。
(実際に靴内部に見えるのは銀面(表面)になります)
お店によっては漉かずにぺらぺらな薄い革を貼付けるだけで処置している
ようですが、それですと耐久性に乏しいように思います。
補強範囲
右足は完全に裂けているので縫製をして裂け目を閉じていきます。
ですので革の表面に縫い目が新たにできます。
これも縫わずに内側に革を接着するだけのお店もありますが、
裂けるぐらいに負荷が掛かっていますので始めの見た目はいいですが
直に裂け目は開いていってしまいますので縫製は必須かと思います。
左足は表革は裂けていなかったので縫製はせず内側からの補強に留まりました。
表革が裂けていず内側から指で触って革がえぐれているだけの方は
早めに補強を行なえば外観に縫い目を作らずに補強が出来ます。
補修後
履き皺に添って縫製しているのでそんなに目立たないかなと思います。
この治し方もお店によっては表面から同様に革を貼付けてその周囲を
パッチワークにように縫い付ける方法がありますが、革の質や色合わせなど
条件が揃えば有効な場合もありますが、基本的に当店は内側からの
補強で行なっております。
表面に縫製しても実際に縫い目を眼前で凝視する人はいないので
足元となるとあまり気にならないのかもしれません、特に黒靴は。
ちなみに今回の靴はウィングチップでパーフォレーション(穴飾り)が
開いていますが、ウィングチップの場合はデザイン状、屈曲部分まで
穴飾りが開けられていますので、その部分に履き皺が重なりますと…
革のメンテナンスを怠っていると、穴と穴が繋がり革が裂けていきやすい
状態になってしまいますのでご注意ください。
↓こちらのブログ記事も合わせてご参考にされてください。
裂けた部分をボンドで固定してしまった方の補修案件となります。
裂け始めている、または裏革が薄く擦り切れている場合が多いです。
小指以外でも指の付根周辺、歩行の際に屈曲する部分の履き皺で
ひび割れてきている靴もやはり多いです。
アッパーの革で痛むと云えばほぼこの屈曲部分の革と云っていい感じです。
ですのでお手入れが面倒な方は最悪、この屈曲部分にレザーローションを
定期的に塗布して頂ければ宜しいかと思います。
つま先とかかと部分というのは芯材が入っていて革が固められていますので
通常の使用ではまず革は裂けません。
(かかとを踏みつけたり指を掛けて履いているとすぐ壊れますが)
水色が先芯が入って革が硬くなっている範囲。
赤い線が屈曲位置、屈曲位置は人により位置が異なります。
その前後に革が余っていれば革がたるみます。
ときどき靴をおろす時に棒を当てて恣意的な位置に履き皺を作る、
という方法があるのですがどう思いますか?と尋ねられます。
どうなんでしょうか、自分の足が曲がる位置、踏みつけ位置というのは
決まっているので、その位置と違う希望の場所に皺を作っても余計に
皺だらけになってしまうのでは?と思います、
やった事がないので分かりませんが。
また市販の靴は左右で革の質が異なる事がしばしばありますので
革の繊維の締まり具合によっても皺の入り方は違ってきますので
どうなのでしょうか。
今回のご依頼品は小指の腹部分で右足はすでに革が裂けています
(黄色矢印部分)
先芯部分は革が広がらず、小指部分は外へと押し出されていきますので
革が伸びないところと伸びるところの境目で革が裂けるという
「小指の革が裂ける症候群」の典型的事例となります。
先芯の深さや捨て寸により小指が先芯部分まで到達している場合は
どうなるか?この場合革が伸びず、または硬質な部分ですので小指に
痛みが生じてしまう場合があります(これは残念ながら改善できません)
内側の状態。
小指部分が裂ける場合は表革が乾燥して割れる場合と
内側からどんどん擦り切れていってしまい表側まで貫通してしまう
場合があります(またはその併用)。今回は後者になります。
小指から指の付根周辺にかけて裏革が摩耗して無くなっています。
まずはこの部分に内側から革を当てて補強を行ないます。
革の漉き加工。
表革まで薄くなっているので少し厚めの革を用います。
ライニングがブラックなので黒革で。
革の端は段差があると脱ぎ履きの際にめくれ易くなりますので
段差がでないように床面(裏面)を薄く漉いて加工します。
(実際に靴内部に見えるのは銀面(表面)になります)
お店によっては漉かずにぺらぺらな薄い革を貼付けるだけで処置している
ようですが、それですと耐久性に乏しいように思います。
補強範囲
右足は完全に裂けているので縫製をして裂け目を閉じていきます。
ですので革の表面に縫い目が新たにできます。
これも縫わずに内側に革を接着するだけのお店もありますが、
裂けるぐらいに負荷が掛かっていますので始めの見た目はいいですが
直に裂け目は開いていってしまいますので縫製は必須かと思います。
左足は表革は裂けていなかったので縫製はせず内側からの補強に留まりました。
表革が裂けていず内側から指で触って革がえぐれているだけの方は
早めに補強を行なえば外観に縫い目を作らずに補強が出来ます。
補修後
