鞄
2020年06月29日
牛1頭から鞄を1つ作るの巻。 コピー編
今回は合皮の鞄を革で作り治すというお題になります。
作り治す、とはですが外装が合皮で劣化している鞄のその外装を全く同じ
デザインで革で作り治す、というかコピーするといったほうが適している
かもしれません。
使い勝手が良く似たような鞄を探したが見つからないので革で作れないかと。
本体の胴部分が合皮で劣化しているのでその部分だけ革で作り直して
持ち手とか他の革のパーツと生地でできた内装は流用で構いませんと。
BEFORE
本体の部分に合皮素材が使われています。
劣化して表面の塗膜が剥離してきていますし、角部分などは擦れて
下地の生地が露出してきています。
合皮というのは使っても使わなくても必ず劣化していきます。
製造から2〜3年で劣化すると言われています。
製造というのは鞄を製造というのではなく、その素材が作られてからなので
鞄になるまで1年経過していれば消費期限は残り〜2年ということになります。
合皮の構造としてはガーゼや不織布のような生地の表面に革の色をした
サランラップが乗っていると考えていただくと分かりやすいかと思います。
劣化してくるとそのサランラップが剥がれてくるという感じです。
また水分を含むとシールが剥がれるようにサランラップがふやかされて
剥離や水ぶくれのように浮いてもきます。
底面も接地部分が擦れて剥離してきています。中央部分に底鋲がないので
荷物が入れば垂れ下がりこれでは構造的にも擦れてしまいますね。
持ち手や根革やエンドパーツはレザーが使われているので流用します。
今回製作する部分は合皮素材が使われているピンク色の部分になります。
金具を連結する根革部分は革でしたが華奢でしたので再製作します。
ファスナーエンドパーツを側面に固定するこのパーツは、
一度でぐるっと縫製できるのですが、わざわざ二回に分けて縫製しています。
鍵穴が空いている手前の部分と奥の部分では翻るところで縫い繋げています。
ミシンの縫い目というのは裏表がありまして、表の縫い目が綺麗なのですが
このパーツを一度でぐるっと縫製してしまうと、奥の部分に見える縫い目は
裏面が見えるようになります。ですので縫い目が隠れる翻る部分で一度縫い留め、
そこからひっくり返して縫製しています。
私もこういうのが気になるタチなので設計者の気持ちが分かります。
ただ消費者の方にはほとんど気づかれない部分になるのですが。
このような見え方になってしまう場合も気にせず縫製してしまうメーカーも
かなりありますし、というかこういったところを気にするのになぜ胴体部分に
合皮を使いますかね?という気もしますが・・・。
ファスナー両側のダブルステッチのパイピング部分も革が使用されていますが
作業の段取り的に交換したほうが綺麗に仕上がるのでこの部分も再製作です。
今回使用する革がこちら。
キップでスムースとシュリンク両方の表情があるタンニン鞣しの黒革になります。
キップとは生後1年以内の子牛の革、なのであまり大きくありません。
ステアなど生後2年を経過した成牛の革だと畳2畳ぐらいの大きさなので
通常は半裁といって背中で半分にされていますが、キップの場合は
丸革(一頭)になります。
背中にコブがあるので広げるとその部分が丸く穴が空きます。
載っている定規は1メートル定規なので大きさがなんとなく伝わるかと思います。
全面が使用できるわけではなくて赤線の枠内が概ね使用できる範囲です。
周囲の部分は脇腹や足の方なので繊維が荒く表面も荒れているので
使用する場面が限られます。
奥側の矢印部分のピヨっと出ている部分が足の部分というのが分かります。
奥が首側で手前がお尻側です。
で赤い枠内でも無傷というわけではありません。
人間も生きていれば転んだり引っ掻いたり蚊に吸われて掻いた跡が
皮膚表面に残っていると思いますが、牛も虫刺されや柵に当たったり
隣の牛にぶつけられたりした傷がありますが、これは生きていた証である
「ナチュラルマーク」とも呼ばれたりもする様です。
生きていた証しではあるのですが、鞄にマークだらけでは困るのでその部分を
マーキングしておいて裁断するときに拾わないようにします。
そういう部分が点々とあるので鞄などの大きいパーツを
型入れするときは難しいです。
今回の鞄は、底面まで繋がっていますがパーツはセンターで縫い割られているので
胴体部分は同じサイズで4パーツ採る必要があります。
載っている型紙が1パーツサイズ。これを4個採ります。
面積に余裕があるので簡単に取れそうですが、実はギリギリなのです。
4パーツカットした跡がこちら。
とても無駄な採り方をしているように見えますがこれ以外には
配置できないという状態なのです。
というのは、先ほどの「ナチュラルマーク」が所々にあるのでその部分を避けつつ
配置するとこのような状況になってしまいます。
右下部分の斜めの配置なんか絶妙なんです。
角度をずらすと傷跡があるのでそれを回避しつつという感じです。
残った中央部分などはファスナー両側のパイピングに使用したり、
内装に大きめのポケットを追加ということなのでそれに利用したりします。
靴を作るときは一つ一つのパーツが小さいのでこのような型入れ作業に
時間はあまり費やしませんが、今回は時間がかかりましたね、失敗すると
もう一頭牛を連れて来なければなりませんから。
話は前後しますが分解し内装を外したところ。
分解するとこの鞄はどの程度しっかり作られているのか分かります。
見えない部分ですので手を抜いても消費者には分かりませんので。
この鞄は先ほどのパーツの縫製具合を見ればしっかり作っているだろうと
思いましたが、やはりちゃんと負荷がかかりそうな部分は補強していますし
荷物が入った時には鞄全体で重さを分散できるような工夫もされています。
ここでもやはりなぜ合皮?という感じなのですが。
長く使えるように作られているのに長く使えない合皮素材を使うって・・・。
内装には忘れないうちにご希望の大きめのポケットを取り付けておきます。
生地がグレーっぽい黒色のなのでポケットだけ違う色の生地もおかしいので
余っている革でポケットを誂えます。
本体を組み立てていきます。
胴体側の付け根のパーツは流用になります。
ファスナー取り付け部分のダブルステッチは、一列は縁取りの縫製になります。
二列目でファスナーと内装を縫製することになります。
外装にある外ポケットは内装を取り付ける前に構築しておかないと
縫製できなくなりますので忘れずに。
ここの縫い目は他の縫い目と違って黒色です、危うくベージュでいきそうに。
持ち手も平たい状態で取り付けます。
いつもの修理ではすでに鞄になっている状態で取り付けているので
やり易いですね。金具を連結する革が鞄の大きさに比べると貧弱でしたので
革の厚みを増して芯材を巻き込んだもので取り付けてみたらミシンでうまく
縫製できない事になってしまったので手縫いで四箇所
縫い留める事になりました。
広げると90cmぐらいの幅になるので重いし縫製するのも大変です。
この鞄だと恐らく平ミシンで全て縫製できると思いますが所有している
工業用のミシンは全て腕ミシンなので、縫製するものが大きくなると
支える台がないので鞄を左手で持ち上げながら縫製するので大変です。
膝も使いつつ縫い進めるという感じです。
工業用の平ミシンを導入しようとこれまでに何度か思いましたが、
すでにミシンが二階の作業場に大小7台設置しているので手狭で
置き場所がありません。
まぁ無い物ねだりでもあるので、無いなら無いで工夫すればいいだけです。
中表にして左右と底のマチを縫い割ります。
これで胴体が袋状になります。
これを丸まった靴下をひっくり返すように内側を表になるように
くるりんぱっします。
ファスナーは痛んではいなかったのですがあとあと壊れて交換となると
二度手間なので新しいファスナーに交換しておきます。
スライダーを入れてみて問題なく開閉できることを確認し
二列目のステッチを行います。
ファスナーエンド部分のパーツに本体を畳んで挟み込むので
革が二枚に生地も二枚、計4枚が重なるので厚みがかなりあります。
ミシンで縫製すると表面の縫い穴は元の穴を拾って針を落とせるのですが
厚みがあると針が貫通して出てくる裏面の縫い穴は元の穴から
ずれてしまいがちです。
今回も位置を確認したところかなりずれてしまうので、
手縫いにて表と裏の穴を探りながら縫製する事になりました。
でようやく完成となります。
AFTER
完成!といってもデザインは全く同じなので映えはしないのですが。
底鋲は新しい鋲に交換し中央にも追加。四隅の鋲も1.5cm
外側に鋲をずらしました。
底鋲が内側気味に付いている鞄が多いのですが、それですと角が
垂れ下がりがちですので、角に位置どりさせた方が良いのではないかと考えます。
底板も、もともと一枚入っていましたが小さかったので、底面ぴったりの底板を
作成し入れてあります。そうする事で四隅の革の垂れ下がりを軽減し、
中央部分も追加した底鋲で支えて垂れ下がらないので、底面の革が地面と擦れず
痛みにくいようにしてあります。
革で製作すると一つの鞄を作るのに牛一頭を使うとなると
その鞄の値段はそれなりに高くなってしまいます。
合皮であればロールの壁紙のように端から端まで均一の素材ですので
無駄なくパーツを裁断することができますが革ではそうはいきません。
今回一頭から胴体のパーツは4パーツしか採れませんでしたが、
例えばその牛がナチュラルマークも一切無く、端まで均一の質であれば
面積的には6〜7パーツは採れたと思います。
革製品というのは実際に製品で使われないそういった面積の製造コストも
価格に含まれてしまうので必然的に販売価格は高くなってしまいます。
今回の製作では残った革は他の小物の修理でも無駄なく使いますので、
それを加味しての製作費用にはなっておりますが、
それでもそれなりにはしてしまいます。
それでは皆さん、合皮製品(または一部使われている製品)を購入する際には
くれぐれも消費期限は3年、ということをお忘れなきよう・・・。
作り治す、とはですが外装が合皮で劣化している鞄のその外装を全く同じ
デザインで革で作り治す、というかコピーするといったほうが適している
かもしれません。
使い勝手が良く似たような鞄を探したが見つからないので革で作れないかと。
本体の胴部分が合皮で劣化しているのでその部分だけ革で作り直して
持ち手とか他の革のパーツと生地でできた内装は流用で構いませんと。
BEFORE
本体の部分に合皮素材が使われています。
劣化して表面の塗膜が剥離してきていますし、角部分などは擦れて
下地の生地が露出してきています。
合皮というのは使っても使わなくても必ず劣化していきます。
製造から2〜3年で劣化すると言われています。
製造というのは鞄を製造というのではなく、その素材が作られてからなので
鞄になるまで1年経過していれば消費期限は残り〜2年ということになります。
合皮の構造としてはガーゼや不織布のような生地の表面に革の色をした
サランラップが乗っていると考えていただくと分かりやすいかと思います。
