裂け補修

2020年09月10日

TUMIのリュックは壊れやすいのか? らしく篇

気づけば2ヶ月ぶりの補修記事になりますが、サボっていた訳でも
ネタがない訳でもなく、コロナの影響か郵送でのご依頼が増加し
その場合、メールでのお見積もりやご相談になるので、その回答に
時間を取られてしまいなかなかブログ更新できないというのが
今の現状であります。

ただ店頭もなかなかお店も開けず、ブログも更新していないと
コロナ禍ということもあり閉店したんじゃないかと思われてしまうので
生存証明としてブログは更新していかないとと、この度
筆をとった次第であります。

で、書きやすいTUMIの話からで筆慣らしをしていこうかと。
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TUMIのリュックはナイロン生地部分が裂けるというお問い合わせが多いですね。
定番のブリーフ鞄の場合はナイロン生地が裂けるという補修は
今までにあったかどうかという感じです。
ブリーフの場合は持ち手の革が痛んだりショルダーストラップの引っ掛ける
金具を固定している革が裂けたり、底部分の角が擦れたりと経年劣化によるもので
致し方ない痛み方なのですが、リュックに関してはそもそもの設定や仕様や縫製が
それで本当にいいのでしょうか?という場合が多いいです。

今回はストラップ付け根のナイロン生地の裂けになります。
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一般的なリュックでもこのストラップの付け根というのは
一番痛いやすい部分になります。(次にファスナーです)
痛みやすい原因としては片側のストラップだけで背負ったり、
荷物を取り出すときに片側で背負ったり手に持ったりすることが
しばしばあると思います。

そうすると付け根の縫製部分に鞄の荷物の負荷が全てかかってしまうので
縫製部分やナイロン生地が裂けてしまうという訳です。
今回のナイロン生地のほつれ具合を見てみるとストラップ側のナイロン生地は
ほつれておらず、付け根本体側の生地がほつれてきています。
恐らくストラップで本体の生地が引っ張られ、しかし縫い目の方が
強いのでナイロンが引き裂かれてしまったのだろうと思います。

縫い目の方が強いというのは洋服などを縫製する糸は綿の糸ですが
一般的な革製品やナイロン製品などを縫製する糸はポリエステル素材の
糸でできています。
なので細い糸でも両手で引っ張っても切れないくらい強いので
糸がほつれる前に縫製されている素材の方が縫い目で引き裂かれてしまう
ということがしばしばあります。

ナイロン生地が裂けてしまうと、ほつれは取り留めもなく
するすると広がってしまいます。
革のように裂け部分を貼り合わせて縫製してなどということはできません。
ではどのように治すかですが・・・。
部位によっては強度不足の不安だったり縫製が不可だったりで
治せない場合もあるのですが今回は大丈夫です。

まずストラップの付け根部分で負荷がかかる部位を手縫いにて確実に
本体のベース部分に縫い付けます。
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次にボサボサとほつれているナイロン生地を処理していきます。
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デニムの膝が擦り切れたりした場合に、当て布をしてステッチを細かく
掛けているのを見たことがあると思いますが、そんな感じでボサボサ部分を
抑えるようにミシンでジグザグと縫製しつつ、またこれで縫製部分が
硬くなるので強度も増します。
ジグザグといっても家庭用のコンピューターミシンのように自動で縫ってくれる
わけでもないので一目一目抑えの方向を変えつつ縫っていきます。
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話が前後しますがこのリュック背中部分に小さなポケットがあります。
両側のストラップの半分から半分までの範囲が本体から浮きます。
今回補修の際にこの部分のポケットが縫い付けられてしまうので
使えなくなりますが?とお尋ねしたところ、
使っていないので大丈夫ですということになっています。

で、ジグザグに縫製する際に本体共々縫製するには1.0cmぐらいの厚みが
あるのでジグザグに縫うには恐らく糸調子が狂ってしまうだろうし、
内装側の見た目も綺麗じゃないのでこのポケット部分を浮かせて縫製しています。