履き皺に添って縫製しているのでそんなに目立たないかなと思います。
この治し方もお店によっては表面から同様に革を貼付けてその周囲を
パッチワークにように縫い付ける方法がありますが、革の質や色合わせなど
条件が揃えば有効な場合もありますが、基本的に当店は内側からの
補強で行なっております。
表面に縫製しても実際に縫い目を眼前で凝視する人はいないので
足元となるとあまり気にならないのかもしれません、特に黒靴は。
ちなみに今回の靴はウィングチップでパーフォレーション(穴飾り)が
開いていますが、ウィングチップの場合はデザイン状、屈曲部分まで
穴飾りが開けられていますので、その部分に履き皺が重なりますと…
革のメンテナンスを怠っていると、穴と穴が繋がり革が裂けていきやすい
状態になってしまいますのでご注意ください。
↓こちらのブログ記事も合わせてご参考にされてください。
裂けた部分をボンドで固定してしまった方の補修案件となります。
ampersandand at 08:00|Permalink│
2016年12月02日
靴の小指のところが裂けるのには訳がある。
通常の小指裂け補修の方は、以下のリンク先の記事を参照ください。
今回の記事はボンドでひび割れを酷くさせてしまった場合の
特殊な事例になります。
あまりこの修理は他店では行っていないようで修理不可と云われて
当店に廻ってくることが多い裂け補修。
当店でも当初は行っていなかったのですが、というのもやはり
外観に新たに縫い目が出来てしまうので需要はないだろうと…。
しかし、チャールズ皇太子も初任給で購入した革靴の裂けた部分を
補修して履いているとのことで、ありなんじゃないかということで
行っている次第であります。
このように痛み易い人の理由はこちらの記事を参照下さい。
本日は、そのメカニズムについてのご案内となります。
患者さんはこちら。
BEFORE
両足の小指部分が完全に逝ってしまっております…。
しかもリペアDIYにて接着剤を塗布されており鱗状に革が硬化…。
常々お伝えしておりますが、その後、修理に出されるのであれば
DIYはしない方がよいです(費用も割り増しになり、仕上りも悪くなりますので)
そしてそもそも裂けた部分を接着にて補修するというのは無理がありますので。
こちらが上面から補修部位を見た図、赤矢印部分が裂けている部分になります。
履いた状態のイメージ、足の形は主とは異なりますので
小指の長さが多少短いですが、おおよそこんな感じで収まっています。
青い部分は先芯になります。
先芯とは、つま先部分の形状を保つ為に入れております芯材です。
これは溶剤や接着剤にて革と密着して硬化されております。
ですのでこの部分の革は伸びません。
という構造ですので、これを履き込んでいくと…
先芯部分の革は伸びず、しかし指周りの革は左右に押し広げられます。
足は通常、歩行の際に外側へと加重が掛かり易いので
小指部分が外へと押し出される形となります。
しかし、芯材の入っている部分は一緒になって広がってはくれませんので
芯材が入っている硬い部分と、柔らかい革の部分、
その境目で革が裂けてしまうようになります。
つま先が細くなっている靴のデザインの場合は、
おのずと小指の外への押し出しは強くなりますのでより痛み易いかと思います。
また、足の指の長さは人それぞれですので、例えば指が長い人で
先芯部分まで小指が到達している方などは、歩行の際に
小指が芯材に当たってしまい痛みが生じる事もあります(補修不可)
親指側も同様に加重は掛かりますので、同様に痛む方もいらっしゃいます。
以上が小指のところが裂けるメカニズムの一例となります。
では補修となります。
接着剤の塗布により、鱗状に革が硬化してしまっておりますので
この部分は残せません、ですので刳り貫いてしまいます。
このようにDIYしてしまうと、余計に補修範囲を広げかねませんのでご注意です。
*裂けているだけであれば裂け目部分の縫製のみで済みます。
(リンク先補修事例を参照)
まずは内側から革を宛てがい補修致します。
裂けている部分の周辺も、革が伸ばされ痛んでおり、
またライニングも擦切れている場合が殆どですので、
周辺(黄色点線)に革を宛てがい補強を行います。
宛てがう革は革端を薄く漉き、靴の内部で補修の革の厚みに
段差がでないようにしています。
穴が塞がりましたので、今度はアッパーの革の段差を埋め戻します。
同じ形状に革をカットしまして象眼致します。
そして縫製。
ぐるりと縫製。
ときどき裂け目補修で、表面に革を接着しているだけの靴を
見かけますが、見た目は縫い目もなく仕上りますが、
やはり裂けるぐらいの加重が掛かっている部分ですので、
耐久性を保って治すには縫製が必要かと思います。
AFTER
今回の事例は、小指の裂け補修でも最悪のケースとなります。
接着剤はくれぐれも使用しないでください。
このような痛みの予防をするには日々のお手入れが重要となります。
まずは乳化性のクリームにて定期的な保湿。
革の乾燥を防ぎ、色褪せもにも効果的です。
面倒であれば、屈曲部分だけでも充分です。