劣化してくるとそのサランラップが剥がれてくるという感じです。
また水分を含むとシールが剥がれるようにサランラップがふやかされて
剥離や水ぶくれのように浮いてもきます。
底面も接地部分が擦れて剥離してきています。中央部分に底鋲がないので
荷物が入れば垂れ下がりこれでは構造的にも擦れてしまいますね。
持ち手や根革やエンドパーツはレザーが使われているので流用します。
今回製作する部分は合皮素材が使われているピンク色の部分になります。
金具を連結する根革部分は革でしたが華奢でしたので再製作します。
ファスナーエンドパーツを側面に固定するこのパーツは、
一度でぐるっと縫製できるのですが、わざわざ二回に分けて縫製しています。
鍵穴が空いている手前の部分と奥の部分では翻るところで縫い繋げています。
ミシンの縫い目というのは裏表がありまして、表の縫い目が綺麗なのですが
このパーツを一度でぐるっと縫製してしまうと、奥の部分に見える縫い目は
裏面が見えるようになります。ですので縫い目が隠れる翻る部分で一度縫い留め、
そこからひっくり返して縫製しています。
私もこういうのが気になるタチなので設計者の気持ちが分かります。
ただ消費者の方にはほとんど気づかれない部分になるのですが。
このような見え方になってしまう場合も気にせず縫製してしまうメーカーも
かなりありますし、というかこういったところを気にするのになぜ胴体部分に
合皮を使いますかね?という気もしますが・・・。
ファスナー両側のダブルステッチのパイピング部分も革が使用されていますが
作業の段取り的に交換したほうが綺麗に仕上がるのでこの部分も再製作です。
今回使用する革がこちら。
キップでスムースとシュリンク両方の表情があるタンニン鞣しの黒革になります。
キップとは生後1年以内の子牛の革、なのであまり大きくありません。
ステアなど生後2年を経過した成牛の革だと畳2畳ぐらいの大きさなので
通常は半裁といって背中で半分にされていますが、キップの場合は
丸革(一頭)になります。
背中にコブがあるので広げるとその部分が丸く穴が空きます。
載っている定規は1メートル定規なので大きさがなんとなく伝わるかと思います。
全面が使用できるわけではなくて赤線の枠内が概ね使用できる範囲です。
周囲の部分は脇腹や足の方なので繊維が荒く表面も荒れているので
使用する場面が限られます。
奥側の矢印部分のピヨっと出ている部分が足の部分というのが分かります。
奥が首側で手前がお尻側です。
で赤い枠内でも無傷というわけではありません。
人間も生きていれば転んだり引っ掻いたり蚊に吸われて掻いた跡が
皮膚表面に残っていると思いますが、牛も虫刺されや柵に当たったり
隣の牛にぶつけられたりした傷がありますが、これは生きていた証である
「ナチュラルマーク」とも呼ばれたりもする様です。
生きていた証しではあるのですが、鞄にマークだらけでは困るのでその部分を
マーキングしておいて裁断するときに拾わないようにします。
そういう部分が点々とあるので鞄などの大きいパーツを
型入れするときは難しいです。
今回の鞄は、底面まで繋がっていますがパーツはセンターで縫い割られているので
胴体部分は同じサイズで4パーツ採る必要があります。
載っている型紙が1パーツサイズ。これを4個採ります。
面積に余裕があるので簡単に取れそうですが、実はギリギリなのです。
4パーツカットした跡がこちら。
とても無駄な採り方をしているように見えますがこれ以外には
配置できないという状態なのです。
というのは、先ほどの「ナチュラルマーク」が所々にあるのでその部分を避けつつ
配置するとこのような状況になってしまいます。
右下部分の斜めの配置なんか絶妙なんです。
角度をずらすと傷跡があるのでそれを回避しつつという感じです。
残った中央部分などはファスナー両側のパイピングに使用したり、
内装に大きめのポケットを追加ということなのでそれに利用したりします。
靴を作るときは一つ一つのパーツが小さいのでこのような型入れ作業に
時間はあまり費やしませんが、今回は時間がかかりましたね、失敗すると
もう一頭牛を連れて来なければなりませんから。
話は前後しますが分解し内装を外したところ。
分解するとこの鞄はどの程度しっかり作られているのか分かります。
見えない部分ですので手を抜いても消費者には分かりませんので。
この鞄は先ほどのパーツの縫製具合を見ればしっかり作っているだろうと
思いましたが、やはりちゃんと負荷がかかりそうな部分は補強していますし
荷物が入った時には鞄全体で重さを分散できるような工夫もされています。
ここでもやはりなぜ合皮?という感じなのですが。
長く使えるように作られているのに長く使えない合皮素材を使うって・・・。
内装には忘れないうちにご希望の大きめのポケットを取り付けておきます。
生地がグレーっぽい黒色のなのでポケットだけ違う色の生地もおかしいので
余っている革でポケットを誂えます。
本体を組み立てていきます。
胴体側の付け根のパーツは流用になります。
ファスナー取り付け部分のダブルステッチは、一列は縁取りの縫製になります。
二列目でファスナーと内装を縫製することになります。
外装にある外ポケットは内装を取り付ける前に構築しておかないと
縫製できなくなりますので忘れずに。
ここの縫い目は他の縫い目と違って黒色です、危うくベージュでいきそうに。
持ち手も平たい状態で取り付けます。
いつもの修理ではすでに鞄になっている状態で取り付けているので
やり易いですね。金具を連結する革が鞄の大きさに比べると貧弱でしたので
革の厚みを増して芯材を巻き込んだもので取り付けてみたらミシンでうまく
縫製できない事になってしまったので手縫いで四箇所
縫い留める事になりました。
広げると90cmぐらいの幅になるので重いし縫製するのも大変です。
この鞄だと恐らく平ミシンで全て縫製できると思いますが所有している
工業用のミシンは全て腕ミシンなので、縫製するものが大きくなると
支える台がないので鞄を左手で持ち上げながら縫製するので大変です。
膝も使いつつ縫い進めるという感じです。
工業用の平ミシンを導入しようとこれまでに何度か思いましたが、
すでにミシンが二階の作業場に大小7台設置しているので手狭で
置き場所がありません。
まぁ無い物ねだりでもあるので、無いなら無いで工夫すればいいだけです。
中表にして左右と底のマチを縫い割ります。
これで胴体が袋状になります。
これを丸まった靴下をひっくり返すように内側を表になるように
くるりんぱっします。
ファスナーは痛んではいなかったのですがあとあと壊れて交換となると
二度手間なので新しいファスナーに交換しておきます。
スライダーを入れてみて問題なく開閉できることを確認し
二列目のステッチを行います。
ファスナーエンド部分のパーツに本体を畳んで挟み込むので
革が二枚に生地も二枚、計4枚が重なるので厚みがかなりあります。
ミシンで縫製すると表面の縫い穴は元の穴を拾って針を落とせるのですが
厚みがあると針が貫通して出てくる裏面の縫い穴は元の穴から
ずれてしまいがちです。
今回も位置を確認したところかなりずれてしまうので、
手縫いにて表と裏の穴を探りながら縫製する事になりました。
でようやく完成となります。
AFTER
完成!といってもデザインは全く同じなので映えはしないのですが。
底鋲は新しい鋲に交換し中央にも追加。四隅の鋲も1.5cm
外側に鋲をずらしました。
底鋲が内側気味に付いている鞄が多いのですが、それですと角が
垂れ下がりがちですので、角に位置どりさせた方が良いのではないかと考えます。
底板も、もともと一枚入っていましたが小さかったので、底面ぴったりの底板を
作成し入れてあります。そうする事で四隅の革の垂れ下がりを軽減し、
中央部分も追加した底鋲で支えて垂れ下がらないので、底面の革が地面と擦れず
痛みにくいようにしてあります。
革で製作すると一つの鞄を作るのに牛一頭を使うとなると
その鞄の値段はそれなりに高くなってしまいます。
合皮であればロールの壁紙のように端から端まで均一の素材ですので
無駄なくパーツを裁断することができますが革ではそうはいきません。
今回一頭から胴体のパーツは4パーツしか採れませんでしたが、
例えばその牛がナチュラルマークも一切無く、端まで均一の質であれば
面積的には6〜7パーツは採れたと思います。
革製品というのは実際に製品で使われないそういった面積の製造コストも
価格に含まれてしまうので必然的に販売価格は高くなってしまいます。
今回の製作では残った革は他の小物の修理でも無駄なく使いますので、
それを加味しての製作費用にはなっておりますが、
それでもそれなりにはしてしまいます。
それでは皆さん、合皮製品(または一部使われている製品)を購入する際には
くれぐれも消費期限は3年、ということをお忘れなきよう・・・。
ampersandand at 20:30|Permalink│
2019年01月15日
120kgまで持てる鞄。 オロビアンコ篇
鞄の持ち手の芯が途中で折れる修理ってだいたいオロビアンコ。
ほかのメーカーでも樹脂製の芯材って使っているところはあるのでしょうが
持ち込まれる鞄はオロビアンコなんです。
持ち手の芯材はいくつか種類がありまして大きく分けて
ロープ、ガラ紡、、樹脂系のパイプなどがあります。
ガラ紡っていうのはフェルトみたいな柔らかい素材を
細長く裁断してそれを糸でぐるぐるとまとめたもと。
こんな感じのもの。
なのでこの芯材を使用すると感触がふにゃっとした感じに仕上ります。
(巻く革の厚みによって異なりますが)
紳士鞄の場合は、荷物も重たくなりますし柔らかい芯材では耐えられませんので
だいたいがロープや樹脂系の芯材が用いられています。
樹脂系の芯材と云うのは劣化してくると今回のように
割れてしまいますし、また鋭角に曲がるとパキッと割れてしまうと思います。
あとはエンド部分の処理が鋭角な加工で処理されていると
革を突き破ってしまうという壊れ方もありました。
ですので当店では間違いのないロープ素材を芯材に用いております。
ロープと云っても編み方や素材でまた色々とあります。
私のお気に入りのロープは金剛打ロープというもの。
これも同じ名称でもメーカーによって編み方や硬さが異なるので
毎回無くなった際には最寄りのホームセンターを何店舗かはしごして
お気に入りのロープを探しています。
AMAZONでも検索するとたくさんでてくるのですが、
画像では編み目や硬さが確認できないのですし、
20メートルとかの玉で購入するので、違っていると他に使い道がないので
無駄になってしまいます。
今回購入のロープはラベルを捨てずにとっておいたので、
次回からはアマゾンで購入できそうです。
手で持つ部分で折れてしまっています。
劣化により曲がった部分でぽきっと…。
持ち手が壊れる原因としては芯材の偏りもあります。
偏りとは、端から端まで左右均等に芯材が入っているはずなのですが、
使用するにつれて、どちらかに芯材がずれてきてしまう現象です。
パーカーの紐が片側にビヨーンという感じでしょうか。