お店によってはナイロンのほつれ補修でこのジグザグの縫製で
修理完了したことになるようですが、ちょっとそれでは見栄えも強度も心配です。

ではどうするかですが、ちょうど背中の部分でナイロンパーツが
分かれているのでこの部分に革を当ててらしくしていきます。
この「らしく」というのが当店のこだわりかもしれません。
今回のように元のオリジナル通りには修理できないのであれば
それらしく仕上がるように努めます。
知らない人が見ればもともとそうなんでしょ?という感じになるように。
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このパーツは先ほどの背中のポケットを浮かせて縫製できないので
本体共々貫通して縫製していきますが、厚みが1.0cmありスポンジも背中面に
入っているのでなかなか縫製するのも一苦労です。
AFTER
黒い革部分が補強兼、ジグザグ縫いの目隠しパーツになります。
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ほつれてボサボサになっていた部分のジグザグ縫いも隠れて
どうでしょうか、「らしく」ないでしょうか?
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内装側には貫通した縫い目が出てきます。
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リュックの背中面やストラップの内側に使われてるメッシュ生地、
これもどう見ても耐久性があるように見えませんが、やはり擦り切れて
補修依頼が時々ありますが、まず補修が無理な場合がほとんどです。
見栄えや内装側への縫い目などを気にしなければ
どうにかなるかもしれませんが。

リュックを背負うときにはあまりストラップを片側で扱うようなことが
ないようにお気をつけください。

ampersandand at 11:30|Permalink

2018年02月16日

よかれと思ってミンクオイル。 革裂けるかも篇

靴のお手入れにはミンクオイル使われている方、いらっしゃいますよね。
どうですか靴の調子は、しっとりというかべったりしていませんか。
なんだか艶もでなくなったかな…。
皺のところが白くなっているのは何故…。
と思い当たるところはありませんでしょうか。

BEFORE
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店主調べでは、靴のお手入れにミンクオイルを使われている方は
24%くらいはいらっしゃるようです。
(35%くらいは何もお手入れはしない派なのですが)

ミンクオイルを使うような靴というのは、ワークブーツのような
革の厚みが2.5mmとか3.0mmあるようながっしりとした靴かと思います。
そのような靴は履き始めは特に堅いので、ミンクオイルを一時的に
使ってみてもいいのかもしれません。
(ミンクオイルより適したものが今現在ありそうですが)

通常の靴の場合は、あえてミンクオイルを使う必要はないかと思います。
日頃のお手入れには乳化性クリームや、ぱさついている場合は
レザーローション系やトリートメントを併用すれば宜しいかと思います。
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ミンクオイルを使い過ぎると油分(脂分)が強すぎるので、
通常の革靴では革の繊維がふやけてしまいすぎてしまい、コシがなくなり
革の強度も低下し、必要以上に伸び易くなってしまいがちです。

使い続けると常に表面は濡れたように色が沈み、触った感じも
しっとりというよりはべったりとしてしまい
磨いても艶がでなくもなってしまいます。
(ミンクオイルも商品によって違いはあるかと思いますが)

また、靴棚など湿気がこもり易い環境でその靴を保管していると
栄養になる脂を塗布しているので、カビの発生確率も高まってしまいます。
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今回のブーツもミンクオイル漬けでした。
伺ってみると裏表両面からオイルを塗布されているとのこと。
ご依頼品は全体に裏革はなく、かかと部分のカウンターと
履き口の補強のみ裏革が付いている状態です。

丁度裂けている部分にはカウンターポケットに添って
ステッチが掛けられています。
この部分はカウンター(芯材)を入れる為に裏面に革が宛てられ
それを縫製している縫い目になります。

ですので、裂け目というのは芯材が入っている堅い部分と
入っていない柔らかい部分の境目で裂けた状態となります。
もともとこの部分は足首で屈曲を繰り返すので痛み易い部位ではあるのですが。

そのような構造的な原因もありますが、飽和状態になるくらいの
オイルが加脂され革がぐずぐずになり、
履く際に革を引っ張った拍子に縫い目が切り取り線のような
役割になりそこで裂けてしまったのかもしれません。
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細かな皺部分に脂が白く浮き出ています(オイルの飽和状態)