そしてシューキーパー。
入れておく事で、靴皺を伸ばす事が出来ます。
そのままにしておくと、靴の皺が深くなってゆき、ひび割れの原因となります。
木製のものは数千円しますので、100均のプラスチックのものでも
充分かと思います。
木製のものを購入される場合は、塗装がされていない生地仕上げのものが
湿気もよく吸ってくれますので宜しいかと思います。
日々のお手入れが、3年後、5年後、10年後…
にと、影響をしてゆきますので、
今日のお手入れもお忘れなきよう…。
今回の記事はボンドでひび割れを酷くさせてしまった場合の
特殊な事例になります。
あまりこの修理は他店では行っていないようで修理不可と云われて
当店に廻ってくることが多い裂け補修。
当店でも当初は行っていなかったのですが、というのもやはり
外観に新たに縫い目が出来てしまうので需要はないだろうと…。
しかし、チャールズ皇太子も初任給で購入した革靴の裂けた部分を
補修して履いているとのことで、ありなんじゃないかということで
行っている次第であります。
このように痛み易い人の理由はこちらの記事を参照下さい。
本日は、そのメカニズムについてのご案内となります。
患者さんはこちら。
BEFORE
両足の小指部分が完全に逝ってしまっております…。
しかもリペアDIYにて接着剤を塗布されており鱗状に革が硬化…。
常々お伝えしておりますが、その後、修理に出されるのであれば
DIYはしない方がよいです(費用も割り増しになり、仕上りも悪くなりますので)
そしてそもそも裂けた部分を接着にて補修するというのは無理がありますので。
こちらが上面から補修部位を見た図、赤矢印部分が裂けている部分になります。
履いた状態のイメージ、足の形は主とは異なりますので
小指の長さが多少短いですが、おおよそこんな感じで収まっています。
青い部分は先芯になります。
先芯とは、つま先部分の形状を保つ為に入れております芯材です。
これは溶剤や接着剤にて革と密着して硬化されております。
ですのでこの部分の革は伸びません。
という構造ですので、これを履き込んでいくと…
先芯部分の革は伸びず、しかし指周りの革は左右に押し広げられます。
足は通常、歩行の際に外側へと加重が掛かり易いので
小指部分が外へと押し出される形となります。
しかし、芯材の入っている部分は一緒になって広がってはくれませんので
芯材が入っている硬い部分と、柔らかい革の部分、
その境目で革が裂けてしまうようになります。
つま先が細くなっている靴のデザインの場合は、
おのずと小指の外への押し出しは強くなりますのでより痛み易いかと思います。
また、足の指の長さは人それぞれですので、例えば指が長い人で
先芯部分まで小指が到達している方などは、歩行の際に
小指が芯材に当たってしまい痛みが生じる事もあります(補修不可)
親指側も同様に加重は掛かりますので、同様に痛む方もいらっしゃいます。
以上が小指のところが裂けるメカニズムの一例となります。
では補修となります。
接着剤の塗布により、鱗状に革が硬化してしまっておりますので
この部分は残せません、ですので刳り貫いてしまいます。
このようにDIYしてしまうと、余計に補修範囲を広げかねませんのでご注意です。
*裂けているだけであれば裂け目部分の縫製のみで済みます。
(リンク先補修事例を参照)
まずは内側から革を宛てがい補修致します。
裂けている部分の周辺も、革が伸ばされ痛んでおり、
またライニングも擦切れている場合が殆どですので、
周辺(黄色点線)に革を宛てがい補強を行います。
宛てがう革は革端を薄く漉き、靴の内部で補修の革の厚みに
段差がでないようにしています。
穴が塞がりましたので、今度はアッパーの革の段差を埋め戻します。
同じ形状に革をカットしまして象眼致します。
そして縫製。
ぐるりと縫製。
ときどき裂け目補修で、表面に革を接着しているだけの靴を
見かけますが、見た目は縫い目もなく仕上りますが、
やはり裂けるぐらいの加重が掛かっている部分ですので、
耐久性を保って治すには縫製が必要かと思います。
AFTER
今回の事例は、小指の裂け補修でも最悪のケースとなります。
接着剤はくれぐれも使用しないでください。
このような痛みの予防をするには日々のお手入れが重要となります。
まずは乳化性のクリームにて定期的な保湿。
革の乾燥を防ぎ、色褪せもにも効果的です。
面倒であれば、屈曲部分だけでも充分です。
そしてシューキーパー。
入れておく事で、靴皺を伸ばす事が出来ます。
そのままにしておくと、靴の皺が深くなってゆき、ひび割れの原因となります。
木製のものは数千円しますので、100均のプラスチックのものでも
充分かと思います。
木製のものを購入される場合は、塗装がされていない生地仕上げのものが
湿気もよく吸ってくれますので宜しいかと思います。
日々のお手入れが、3年後、5年後、10年後…
にと、影響をしてゆきますので、
今日のお手入れもお忘れなきよう…。
ampersandand at 21:47|Permalink│