片側に芯材がずれてきてしまうと、持ち手付根部分のもっとも
負荷の掛かる箇所に芯材が無く空洞になってしまうので
その部分で縒れて裂けてきてしまいます。
これは制作の際に端から端まで芯材を封入していないのが原因かと思います。
またはそもそも芯材の長さが足りていない仕様書になっているかと思います。
量産であれば必要な尺で芯材はまとめて裁断されているのでしょうから。
樹脂製の芯材の場合は、表面がつるつるしているので長さが足りていないと
内部でずるずるとずれ易いのかもしれません。
ロープですと表面の凹凸で摩擦が起こりずれていき難いような気がします。
Felisi の持ち手もロープが使われていますが、付根裏革が
付いていないので、ロープが時々ずれてきてしまっているものも見受けられます。
付根裏革というのはこの部分
丸い部分は芯材を革で巻きますので一枚ですが、付根部分も
そのままでは一枚になってしまいます。
ですので付根部分は裏革を付けて二重にし、負荷の掛かる部分の
補強の意味合いと、芯材がずれてこないよう蓋の役目を担っています。
持ち手のこの部分には負荷が一番掛かりますので、
鞄の大きさや形状によってはナイロンを挟み込んだりして
強度を持たせたりもします。
ちなみに使用している革の厚みが2.0mm以上ある製品などは
この部分の裏革を付けていない仕様もたくさんあります。
ただ裏革を付けていないと、芯材が寄ってきた際に
付根からちょろちょろとでてきてしまう事もあります。
今回は付根部分のステッチが入る部分までロープを入れ込み
裏革も施しているので強度や芯材の問題は生じません。
ご返却の際にはお客様から、
「また折れたりしませんか?」とお尋ねがありましたが、
「このロープは120kgまで耐えられるので、
千切れたり折れる前に鞄の底が抜けますよ」と店主。
持ち手の交換の際に少し問題になるのが内装部分。
製品の段階では外装に持ち手を縫い付けてから内装を取り付けているので
いいのですが、交換の際には内装がすでに付いているので
どうしましょう…。
持ち手の縫製箇所の内装部分にポケットやファスナーがなければ
そのまま内装側に縫い目がでるようにしたほうが費用は安く仕上ります。
製品でも内装側に縫い目がでているものもたくさんありますので
基本的にはそのまま縫い付けで良いかと思います。
ただファスナーがあったりするとその部分が縫い付けられてしまうので
分解したりする必要が生じる場合もあります。
今回は片面は何もなし
片側はファスナーがあります
なのでファスナー側はどうするかというと、ファスナーの内部のポケットを
一部分解して内装と外装の間にミシンを突っ込み縫製し、
内装部分に縫い目がでないように仕上げています。
もちろんポケットの分解したところは再度縫製して仕上げています。
今回のようなポケット内部を分解してできる程度であればいいのですが、
外観を縫製している部分を大掛かりに分解しないといけないとか、
縁取りしている部分を分解しなければならない場合などは、
分解費用だけでもそこそこ掛かってしまうので、補修方法は要相談になります。
AFTER
縫い目がでています。
縫い目が隠れています。
修理するとオリジナルよりは品質が悪くなっている?と思われそうですが
使用している革はオリジナルより質のいい革を使用していますし、
持ち手の仕様もより壊れ難い設定で制作しています。
ただ、すでに完成している状態から部分的にお治しするとなると
今回のように一部縫い目が新たにできてしまうなどはあります。
続いて併せてご依頼の補修箇所ですが
鞄の宿命、角擦れ補修になります。
鞄の縫製方法として内縫いと外縫いがあります。
内縫いというのは、縫製してひっくり返して縫い目が内側になっていて
外側にはでない縫製。
外縫いというのは外観に縫い目が見える縫製となります。
今回の鞄は外縫いですべての素材をまとめて縫製しています。
そしてその部分を革で縁取り縫製しています。
以前はこの方法って必ず今回のように擦り切れてしまうので
余り良い方法ではないな、と思っていました。
しかし考えようではとても良い仕様なんじゃないかと最近は思っております。
ヨーロッパでは縦列駐車する時には、前後に駐車している車に
こつこつとバンパーを当てて車を動かして自分の駐車スペースを
確保したりもします、わたしも旅行で訪れた際に目撃しました。
そもそもバンパーはいわゆる車の膝宛てのような
傷がついてもいい装備という考えらしいのです。
同じようにこの縁取りも鞄のバンパーといって
いいんじゃないかと思うのです。
地面の擦れから本体を守り、擦り切れたら交換すればいいのです。
この縁取りも今回のように部分交換もできますし、
最終的には全周を交換する事も可能ですので。
今回は底部分周辺をコの字で部分交換します。
まずは擦り切れている部分の縁取りを取り除きます。
で、新たに革で縁取りを行い縫製致します。
既製品の縁取りは0.5から0.8mmくらいの厚みが主流です。
交換の際には、0.8mmの場合ならば、少し厚みを増やして1.0mmくらいで
巻き直しています。
あまり厚くするとぼてっとなってしまい印象が悪くなってしまうので
少しだけ厚みを増やして耐久性を高めるようにしています。
既製品の場合は、バインダーなどのアタッチメントを使用する事で
ミシンで縫製しながら自動的に縁取りできるのですが、
修理の際にはそのようなアタッチメントを厚みや素材ごとに用意できませんし、
また鞄自体も使用により癖がついたりしていびつに変形しているので、
恐らくアタッチメントを使用しても、両面綺麗に針が落ちずに
縫製することは難しいのではないかと思います。
ですのでまずは革を巻き付けてから縫製し、余分な部分の革を
カットするという手間を掛けて綺麗に仕上るように工夫しています。
AFTER
ご覧のようにしっかりした底鋲が付いていてもやはり角は擦れてしまいがちです。
今回の鞄ですと荷物を入れた際には端の角の部分が垂れ重さで下がってしまい
擦れてしまっているというのも考えられます。
底鋲をあと15mmくらい外側へ取り付けると、端の部分は下がらずに
擦れ難くなるのではと考察できます。
繫ぎ目も新しく巻き付ける革の端を薄く漉いているので段差が目立たずに
違和感無く補修できているかと思います。
この補修も、逆に角の補強パーツのようにあえて革の段差を残して
補修する方法もあります。
それぞれ鞄のデザインや補修度合いによって調整して補修しています。
以上、「鞄のバンパー」篇でした。
ほかのメーカーでも樹脂製の芯材って使っているところはあるのでしょうが
持ち込まれる鞄はオロビアンコなんです。
持ち手の芯材はいくつか種類がありまして大きく分けて
ロープ、ガラ紡、、樹脂系のパイプなどがあります。
ガラ紡っていうのはフェルトみたいな柔らかい素材を
細長く裁断してそれを糸でぐるぐるとまとめたもと。
こんな感じのもの。
なのでこの芯材を使用すると感触がふにゃっとした感じに仕上ります。
(巻く革の厚みによって異なりますが)
紳士鞄の場合は、荷物も重たくなりますし柔らかい芯材では耐えられませんので
だいたいがロープや樹脂系の芯材が用いられています。
樹脂系の芯材と云うのは劣化してくると今回のように
割れてしまいますし、また鋭角に曲がるとパキッと割れてしまうと思います。
あとはエンド部分の処理が鋭角な加工で処理されていると
革を突き破ってしまうという壊れ方もありました。
ですので当店では間違いのないロープ素材を芯材に用いております。
ロープと云っても編み方や素材でまた色々とあります。
私のお気に入りのロープは金剛打ロープというもの。
これも同じ名称でもメーカーによって編み方や硬さが異なるので
毎回無くなった際には最寄りのホームセンターを何店舗かはしごして
お気に入りのロープを探しています。
AMAZONでも検索するとたくさんでてくるのですが、
画像では編み目や硬さが確認できないのですし、
20メートルとかの玉で購入するので、違っていると他に使い道がないので
無駄になってしまいます。
今回購入のロープはラベルを捨てずにとっておいたので、
次回からはアマゾンで購入できそうです。
手で持つ部分で折れてしまっています。
劣化により曲がった部分でぽきっと…。
持ち手が壊れる原因としては芯材の偏りもあります。
偏りとは、端から端まで左右均等に芯材が入っているはずなのですが、
使用するにつれて、どちらかに芯材がずれてきてしまう現象です。
パーカーの紐が片側にビヨーンという感じでしょうか。
片側に芯材がずれてきてしまうと、持ち手付根部分のもっとも
負荷の掛かる箇所に芯材が無く空洞になってしまうので
その部分で縒れて裂けてきてしまいます。
これは制作の際に端から端まで芯材を封入していないのが原因かと思います。
またはそもそも芯材の長さが足りていない仕様書になっているかと思います。
量産であれば必要な尺で芯材はまとめて裁断されているのでしょうから。
樹脂製の芯材の場合は、表面がつるつるしているので長さが足りていないと
内部でずるずるとずれ易いのかもしれません。
ロープですと表面の凹凸で摩擦が起こりずれていき難いような気がします。
Felisi の持ち手もロープが使われていますが、付根裏革が
付いていないので、ロープが時々ずれてきてしまっているものも見受けられます。
付根裏革というのはこの部分
丸い部分は芯材を革で巻きますので一枚ですが、付根部分も
そのままでは一枚になってしまいます。
ですので付根部分は裏革を付けて二重にし、負荷の掛かる部分の
補強の意味合いと、芯材がずれてこないよう蓋の役目を担っています。
持ち手のこの部分には負荷が一番掛かりますので、
鞄の大きさや形状によってはナイロンを挟み込んだりして
強度を持たせたりもします。
ちなみに使用している革の厚みが2.0mm以上ある製品などは
この部分の裏革を付けていない仕様もたくさんあります。
ただ裏革を付けていないと、芯材が寄ってきた際に
付根からちょろちょろとでてきてしまう事もあります。
今回は付根部分のステッチが入る部分までロープを入れ込み
裏革も施しているので強度や芯材の問題は生じません。
ご返却の際にはお客様から、
「また折れたりしませんか?」とお尋ねがありましたが、
「このロープは120kgまで耐えられるので、
千切れたり折れる前に鞄の底が抜けますよ」と店主。
持ち手の交換の際に少し問題になるのが内装部分。
製品の段階では外装に持ち手を縫い付けてから内装を取り付けているので
いいのですが、交換の際には内装がすでに付いているので
どうしましょう…。
持ち手の縫製箇所の内装部分にポケットやファスナーがなければ
そのまま内装側に縫い目がでるようにしたほうが費用は安く仕上ります。
製品でも内装側に縫い目がでているものもたくさんありますので
基本的にはそのまま縫い付けで良いかと思います。
ただファスナーがあったりするとその部分が縫い付けられてしまうので
分解したりする必要が生じる場合もあります。
今回は片面は何もなし
片側はファスナーがあります