補修方法は、裂けているアキレス腱部分にレザーパーツで補強する
方法をご提案致しましたが、お客様から裂け目に添って全体に
パーツを宛ててしまって下さいというご希望をいただき、
またご希望のイメージを生地で作成して頂いたので補修を行い易かったです。
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このような外観が変わってしまう補修の場合、どこまでがOKラインなのかが
判断し難いので、このように分かり易くお伝え頂けると有り難いです。
なるべくご希望に添ったかたちで可能な仕様にて補修させて頂きます。
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まず裂け目を閉じる為に内側に革をあてて補強しようと思いましたが、
油分が強く接着剤がほとんど効かないので、脱ぎ履きの際に
革の端がめくれてきてしまう可能性もあり、また補修箇所がしっかりし
過ぎると今度はその境目で同じように負荷が掛かる可能性もあります。

ですので、裂け目をフランケンの傷口のようにジグザグに縫製して
閉じていき、部分的に薄いナイロンテープを挟み込んで縫製します。
(挟み込んだナイロンテープはレザーパーツで見えなくなります。)
次に表面に頂いたパーツサンプルをもとにラインを決め、
レザーパーツを作成致し縫製していきます。

裂け目をまたぐように革を配置していますので、
可動域の屈曲部分(堅さの異なる境目)も補強できています。
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縫い付けている革の色が本体と合っていませんが、
本体はオイルと靴クリームで複雑な色になっていますので
似た雰囲気の革がありませんでした。
ですのでブラウン系の革を縫い付け、後でえんじ色に染色し色を合わせます。
今回の補修は両足とも同様に裂けていましたので同じように
両足ともパーツを縫製してあります。
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しばしばお手入れについて尋ねられますが、
日頃のお手入れには乳化性の靴クリームを用いて下さい。
乾燥が激しくぱさついている時には、まずは水分の多いいデリケートクリームや
ローション、トリートメントで水分や油分を与え保湿を行ってから
色付きの乳化性クリームを塗布すると、色むらになり難いですし
表面も落ち着きます。

色付きと書きましたが、無色であればどの色の革にでも使えるのですが
それだと補色効果が期待できません。ですので黒には黒、茶系には茶と
それぞれに合わせた色の乳化性クリームを使った方が宜しいかと思います。

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ブラック、ブラウン系、キャメル系、ボルドー系、ニュートラル(無色)
と五色あれば一般的な革の色はカバーできるかと思います。
あとはご自身の靴のレパートリー次第で増やしていく感じでしょうか。
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[エム・モゥブレィ] 汚れ落とし M.モゥブレィ ステインリムーバー 60ml

「よかれと思ってリムーバー」
という記事も書けそうですが、
お手入れの度にステインリムーバー(汚れ落とし)は使わなくても大丈夫です。
大丈夫というか、そんな頻度でステインリムーバーを使用してしまうと
かえって革を痛めてしまいます。
油性のクリームも落とすほどの有機溶剤配合ですので、革を痛めてしまいます。
(アンティーク仕上げなどはリムーバーで色落ちしてしまう可能性もあります)

わたしの8年くらい履いている靴ですが、ステインリムーバーは
確か数回使った程度です。(これはこれで極端かと思いますが…)
使用目的も汚れを落とすというよりは、鏡面に磨いている
つま先の油性ワックスが、ぶつけたり擦ったりしてムラになってきたので
それを均一に磨き直す為、すっぴんに落とすことに使用した程度です。

古い乳化性クリームは、新しい乳化性クリームを塗布する際に
それにも有機溶剤が配合されていますので
その成分で古いクリームはとれる(置き換えられる)というイメージです。

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ですので毎回ちゃんとブラッシングしないとダメな訳ではありますが。
布切れでもいいのですが、それだと皺の谷部分にクリームが残ってしまったり
飾り穴が詰まってしまったりとしますので、手も汚れませんし
磨きも早いので断然ブラシは使った方がよいです。
余分なクリームをちゃんと落とさないと硬化して
ひび割れの原因になりますので。

革は一度劣化してしまうと、もとのレベルまで戻せませんので
日々のお手入れが大切です。

面倒であれば、屈曲部分だけでもよいので行ってみてください。
でも「お手軽!塗ったら艶が出るこれ一本」みたいなリキッド状の
メンテナンス用品は、表面に強制的に皮膜を塗り重ねるだけだったりと
革の劣化にも繋がる場合もありますのでお気をつけ下さい。

HPアイコンロゴアウトライン





ampersandand at 18:09|Permalink