なのでファスナー側はどうするかというと、ファスナーの内部のポケットを
一部分解して内装と外装の間にミシンを突っ込み縫製し、
内装部分に縫い目がでないように仕上げています。
もちろんポケットの分解したところは再度縫製して仕上げています。
今回のようなポケット内部を分解してできる程度であればいいのですが、
外観を縫製している部分を大掛かりに分解しないといけないとか、
縁取りしている部分を分解しなければならない場合などは、
分解費用だけでもそこそこ掛かってしまうので、補修方法は要相談になります。
AFTER
縫い目がでています。
縫い目が隠れています。
修理するとオリジナルよりは品質が悪くなっている?と思われそうですが
使用している革はオリジナルより質のいい革を使用していますし、
持ち手の仕様もより壊れ難い設定で制作しています。
ただ、すでに完成している状態から部分的にお治しするとなると
今回のように一部縫い目が新たにできてしまうなどはあります。
続いて併せてご依頼の補修箇所ですが
鞄の宿命、角擦れ補修になります。
鞄の縫製方法として内縫いと外縫いがあります。
内縫いというのは、縫製してひっくり返して縫い目が内側になっていて
外側にはでない縫製。
外縫いというのは外観に縫い目が見える縫製となります。
今回の鞄は外縫いですべての素材をまとめて縫製しています。
そしてその部分を革で縁取り縫製しています。
以前はこの方法って必ず今回のように擦り切れてしまうので
余り良い方法ではないな、と思っていました。
しかし考えようではとても良い仕様なんじゃないかと最近は思っております。
ヨーロッパでは縦列駐車する時には、前後に駐車している車に
こつこつとバンパーを当てて車を動かして自分の駐車スペースを
確保したりもします、わたしも旅行で訪れた際に目撃しました。
そもそもバンパーはいわゆる車の膝宛てのような
傷がついてもいい装備という考えらしいのです。
同じようにこの縁取りも鞄のバンパーといって
いいんじゃないかと思うのです。
地面の擦れから本体を守り、擦り切れたら交換すればいいのです。
この縁取りも今回のように部分交換もできますし、
最終的には全周を交換する事も可能ですので。
今回は底部分周辺をコの字で部分交換します。
まずは擦り切れている部分の縁取りを取り除きます。
で、新たに革で縁取りを行い縫製致します。
既製品の縁取りは0.5から0.8mmくらいの厚みが主流です。
交換の際には、0.8mmの場合ならば、少し厚みを増やして1.0mmくらいで
巻き直しています。
あまり厚くするとぼてっとなってしまい印象が悪くなってしまうので
少しだけ厚みを増やして耐久性を高めるようにしています。
既製品の場合は、バインダーなどのアタッチメントを使用する事で
ミシンで縫製しながら自動的に縁取りできるのですが、
修理の際にはそのようなアタッチメントを厚みや素材ごとに用意できませんし、
また鞄自体も使用により癖がついたりしていびつに変形しているので、
恐らくアタッチメントを使用しても、両面綺麗に針が落ちずに
縫製することは難しいのではないかと思います。
ですのでまずは革を巻き付けてから縫製し、余分な部分の革を
カットするという手間を掛けて綺麗に仕上るように工夫しています。
AFTER
ご覧のようにしっかりした底鋲が付いていてもやはり角は擦れてしまいがちです。
今回の鞄ですと荷物を入れた際には端の角の部分が垂れ重さで下がってしまい
擦れてしまっているというのも考えられます。
底鋲をあと15mmくらい外側へ取り付けると、端の部分は下がらずに
擦れ難くなるのではと考察できます。
繫ぎ目も新しく巻き付ける革の端を薄く漉いているので段差が目立たずに
違和感無く補修できているかと思います。
この補修も、逆に角の補強パーツのようにあえて革の段差を残して
補修する方法もあります。
それぞれ鞄のデザインや補修度合いによって調整して補修しています。
以上、「鞄のバンパー」篇でした。
ampersandand at 11:30|Permalink│
2018年03月19日
後悔したくないなら合皮製品は買わないこと。必ず劣化します篇
合皮素材は使っても使わなくても製造から2から3年で劣化が始まります。
保管していてもそうですし、使ってもそうなのでどんどん使い倒して下さい。
製造からというのは、その鞄ができてからという訳ではなく、
それに使用する合皮素材が製造されてからということになります。
合皮が作られてから半年経過し、その合皮を使って製造して
店頭に並ぶまでにさらに3ヶ月経過し、そのシーズンは売れ残って
年末にセールで販売されている場合の残りの賞味期限は…。
合皮の劣化については東京都クリーニング生活協同組合さんの
以下のページに詳しく掲載されていますのでお読み頂くと宜しいかと思います。
「ポリウレタン素材の弱点を知る」
「人工皮革と合成皮革」
合皮をクリーニングというのはかなりハイリスクですので
私がクリーニング店・店主だったら一律お断りするだろうなと思います。
合皮というのは簡単にいうと、ガーゼの上にサランラップが
くっ付いているような状態なので、水に濡れればサランラップが
浮かび上がってきてしまいます。
足から発汗される汗というなの水分でも浮かび上がらせてしまう
ということだろうと思います。
素足で履くような靴種の場合は、裏地に合皮が使われていると
余計に劣化が早いと思われますし、また内部が蒸れるブーツでも
よく劣化しているのを見かけます。
靴のことを云いながら、今回のご依頼品はこちらの鞄の内装交換となります。
ご多分に漏れず内装の合皮素材が劣化しています。
女性ものの製品って靴にしても鞄にしても合皮が多用されている
印象があります。
内装部分は劣化しすぎて表面のサランラップ部分は完全に剥離して
下地の状態なのですが、なんだかそれがもともとが
生地の内装だった?みたいにも見えてきます。
しかしポケットの内袋には劣化の様子が見てとれます。
今回交換する箇所は、内装が二層に分かれているのでその部分二箇所と
内装のファスナーポケットの袋と背面ファスナーポケットの袋になります。
まずは分解してゆきます。
合皮部分を交換するにはご覧のようにほとんど分解する必要があります。
一番手前の外装パーツのほか、今回は9パーツに分解されます。
分解したパーツをもとに型採りしてゆくのですが、
革のパーツはそこまで変形しないのですが、合皮部分はしわくちゃになって
硬化していたり、伸びていたりと役に立ちません。
組合わさる革パーツの横幅から推測したり、組み合わせた際の
収まりから判断して型紙を製作してゆきます。
内装生地は、ナイロン系ですと縫製部分から解れてきたりという症状が
既製品でしばしば見て取れるので、一番ベターなのは生地かと思います。
生地と云っても通常のものですと同様に裂け易いので
基本的にご希望がなければ、倉敷帆布の11号を使用し作成しています。
帆布だとカジュアルな感じになりそうですが、倉敷帆布ですと
目がしっかりと詰まっていて、適度な張りもあり耐久性も申し分なく
また合皮のような劣化の心配もないのでお勧めであります。
それぞれパーツができましたら組んでゆきます。
組み立てる際も、順番を間違うと縫えなくなる部分がありますし、
また途中まで縫っておいて、続きはこのパーツを組み合わせてから
という部分もありますので、分解する時に記録用にポイントポイントを
ipadで撮影しておきます。
内装交換の悲しいところは、手間が掛かる割には
あまりブログ映えしないという点でしょうか。
仕上った画像をみてもBEFORE/AFTERの変化が乏しいので。
AFTER
内装1
ポケットの上に付属していたロゴプレート金具は、直にかしめて固定して
ありましたので、外してしまうと再固定ができない為ついておりませんが、
ロゴタグのように縫製してあるもの、再度かしめて固定できるロゴなどは
移植は可能です。
内装2
内装ポケット
背面ポケット
ん〜やはり映えないですね…と思う今日この頃…。
保管していてもそうですし、使ってもそうなのでどんどん使い倒して下さい。
製造からというのは、その鞄ができてからという訳ではなく、
それに使用する合皮素材が製造されてからということになります。
合皮が作られてから半年経過し、その合皮を使って製造して
店頭に並ぶまでにさらに3ヶ月経過し、そのシーズンは売れ残って
年末にセールで販売されている場合の残りの賞味期限は…。
合皮の劣化については東京都クリーニング生活協同組合さんの
以下のページに詳しく掲載されていますのでお読み頂くと宜しいかと思います。
「ポリウレタン素材の弱点を知る」
「人工皮革と合成皮革」
合皮をクリーニングというのはかなりハイリスクですので
私がクリーニング店・店主だったら一律お断りするだろうなと思います。
合皮というのは簡単にいうと、ガーゼの上にサランラップが
くっ付いているような状態なので、水に濡れればサランラップが
浮かび上がってきてしまいます。
足から発汗される汗というなの水分でも浮かび上がらせてしまう
ということだろうと思います。
素足で履くような靴種の場合は、裏地に合皮が使われていると
余計に劣化が早いと思われますし、また内部が蒸れるブーツでも
よく劣化しているのを見かけます。
靴のことを云いながら、今回のご依頼品はこちらの鞄の内装交換となります。
ご多分に漏れず内装の合皮素材が劣化しています。
女性ものの製品って靴にしても鞄にしても合皮が多用されている
印象があります。
内装部分は劣化しすぎて表面のサランラップ部分は完全に剥離して
下地の状態なのですが、なんだかそれがもともとが
生地の内装だった?みたいにも見えてきます。
しかしポケットの内袋には劣化の様子が見てとれます。
今回交換する箇所は、内装が二層に分かれているのでその部分二箇所と
内装のファスナーポケットの袋と背面ファスナーポケットの袋になります。
まずは分解してゆきます。
合皮部分を交換するにはご覧のようにほとんど分解する必要があります。
一番手前の外装パーツのほか、今回は9パーツに分解されます。
分解したパーツをもとに型採りしてゆくのですが、
革のパーツはそこまで変形しないのですが、合皮部分はしわくちゃになって
硬化していたり、伸びていたりと役に立ちません。
組合わさる革パーツの横幅から推測したり、組み合わせた際の
収まりから判断して型紙を製作してゆきます。
内装生地は、ナイロン系ですと縫製部分から解れてきたりという症状が
既製品でしばしば見て取れるので、一番ベターなのは生地かと思います。
生地と云っても通常のものですと同様に裂け易いので
基本的にご希望がなければ、倉敷帆布の11号を使用し作成しています。
帆布だとカジュアルな感じになりそうですが、倉敷帆布ですと
目がしっかりと詰まっていて、適度な張りもあり耐久性も申し分なく
また合皮のような劣化の心配もないのでお勧めであります。
それぞれパーツができましたら組んでゆきます。
組み立てる際も、順番を間違うと縫えなくなる部分がありますし、
また途中まで縫っておいて、続きはこのパーツを組み合わせてから
という部分もありますので、分解する時に記録用にポイントポイントを
ipadで撮影しておきます。
内装交換の悲しいところは、手間が掛かる割には
あまりブログ映えしないという点でしょうか。
仕上った画像をみてもBEFORE/AFTERの変化が乏しいので。
AFTER
内装1
ポケットの上に付属していたロゴプレート金具は、直にかしめて固定して
ありましたので、外してしまうと再固定ができない為ついておりませんが、
ロゴタグのように縫製してあるもの、再度かしめて固定できるロゴなどは
移植は可能です。
内装2
内装ポケット
背面ポケット
ん〜やはり映えないですね…と思う今日この頃…。
ampersandand at 12:44|Permalink│
2018年01月16日
赤は嫌い。 余儀なくされる持ち手の色変更篇
プレゼントした鞄ですが、赤は嫌っ。ということで
赤い革のパーツを茶色に変更をご希望。
BEFORE
変更はできるのですが、補修費用ももったいないですし
新品ですので、これはこれで使われてみてはとご案内しましたが
構わないという事で製作となりました。
ただ、持ち手の取付け方法が縫い割りという仕様で
交換後、同じように縫製するには本体部分を広範囲に一度分解しないと
できないですし、ナイロン素材ですと分解すると縫い目が解れてきます。
使えるようになれば大丈夫という事で、外縫いになる事でご了解頂きました。
赤い引手や根革も交換しないとです。
プレゼントというのは何を貰うかというよりは、
贈ってくれた人が、あれやこれやと自分の為に考えてくれて、
作ってくれたり探してくれたり、そういう自分の事を思ってくれた時間を
贈られるもの、とはいいますが…
しかし、そんなことはいってられません。
モノより思い出、いや、現代は思い出よりモノでありますっ。
AFTER
そんな間違いを犯せない婚約結婚指輪を贈る方法として、
最近は、まずダミーの指輪を渡し、相手にOKをもらってから
女性が気に入ったデザインの指輪を作るというサービスもあるようです。
プロポーズはOKだけど、この指輪は嫌っ、なんて困っちゃいますしね。
赤い革のパーツを茶色に変更をご希望。
BEFORE
変更はできるのですが、補修費用ももったいないですし
新品ですので、これはこれで使われてみてはとご案内しましたが
構わないという事で製作となりました。
ただ、持ち手の取付け方法が縫い割りという仕様で
交換後、同じように縫製するには本体部分を広範囲に一度分解しないと
できないですし、ナイロン素材ですと分解すると縫い目が解れてきます。
使えるようになれば大丈夫という事で、外縫いになる事でご了解頂きました。
赤い引手や根革も交換しないとです。
プレゼントというのは何を貰うかというよりは、
贈ってくれた人が、あれやこれやと自分の為に考えてくれて、
作ってくれたり探してくれたり、そういう自分の事を思ってくれた時間を
贈られるもの、とはいいますが…
しかし、そんなことはいってられません。
モノより思い出、いや、現代は思い出よりモノでありますっ。
AFTER
そんな間違いを犯せない婚約結婚指輪を贈る方法として、
最近は、まずダミーの指輪を渡し、相手にOKをもらってから
女性が気に入ったデザインの指輪を作るというサービスもあるようです。
プロポーズはOKだけど、この指輪は嫌っ、なんて困っちゃいますしね。
ampersandand at 11:30|Permalink│
2017年10月23日
だいたい折れるのはオロビアンコ 持ち手交換とフチの擦れ篇
持ち手が折れるというのは、オロビアンコ以外あまり
依頼されることはないのですが、それにはやはり理由があります。
BEFORE
持ち手中央部分で中の芯材が折れてしまっております。
その影響により、芯材が片側へと移動してしまい、
付け根部分では芯材が不足しフニャフニャ状態…。
オロビアンコの芯材がすべてこの素材と云う訳ではないのですが、
分解してみますとやはりこの樹脂系のパイプの芯材が入っておりました。
樹脂素材ですので、例えば鋭角に曲げられたりしますと
パキッといってしまうことがあるかと思います。
また経年劣化により、ポキッといくこともしばしばあるかと思います。
芯材の付け根部分は、本体に添うように断面は
斜めにカットされているのですが、断面が鋭角にカットされたままの
芯材の場合、徐々にその角が革に刺さって突き破るという事例もありました。
今回の芯材が、角が落としてありましたので
その点は改善されてきているようです。
持ち手交換の際の、縫製取付けですが、
直に鞄本体に縫製する方法の方が費用は抑えられます。
直というのは、付け根部分を縫製する際に、
外装と内装を一緒に縫ってしまうので内装部分にも
縫い目できるということです。
ただ直接縫い付ける場合でも、付け根部分の縫製する位置の内装部分に
ポケットやファスナーがある場合ですと、その部分が一緒に縫われてしまい
使用できなくなってしまいます。
その場合は、内装を一部分解し間で縫製する方法となります。
製品の場合、付け根部分の縫い目というのは、まず外装のみに縫い付けられ、
その後、内装が本体にセットされてからトップラインなどで縫製されます。
内装とは別に付け根部分を縫製するには、
内装の一部を分解するか、またはトップラインを分解し、
外装と内装の間にミシンを指し込んで縫製する方法になります。
ですので、分解縫製する手間が増えますので、
その分費用が割増しになります。
それでは、まずは持ち手を製作します。
芯材には、堅く編まれたロープを用います。
ちなみに、樹脂系の芯材を用いれば、芯材のみの交換も
可能な場合はありますが、結局は同様に劣化し折れてしまいますので、
当店では樹脂系の芯材を用いた補修は現在行っておりません。
持ち手の修理経験から、今回のようなカチカチの
丸芯の持ち手の場合には、ロープが最適かと思います。
樹脂系の芯材同様に堅い仕上げにもできますし、
劣化による割れの心配もなく、屈曲にも柔軟に対応できます。
なお、柔らかい感触のにしたい場合はフェルト芯など、
仕上げたい感触により芯材はそれぞれ異なります。
持ち手が堅いので、柔らかなフェルト芯へ変更(作り替え)
されたいという事案も稀にあります。
ロープを巻き込むので、今回はあまり関係ありませんが
革も縦横と伸び易い方向がありますので、なるべく繊維が伸び難い方向で、
型入れするようにしております。
付け根部分は革を二重にし補強します。
この部分が本体と持ち手の境目の部分ですので
加重が一番加わりますので補強は重要となります。
また、芯材が左右に移動しないようにポケットの役割にもなっています。
革が二重の部分は革の段差が表面にでないように
なだらかに漉き加工を施します。
コバ部分も綺麗に削り上げ、表面を堅く絞めます。
その後、染料を入れて持ち手を仕上げます。
そうしまして次に本体に縫い付けてゆきます。
先程お伝えしましたように、内装部分とは別に縫製しますので
今回はファスナーポケットの中の内装を一部分解しまして
ミシンを差し込み縫製してゆきます。
(分解したところは付け根縫製後に再度縫製致します)
ファスナーポケットのサイド部分を分解し、そこからミシンの腕を
差し込んで縫製する訳ですが、関係ない内装生地を一緒に巻き込んで
縫製してしまわぬように、手探りで寄せておきまして、
外装と持ち手を縫製してゆきます。
外装にも、ポケットが被さっていますので、その部分も持ち上げ縫ってゆきます。
黄色の部分はマスキングテープになります。
このテープで持ち手を固定している訳ではなく、付け根部分が
本体に垂直に固定されているのかを確認する為の目印になります。
かなり無茶な体制で縫製してゆきますので、接着にて仮固定していても
縫製している間に、徐々に付け根が傾いてしまう可能性もありますので
念の為、ズレてしまったら分かるように、
ガイドライン的な感じで貼ってあります。
こんな感じで、外装の裏面に貼ってある芯材の部分に縫製されています。
といっても、ミシンを差し込んで…というくだりは、
なかなか文章では伝わらないかと思います。
例えて云うならば、内視鏡手術みたいな感じです。
本来の手術部分とは離れた部分に切り込みを小さく入れて、
なるべく傷口は小さく的な雰囲気です。
ちなみに、もう片側面には内装面に縫い目ができております。
今回の鞄は、内装の側面底部分が、外装部分と一緒に縫製されていた関係で
片面部分の付け根付近には、内装の間からミシンが
届かない状態となっておりました。
幸い、その片面にはなにも収納機能などはありませんでしたので
直に縫い付けても問題はありませんでした。
ルイヴィトンのモノグラムなどでは、
内装部分に縫い目が出来ているかと思います。
これは外装の生地と内装の生地が貼り合わさっているので、
間で縫製することができないので、直に縫製されている為になります。
AFTER
オリジナルの革より、質の良いものを使用しておりますので、
付け根部分の膨らみ形状が綺麗に表現できました。
丸みもぱつぱつでいい感じです。
今回はここで終了ではなく、続いてフチの擦り切れ補修になります。
外縫いのパイピングは宿命的にこのように擦り切れてしまいます。
ただ最近思ったのですが、この仕様ですと交換や補修にて
元通りに修理が出来るので、そう考えますと悪くない仕様なのかもしれません。
BEOFRE
前回のCOACHのようにフチ部分を交換すれば新品と
同じ状態に戻る訳ですし、今回のように補強でも見た目の影響は無く
補修は可能です。
これが、内縫いの仕様ですと擦り切れた場合には、
デザインを変更し、角にレザーパーツを宛てがったりしませんと
補修が出来ない訳です。
ですので、この縁取り仕様も悪くはないのではないかと思うのであります。
底角の擦れもありますが、このようなブリーフ鞄ですと、
上部のフチも痛み易かったりします。
というのは、本体にはポケットなどが付いていますので、
その部分の素材もフチ巻きで一緒に覆っております。
ですので、何重にも素材が重なっている部分というのは
フチが堅くなり曲がりません。
それにより、堅くなっている部分が支点になり、曲がり易くなります。
そうしますと、支点部分は尖りますのでぶつかり易く、
擦れ易くなり、フチ巻きも痛み易くなっております。
ですので当初、底角部分と上部の折れ部分と云う感じで
離ればなれでフチ巻きを補修補強する予定でしたが、
画像/赤括弧底部分 画像/赤括弧屈曲部分
(*画像は補修後のものになります)
観察していくうちに、痛んでいる部分が意外に広く点在している状態が判明し、
離ればなれで補強を行うと綺麗じゃない…ということで
結局は、上部の黄色から黄色矢印までをまつめてフチ巻きすれば
繫ぎ目は目立たないだろうということで、
側面ぐるっとをまとめて補強することに。
フチ巻きをあたらに巻き付けてミシンでカタカタカタ…。
と云う感じで完成です。
繋いでいるのは先程の黄色矢印部分になります。
繫ぎ目は段差なく漉いていますので、
連結部分はあまり分からないかと思います。
AFTER
フチ補強することで、使い込まれてややへたり気味の鞄に
しゃきっと感がでまして、怪我の功名といった感じでしょうか。
依頼されることはないのですが、それにはやはり理由があります。
BEFORE
持ち手中央部分で中の芯材が折れてしまっております。
その影響により、芯材が片側へと移動してしまい、
付け根部分では芯材が不足しフニャフニャ状態…。
オロビアンコの芯材がすべてこの素材と云う訳ではないのですが、
分解してみますとやはりこの樹脂系のパイプの芯材が入っておりました。
樹脂素材ですので、例えば鋭角に曲げられたりしますと
パキッといってしまうことがあるかと思います。
また経年劣化により、ポキッといくこともしばしばあるかと思います。
芯材の付け根部分は、本体に添うように断面は
斜めにカットされているのですが、断面が鋭角にカットされたままの
芯材の場合、徐々にその角が革に刺さって突き破るという事例もありました。
今回の芯材が、角が落としてありましたので
その点は改善されてきているようです。
持ち手交換の際の、縫製取付けですが、
直に鞄本体に縫製する方法の方が費用は抑えられます。
直というのは、付け根部分を縫製する際に、
外装と内装を一緒に縫ってしまうので内装部分にも
縫い目できるということです。
ただ直接縫い付ける場合でも、付け根部分の縫製する位置の内装部分に
ポケットやファスナーがある場合ですと、その部分が一緒に縫われてしまい
使用できなくなってしまいます。
その場合は、内装を一部分解し間で縫製する方法となります。
製品の場合、付け根部分の縫い目というのは、まず外装のみに縫い付けられ、
その後、内装が本体にセットされてからトップラインなどで縫製されます。
内装とは別に付け根部分を縫製するには、
内装の一部を分解するか、またはトップラインを分解し、
外装と内装の間にミシンを指し込んで縫製する方法になります。
ですので、分解縫製する手間が増えますので、
その分費用が割増しになります。
それでは、まずは持ち手を製作します。
芯材には、堅く編まれたロープを用います。
ちなみに、樹脂系の芯材を用いれば、芯材のみの交換も
可能な場合はありますが、結局は同様に劣化し折れてしまいますので、
当店では樹脂系の芯材を用いた補修は現在行っておりません。
持ち手の修理経験から、今回のようなカチカチの
丸芯の持ち手の場合には、ロープが最適かと思います。
樹脂系の芯材同様に堅い仕上げにもできますし、
劣化による割れの心配もなく、屈曲にも柔軟に対応できます。
なお、柔らかい感触のにしたい場合はフェルト芯など、
仕上げたい感触により芯材はそれぞれ異なります。
持ち手が堅いので、柔らかなフェルト芯へ変更(作り替え)
されたいという事案も稀にあります。
ロープを巻き込むので、今回はあまり関係ありませんが
革も縦横と伸び易い方向がありますので、なるべく繊維が伸び難い方向で、
型入れするようにしております。
付け根部分は革を二重にし補強します。
この部分が本体と持ち手の境目の部分ですので
加重が一番加わりますので補強は重要となります。
また、芯材が左右に移動しないようにポケットの役割にもなっています。
革が二重の部分は革の段差が表面にでないように
なだらかに漉き加工を施します。
コバ部分も綺麗に削り上げ、表面を堅く絞めます。
その後、染料を入れて持ち手を仕上げます。
そうしまして次に本体に縫い付けてゆきます。
先程お伝えしましたように、内装部分とは別に縫製しますので
今回はファスナーポケットの中の内装を一部分解しまして
ミシンを差し込み縫製してゆきます。
(分解したところは付け根縫製後に再度縫製致します)
ファスナーポケットのサイド部分を分解し、そこからミシンの腕を
差し込んで縫製する訳ですが、関係ない内装生地を一緒に巻き込んで
縫製してしまわぬように、手探りで寄せておきまして、
外装と持ち手を縫製してゆきます。
外装にも、ポケットが被さっていますので、その部分も持ち上げ縫ってゆきます。
黄色の部分はマスキングテープになります。
このテープで持ち手を固定している訳ではなく、付け根部分が
本体に垂直に固定されているのかを確認する為の目印になります。
かなり無茶な体制で縫製してゆきますので、接着にて仮固定していても
縫製している間に、徐々に付け根が傾いてしまう可能性もありますので
念の為、ズレてしまったら分かるように、
ガイドライン的な感じで貼ってあります。
こんな感じで、外装の裏面に貼ってある芯材の部分に縫製されています。
といっても、ミシンを差し込んで…というくだりは、
なかなか文章では伝わらないかと思います。
例えて云うならば、内視鏡手術みたいな感じです。
本来の手術部分とは離れた部分に切り込みを小さく入れて、
なるべく傷口は小さく的な雰囲気です。
ちなみに、もう片側面には内装面に縫い目ができております。
今回の鞄は、内装の側面底部分が、外装部分と一緒に縫製されていた関係で
片面部分の付け根付近には、内装の間からミシンが
届かない状態となっておりました。
幸い、その片面にはなにも収納機能などはありませんでしたので
直に縫い付けても問題はありませんでした。
ルイヴィトンのモノグラムなどでは、
内装部分に縫い目が出来ているかと思います。
これは外装の生地と内装の生地が貼り合わさっているので、
間で縫製することができないので、直に縫製されている為になります。
AFTER
オリジナルの革より、質の良いものを使用しておりますので、
付け根部分の膨らみ形状が綺麗に表現できました。
丸みもぱつぱつでいい感じです。
今回はここで終了ではなく、続いてフチの擦り切れ補修になります。
外縫いのパイピングは宿命的にこのように擦り切れてしまいます。
ただ最近思ったのですが、この仕様ですと交換や補修にて
元通りに修理が出来るので、そう考えますと悪くない仕様なのかもしれません。
BEOFRE
前回のCOACHのようにフチ部分を交換すれば新品と
同じ状態に戻る訳ですし、今回のように補強でも見た目の影響は無く
補修は可能です。
これが、内縫いの仕様ですと擦り切れた場合には、
デザインを変更し、角にレザーパーツを宛てがったりしませんと
補修が出来ない訳です。
ですので、この縁取り仕様も悪くはないのではないかと思うのであります。
底角の擦れもありますが、このようなブリーフ鞄ですと、
上部のフチも痛み易かったりします。
というのは、本体にはポケットなどが付いていますので、
その部分の素材もフチ巻きで一緒に覆っております。
ですので、何重にも素材が重なっている部分というのは
フチが堅くなり曲がりません。
それにより、堅くなっている部分が支点になり、曲がり易くなります。
そうしますと、支点部分は尖りますのでぶつかり易く、
擦れ易くなり、フチ巻きも痛み易くなっております。
ですので当初、底角部分と上部の折れ部分と云う感じで
離ればなれでフチ巻きを補修補強する予定でしたが、
画像/赤括弧底部分 画像/赤括弧屈曲部分
(*画像は補修後のものになります)
観察していくうちに、痛んでいる部分が意外に広く点在している状態が判明し、
離ればなれで補強を行うと綺麗じゃない…ということで
結局は、上部の黄色から黄色矢印までをまつめてフチ巻きすれば
繫ぎ目は目立たないだろうということで、
側面ぐるっとをまとめて補強することに。
フチ巻きをあたらに巻き付けてミシンでカタカタカタ…。
と云う感じで完成です。
繋いでいるのは先程の黄色矢印部分になります。
繫ぎ目は段差なく漉いていますので、
連結部分はあまり分からないかと思います。
AFTER
フチ補強することで、使い込まれてややへたり気味の鞄に
しゃきっと感がでまして、怪我の功名といった感じでしょうか。
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2017年10月20日
昔のCOACHが好きなんです。 擦り切れと補色篇
先日「コーチ」が、社名を「タペストリー」に変更するというニュースが
ありましたが、ブランドも生存競争が大変なようです。
「COACH」という名前は残りますが。
今回のご依頼品はそんなコーチの鞄になります。
母親の鞄だったものを、娘さんが新たに使い始めるにあたって
綺麗にしたいとのこと。
BEFORE
ご覧のように、今のコーチとは違いレザーレザーしております。
80年代に製造されていたグローブレザーの鞄になります。
内装の生地もなく、革のみで製作されています。
COACHは、もともとこのような肉厚のグローブレザーを
用いた、革製品の製造から始まったブランドのようです。
創設者のマイルス・カーン、リリアン・カーン夫妻は、
野球のグローブが、使えば使い込むほど味が出て、
かつ丈夫なので、そんなグローブを参考にして
革製品を作り始めたらしいのです。
*ただし、ブランド名のCOACHは、野球などのコーチとは関係が無いとのこと。
いまでは、モノグラム生地を使った鞄などをよく見かけますが
80年代の、このグローブレザーを用いていた頃の
COACHの鞄がお好きな方が、ご依頼にしばしばご来店されます。
そして皆さん口を揃えて
「今のCOACHは、好きではないのです」と。
確かにこの当時と、今のCOACHとではテイストが異なっておりますし。
そんな昔のコーチがお好きな方々の鞄は、
革の乾燥、色褪せやフチの擦り切れ補修が定番となっております。
製造から3、40年近く経過しておりますので、その間
一切お手入れを行っていなければ、しょうがない感は否めませんが。
使用されているグローブレザーは、今時の婦人鞄に使われているような
表面を厚く顔料で塗装されている革と違い、染料で軽く自然な感じで
仕上げられているので、お手入れしないでおりますと、
色褪せ乾燥は生じ易いかと思います。
その分、ナチュラルな「革らしさ」に富んでいる訳ですが。
「野球のグローブが、使えば使い込むほど味が出て、かつ丈夫なので…」
と、カーン夫妻のブランド創設話がありますが、
これはお手入れしてのことですので、何もお手入れしなければ…。
ご依頼品もご多分に漏れず表面はカサカサで色褪せています。
そして、外縫いの鞄には宿命的な症状になりますが、
フチが擦り切れております。
擦り切れも、結局はお手入れ不足に起因するところも大きいです。
人の皮膚も、冬の乾燥時期にはカサカサと乾燥しますと
粉が吹いてあかぎれしてしまうと思います。
乳液や保湿剤にて皮膚に潤いを与えることで
擦れてもカサカサし難くなります。
革も皮膚と同じく乾燥しますと同様です。
ただ皮膚のように新陳代謝がないので、痛み初めてから
お手入れを行っても完全には元通りになることは難しくなります。
ですので、「痛んでから」というよりは日々のお手入れが重要となります。
ちなみに、レザーの場合は、「皮」ではなく「革」の表記かと思います。
雑誌などでも、レザーに関して書かれている文章で
しばしば、「皮」の文字が何度も使われていたりしますと、
「校閲さ〜ん、どうした〜」と思ってみたりしています。
そんな記事を読んでおりますと、私の頭の中では
皮膚で出来た、鞄や靴が無意識に想像されてしまいますので…。
内側の革部分は、やや乾燥しておりましたが
昔のままに近い色合いででキープされていました。
染料仕上げの革は、紫外線により色褪せが生じ易いので
内側部分はそれを免れていた感じです。
この部分を参考に補色は行いたいと思います。
擦り切れているフチ部分は巻き直すしかありません。
今回の場合は、全体的に擦り切れている箇所がいくつか
点在しておりますので、全周交換となります。
巻き直す際には、耐久性を考えてオリジナルより
気持ち厚めの革で巻き直すことにします。
「赤」といっても、カーディナル、ワインレッド、スカーレット、
マゼンタなどなどと、いろんな赤色がありますので
色合わせが難しい色のひとつです。
今回は、ちょうど同じ色味の赤色の革の在庫がありましたので
そのまま使用できそうです。
まずはフチ巻きから補修してゆきます。
長年の使用により、鞄のフチはイレギュラーに変形していて、
均等にフチを巻き付けていくのには梃子摺ります。
製品の段階では、このように手作業で巻いているにではなく
ダダダダっと縫製と同時に自動で巻き付けながらできるのですが
補修の場合は、アナログでちまちまとひと辺ずつ巻いてゆきます。
巻き付けながら縫製するアタッチメントを
以前注文しようと思い、治具メーカーに問い合わせたのですが、
巻き付ける素材や厚み、縁取りの幅によって、
ひとつひとつオーダー製作となるとのこと。
修理では依頼品によって、その都度設定が異なりますので、
オーダーなんてしてられないということで
地道に手作業となっています。
縫製、補色を行い保湿ケアも幾度か繰り返しまして
完成となります。
AFTER
製造からおよそ30年ぐらい経過しておりますが、
表面の痛みはありましたが、補色と保湿も行い
これからも十分活躍できる状態となりました。
母親が使い、その後、娘に受け継がれてまた数十年…。
30年後に私がまだ生きておりましたら、
ふたたび、フチ巻き交換で孫の方にご依頼を受ける日も
くるのでしょうか…。
その時は、すでに隠居しているかと思いますが、
ご依頼とあらばお受け致します。
ただ、恐らくその頃には手は震えているでしょうし、
目がかすんで、針に糸が通せるかも怪しいかなと思います
今日この頃…。
ありましたが、ブランドも生存競争が大変なようです。
「COACH」という名前は残りますが。
今回のご依頼品はそんなコーチの鞄になります。
母親の鞄だったものを、娘さんが新たに使い始めるにあたって
綺麗にしたいとのこと。
BEFORE
ご覧のように、今のコーチとは違いレザーレザーしております。
80年代に製造されていたグローブレザーの鞄になります。
内装の生地もなく、革のみで製作されています。
COACHは、もともとこのような肉厚のグローブレザーを
用いた、革製品の製造から始まったブランドのようです。
創設者のマイルス・カーン、リリアン・カーン夫妻は、
野球のグローブが、使えば使い込むほど味が出て、
かつ丈夫なので、そんなグローブを参考にして
革製品を作り始めたらしいのです。
*ただし、ブランド名のCOACHは、野球などのコーチとは関係が無いとのこと。
いまでは、モノグラム生地を使った鞄などをよく見かけますが
80年代の、このグローブレザーを用いていた頃の
COACHの鞄がお好きな方が、ご依頼にしばしばご来店されます。
そして皆さん口を揃えて
「今のCOACHは、好きではないのです」と。
確かにこの当時と、今のCOACHとではテイストが異なっておりますし。
そんな昔のコーチがお好きな方々の鞄は、
革の乾燥、色褪せやフチの擦り切れ補修が定番となっております。
製造から3、40年近く経過しておりますので、その間
一切お手入れを行っていなければ、しょうがない感は否めませんが。
使用されているグローブレザーは、今時の婦人鞄に使われているような
表面を厚く顔料で塗装されている革と違い、染料で軽く自然な感じで
仕上げられているので、お手入れしないでおりますと、
色褪せ乾燥は生じ易いかと思います。
その分、ナチュラルな「革らしさ」に富んでいる訳ですが。
「野球のグローブが、使えば使い込むほど味が出て、かつ丈夫なので…」
と、カーン夫妻のブランド創設話がありますが、
これはお手入れしてのことですので、何もお手入れしなければ…。
ご依頼品もご多分に漏れず表面はカサカサで色褪せています。
そして、外縫いの鞄には宿命的な症状になりますが、
フチが擦り切れております。
擦り切れも、結局はお手入れ不足に起因するところも大きいです。
人の皮膚も、冬の乾燥時期にはカサカサと乾燥しますと
粉が吹いてあかぎれしてしまうと思います。
乳液や保湿剤にて皮膚に潤いを与えることで
擦れてもカサカサし難くなります。
革も皮膚と同じく乾燥しますと同様です。
ただ皮膚のように新陳代謝がないので、痛み初めてから
お手入れを行っても完全には元通りになることは難しくなります。
ですので、「痛んでから」というよりは日々のお手入れが重要となります。
ちなみに、レザーの場合は、「皮」ではなく「革」の表記かと思います。
雑誌などでも、レザーに関して書かれている文章で
しばしば、「皮」の文字が何度も使われていたりしますと、
「校閲さ〜ん、どうした〜」と思ってみたりしています。
そんな記事を読んでおりますと、私の頭の中では
皮膚で出来た、鞄や靴が無意識に想像されてしまいますので…。
内側の革部分は、やや乾燥しておりましたが
昔のままに近い色合いででキープされていました。
染料仕上げの革は、紫外線により色褪せが生じ易いので
内側部分はそれを免れていた感じです。
この部分を参考に補色は行いたいと思います。
擦り切れているフチ部分は巻き直すしかありません。
今回の場合は、全体的に擦り切れている箇所がいくつか
点在しておりますので、全周交換となります。
巻き直す際には、耐久性を考えてオリジナルより
気持ち厚めの革で巻き直すことにします。
「赤」といっても、カーディナル、ワインレッド、スカーレット、
マゼンタなどなどと、いろんな赤色がありますので
色合わせが難しい色のひとつです。
今回は、ちょうど同じ色味の赤色の革の在庫がありましたので
そのまま使用できそうです。
まずはフチ巻きから補修してゆきます。
長年の使用により、鞄のフチはイレギュラーに変形していて、
均等にフチを巻き付けていくのには梃子摺ります。
製品の段階では、このように手作業で巻いているにではなく
ダダダダっと縫製と同時に自動で巻き付けながらできるのですが
補修の場合は、アナログでちまちまとひと辺ずつ巻いてゆきます。
巻き付けながら縫製するアタッチメントを
以前注文しようと思い、治具メーカーに問い合わせたのですが、
巻き付ける素材や厚み、縁取りの幅によって、
ひとつひとつオーダー製作となるとのこと。
修理では依頼品によって、その都度設定が異なりますので、
オーダーなんてしてられないということで
地道に手作業となっています。
縫製、補色を行い保湿ケアも幾度か繰り返しまして
完成となります。
AFTER
製造からおよそ30年ぐらい経過しておりますが、
表面の痛みはありましたが、補色と保湿も行い
これからも十分活躍できる状態となりました。
母親が使い、その後、娘に受け継がれてまた数十年…。
30年後に私がまだ生きておりましたら、
ふたたび、フチ巻き交換で孫の方にご依頼を受ける日も
くるのでしょうか…。
その時は、すでに隠居しているかと思いますが、
ご依頼とあらばお受け致します。
ただ、恐らくその頃には手は震えているでしょうし、
目がかすんで、針に糸が通せるかも怪しいかなと思います
今日この頃…。
ampersandand at 22:12|Permalink│
2017年10月13日
バーバリーのブリーフ 持ち手革交換 ネジが回らないと篇
ネジが回らないと始まらない…。
この持ち手は、鞄に固定されている金具にネジを通す事で固定されています。
ですので、ネジが回らないと持ち手が外せないのです。
持ち手の革は、すでに劣化し擦り切れております。
使い込まれた年月が偲ばれますね…。
日頃使用している精密ドライバーでは、回せないほど
マイナスネジが固着してしまっております…。
こういう時は、556を塗布しまして再チャレンジ。
しかし回る気配がない…。
そもそも精密ドライバーは、フルパワーで回して
使う道具ではないので、持ち手が細く力が入りづらいのです。
下手に回して螺子山がなめてしまうと一番まずいので
556を再度塗布し、一晩放置しておく事に。
それでも今日の手応えのなさ加減、
力の込め易いグリップが大きな精密ドライバーの購入が
必要な感じなので、仕事帰りにホームセンターへ。
ある事はあったのですが(手前の)、精密ドライバーですので
それでも細めです(通常の精密な使用には全く問題ないのですが)。
本日一回目の挑戦では回らなかったのですが、
再度556を塗布し再々チャレンジにてようやく外れてくれました。
これ、はずれないと修理不可になってしまいますので。
そうしましたら、とりあえず巻いてある革を外してゆきます。
劣化しすぎて芯金に固着してしまっておりなかなか外れません。
熱風機で温め、接着剤を溶かし気味で漸くぺりぺりと。
芯金が錆びているように見えるのは、これは革が固着し
付いているのでそのように見えています。
これも温めて取り除き、表面を溶剤にて清掃します。
昔のものや、伝統的な作り方のこのタイプの持ち手は、
芯材も革で作られております。
革を数枚積層し、この形に削りだす方法です。
しかし、今はこのようにプレスにて綺麗に左右対称に
成形された軽量な芯金があります。
持ち手部分の革は、今回のように長年使用していれば
かならず交換時期がやって参ります。
その際に、革の芯材で製作している場合ですと、巻き付けた革が
綺麗に剥がれない、また恐らく形状も変形してしまっているかと思われます。
ですので、金属の芯金を用いた方が、修繕の観点からは良いのかもしれません。
ただ、金属の芯金に再度巻き付ける場合にも問題があります。
この芯金は革を巻いてから二つ折りにして縫製しているのですが、
再度巻き付ける際には、完全フラットな状態に開いてしまうと
折り曲げている中心部分の金属が、金属疲労で痛んでしまう可能性があります。
また、広げるにしても完全に均等な力で左右を開いていきませんと
ねじれが生じて再び二つ折りにした際にズレてしまいます。
ですので、今回もご覧の通り35度くらいで少しだけ開いて
作業を行っております。
それでは次に巻き付ける革の型紙づくりです。
かかと修理のように、古いのを剥がして新しいのを取付けて
削って仕上げるという訳にはいきません。
かならず型紙が必要になります。
それも、一品毎に形状や使用する革の厚みも異なりますので
毎回ごとに型紙、試作、本番という手順を踏む事になります。
ですので、型紙が必要になるような修繕というのは、
おのずと補修作業に時間が掛かりますので、費用もそれなりに掛かります。
革がきれいに剥がれてくれれば、それを元に型紙が採れるので
一度で型紙が仕上る場合もありますが、今回はすでに擦り切れておりましたし
剥がす際に熱風を当てていますので一部硬化したり、
引き伸びたりしていて宛てになりませんが、とりあえず試作して
被せてみます。
ちなみに、革も試作用の革になります。
この革も悪い革ではないのですが。
やはり誤差が生じております。
なお、オリジナルの仕様では間に挟む芯材にフェルト芯が
使用されておりましたが、あまり効果的でない芯材ですので
硬質の芯材に変更しています。
試作二回目。
これでいい感じの収まりになったかと思います。
鞄本体の金具にも収まるか確認しておきます。
いざセットしてみると嵌らない!なんて事だと最悪ですので。
では本番です。
革はこちらの革を使用します。
鞄本体の革は網目状の型押しレザーでしたが、
型押しの革の場合、通常のシボ革のような型押しあれば
近いものがある場合もありますが、
オリジナルの型押しになりますとご用意ができません。
ただ、鞄の雰囲気的にスムースレザーでも
相性は良さそうでしたので、革の選択はお任せということで
進めさせて頂きました。
ここで失敗…。
なにが失敗かお分かりでしょうか。
そうなのです、二つ分用意していますね。
いつもの癖で両手分です、この持ち手は一つでいいのですー。
すでに二回試作していますので、久しぶりのこのタイプでも
手慣れた模様です。
この形状はミシンでは縫えないので手縫いとなります。
オリジナルはミシンで縫製しています。
家庭用のミシンでも、例えばボタンホール用の抑えだったり、
ファスナー縫い用の抑えだったりと、いくつか標準で
搭載しているかと思います。
工業ミシンの抑えというのは、ものすごい種類があります。
「えーこれもミシンで縫えるんかぃ〜」みたいな抑えや。
また、オーダーで注文もできたりします。
しかし、私が修理で使用する抑えは、ベーシックな一種類のみとなっています。
量産品の場合は、大量に製作するので効率的に仕事を進める為に
抑えをその製品に合わせてその都度用意しています。
修理の場合は、ご依頼一品ごとにそれ用の抑えを用意はできませんので、
特別な抑えがなくても縫製できるように、型紙や手順を工夫して製作しています。
それでも縫製できない場合は、今回のように手縫いで行う事になります。
四本撚りの麻糸に蠟引きを行い必要な長さを用意します。
そして、ひと穴ずつ菱目で穴を貫通させながら、
麻糸を八の字(サドルステッチ)に通し、ひと目、ひと目と
均等な力で糸を引き締めてゆきます。
手縫いというのは時間が掛かりますが、嫌いじゃない作業です。
糸を均等に引き締める事だけ考え、黙々と、ただ黙々と…。
黙々と縫い終わりましたら、しばしの間、縫目を鑑賞して悦に入ります。
その後、余分な革をカットしてコバを削り整えましたら
ロウを刷り込んで完成となります。
AFTER
ときどき手縫いのほうが、ミシン縫製より優れている
というようなことを見聞き致します。
日々、手縫い製品やミシン製品を修理しておりますと
「まっ、そんな違いはないかな…」とも思います。
細かい事を云えば、縫い穴の中での糸の掛かり具合が違うのですが
実用範囲でいえば、どちらも糸が切れれば同じかなとも思います。
また、中途半端な手縫いですと、かえってまずい製品もあったり致します。
わたしが思うに手縫いですと、その縫い目の雰囲気が、
ミシン縫製より、「趣き」があるかなと思います。
これは私が縫った場合ですので、達人が縫えば、
ミシンでも手縫いでも、見た目の違いはなく、
仕上げられるのかとも思いますが。
これも人それぞれで異なるという、手縫いの良さなのかもしれませんが。
巧い下手と云う事ではなく、その糸の引き具合や、針の通し方、
穴の開け方で、縫い目の雰囲気が変わるという。
私の場合は、きもち、糸を引きめで、縫い目の部分に
微妙に革の「より」がでる感じが好みです。
その起伏に光があたることで、その縫い目に表情ができるので。
この持ち手は、鞄に固定されている金具にネジを通す事で固定されています。
ですので、ネジが回らないと持ち手が外せないのです。
持ち手の革は、すでに劣化し擦り切れております。
使い込まれた年月が偲ばれますね…。
日頃使用している精密ドライバーでは、回せないほど
マイナスネジが固着してしまっております…。
こういう時は、556を塗布しまして再チャレンジ。
しかし回る気配がない…。
そもそも精密ドライバーは、フルパワーで回して
使う道具ではないので、持ち手が細く力が入りづらいのです。
下手に回して螺子山がなめてしまうと一番まずいので
556を再度塗布し、一晩放置しておく事に。
それでも今日の手応えのなさ加減、
力の込め易いグリップが大きな精密ドライバーの購入が
必要な感じなので、仕事帰りにホームセンターへ。
ある事はあったのですが(手前の)、精密ドライバーですので
それでも細めです(通常の精密な使用には全く問題ないのですが)。
本日一回目の挑戦では回らなかったのですが、
再度556を塗布し再々チャレンジにてようやく外れてくれました。
これ、はずれないと修理不可になってしまいますので。
そうしましたら、とりあえず巻いてある革を外してゆきます。
劣化しすぎて芯金に固着してしまっておりなかなか外れません。
熱風機で温め、接着剤を溶かし気味で漸くぺりぺりと。
芯金が錆びているように見えるのは、これは革が固着し
付いているのでそのように見えています。
これも温めて取り除き、表面を溶剤にて清掃します。
昔のものや、伝統的な作り方のこのタイプの持ち手は、
芯材も革で作られております。
革を数枚積層し、この形に削りだす方法です。
しかし、今はこのようにプレスにて綺麗に左右対称に
成形された軽量な芯金があります。
持ち手部分の革は、今回のように長年使用していれば
かならず交換時期がやって参ります。
その際に、革の芯材で製作している場合ですと、巻き付けた革が
綺麗に剥がれない、また恐らく形状も変形してしまっているかと思われます。
ですので、金属の芯金を用いた方が、修繕の観点からは良いのかもしれません。
ただ、金属の芯金に再度巻き付ける場合にも問題があります。
この芯金は革を巻いてから二つ折りにして縫製しているのですが、
再度巻き付ける際には、完全フラットな状態に開いてしまうと
折り曲げている中心部分の金属が、金属疲労で痛んでしまう可能性があります。
また、広げるにしても完全に均等な力で左右を開いていきませんと
ねじれが生じて再び二つ折りにした際にズレてしまいます。
ですので、今回もご覧の通り35度くらいで少しだけ開いて
作業を行っております。
それでは次に巻き付ける革の型紙づくりです。
かかと修理のように、古いのを剥がして新しいのを取付けて
削って仕上げるという訳にはいきません。
かならず型紙が必要になります。
それも、一品毎に形状や使用する革の厚みも異なりますので
毎回ごとに型紙、試作、本番という手順を踏む事になります。
ですので、型紙が必要になるような修繕というのは、
おのずと補修作業に時間が掛かりますので、費用もそれなりに掛かります。
革がきれいに剥がれてくれれば、それを元に型紙が採れるので
一度で型紙が仕上る場合もありますが、今回はすでに擦り切れておりましたし
剥がす際に熱風を当てていますので一部硬化したり、
引き伸びたりしていて宛てになりませんが、とりあえず試作して
被せてみます。
ちなみに、革も試作用の革になります。
この革も悪い革ではないのですが。
やはり誤差が生じております。
なお、オリジナルの仕様では間に挟む芯材にフェルト芯が
使用されておりましたが、あまり効果的でない芯材ですので
硬質の芯材に変更しています。
試作二回目。
これでいい感じの収まりになったかと思います。
鞄本体の金具にも収まるか確認しておきます。
いざセットしてみると嵌らない!なんて事だと最悪ですので。
では本番です。
革はこちらの革を使用します。
鞄本体の革は網目状の型押しレザーでしたが、
型押しの革の場合、通常のシボ革のような型押しあれば
近いものがある場合もありますが、
オリジナルの型押しになりますとご用意ができません。
ただ、鞄の雰囲気的にスムースレザーでも
相性は良さそうでしたので、革の選択はお任せということで
進めさせて頂きました。
ここで失敗…。
なにが失敗かお分かりでしょうか。
そうなのです、二つ分用意していますね。
いつもの癖で両手分です、この持ち手は一つでいいのですー。
すでに二回試作していますので、久しぶりのこのタイプでも
手慣れた模様です。
この形状はミシンでは縫えないので手縫いとなります。
オリジナルはミシンで縫製しています。
家庭用のミシンでも、例えばボタンホール用の抑えだったり、
ファスナー縫い用の抑えだったりと、いくつか標準で
搭載しているかと思います。
工業ミシンの抑えというのは、ものすごい種類があります。
「えーこれもミシンで縫えるんかぃ〜」みたいな抑えや。
また、オーダーで注文もできたりします。
しかし、私が修理で使用する抑えは、ベーシックな一種類のみとなっています。
量産品の場合は、大量に製作するので効率的に仕事を進める為に
抑えをその製品に合わせてその都度用意しています。
修理の場合は、ご依頼一品ごとにそれ用の抑えを用意はできませんので、
特別な抑えがなくても縫製できるように、型紙や手順を工夫して製作しています。
それでも縫製できない場合は、今回のように手縫いで行う事になります。
四本撚りの麻糸に蠟引きを行い必要な長さを用意します。
そして、ひと穴ずつ菱目で穴を貫通させながら、
麻糸を八の字(サドルステッチ)に通し、ひと目、ひと目と
均等な力で糸を引き締めてゆきます。
手縫いというのは時間が掛かりますが、嫌いじゃない作業です。
糸を均等に引き締める事だけ考え、黙々と、ただ黙々と…。
黙々と縫い終わりましたら、しばしの間、縫目を鑑賞して悦に入ります。
その後、余分な革をカットしてコバを削り整えましたら
ロウを刷り込んで完成となります。
AFTER
ときどき手縫いのほうが、ミシン縫製より優れている
というようなことを見聞き致します。
日々、手縫い製品やミシン製品を修理しておりますと
「まっ、そんな違いはないかな…」とも思います。
細かい事を云えば、縫い穴の中での糸の掛かり具合が違うのですが
実用範囲でいえば、どちらも糸が切れれば同じかなとも思います。
また、中途半端な手縫いですと、かえってまずい製品もあったり致します。
わたしが思うに手縫いですと、その縫い目の雰囲気が、
ミシン縫製より、「趣き」があるかなと思います。
これは私が縫った場合ですので、達人が縫えば、
ミシンでも手縫いでも、見た目の違いはなく、
仕上げられるのかとも思いますが。
これも人それぞれで異なるという、手縫いの良さなのかもしれませんが。
巧い下手と云う事ではなく、その糸の引き具合や、針の通し方、
穴の開け方で、縫い目の雰囲気が変わるという。
私の場合は、きもち、糸を引きめで、縫い目の部分に
微妙に革の「より」がでる感じが好みです。
その起伏に光があたることで、その縫い目に表情ができるので。
ampersandand at 21:59|Permalink│