COACH

2020年06月17日

20年後の贈り物。 時計のベルト製作編。

時計のベルトも何年かに一度ご依頼があります。
その都度思うのですが、結構大変だなと。

毎回同じ設定であればそんなことは思わないのですが、ご依頼されるほとんどは
市販のベルトでは間に合わないようなものなのでその都度試作が必須です。
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お問い合わせでは確か黒いベルトの時計は別にあるので、違う趣の色、
例えば赤茶系が候補ということでしたが、ご依頼品を画像で見ると
シルバーカラーのケースにはグレージュが合いそうだなと、ご来店の際に
お見せするサンプルレザーに紛れ込ませてご提案させていただきました。
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で、私のプッシュも影響してか分かりませんが左端のグレージュに決定。
シルバーにグレージュですと秋冬でも春夏でもどちらでも合いそうですし
ケースとベルトの明暗のコントラストが抑えめで上品な感じにまとまるかなと。

まずは分解。
時計のベルトはケースに通っている柱の部分がバネ式になっていて外せるものが
ありますが今回のものはネジ式になっていました。
太さが0.8mmぐらいのマイナスネジでしたので、おそらくオリジナルで製作された
替えがきかないパーツなので無くしたら終わりです。
ちなみに今回の時計はCOACH。
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今回のベルトでは14箇所ほど計測してその通りになるように製作していきます。
ただ革の厚みや硬さが異なるのでそれに合わせて寸法を
調整する必要もありますし、オリジナルは抜き型で裁断しているので細かな部分も
関係ないのですが、こちらは全て手裁断、細かな部分は難しいのです。

オリジナルは金具が固定されてるループ部分などが貧弱でしたので
そこから壊れてしまっています。ですので再製作にあたっては
その部分の強度を高めて製作したいと思います。
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結局6回ぐらい試作してようやく本番です。
幅が狭いので抑えの車輪が落ちないようにカタカタカタ・・・。
完成。
どこにそんなに手こずったかと言うと、本体とベルトの連結部分が
凸状に嵌まり込んでいるのでこの部分がスカスカですとイマイチですし
キツキツですと動きにくいですしでコンマ幾つの調整で試作するのですが
手で裁断しているので細かな部分はどうしてもブレが生じてしまいますので
その鬩ぎ合いで試作の数が増えていく感じです。
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結局は凸部分の動きはやや硬めの設定に。
使っていくうちに革が癖づいて潰れていくでしょうからその時に
ちょうど良くなればいいかなと。

ご返却後にメールにて
時計は20年以上前、結婚前に奥さんにプレザントされた
時計だったということでした。ベルトが新しくなった時計を渡したところ、
「妻は大変喜んでいました」と旦那さん。
20数年前にプレゼントされた、した時のことをお互い思い出されて
いたのでしょうか。

今日は少しいい仕事をしたなと、宵に梅酒をちびちびする今日この頃・・・。

ampersandand at 11:30|Permalink

2017年10月20日

昔のCOACHが好きなんです。 擦り切れと補色篇

先日「コーチ」が、社名を「タペストリー」に変更するというニュースが
ありましたが、ブランドも生存競争が大変なようです。
「COACH」という名前は残りますが。

今回のご依頼品はそんなコーチの鞄になります。
母親の鞄だったものを、娘さんが新たに使い始めるにあたって
綺麗にしたいとのこと。

BEFORE
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ご覧のように、今のコーチとは違いレザーレザーしております。
80年代に製造されていたグローブレザーの鞄になります。
内装の生地もなく、革のみで製作されています。

COACHは、もともとこのような肉厚のグローブレザーを
用いた、革製品の製造から始まったブランドのようです。

創設者のマイルス・カーン、リリアン・カーン夫妻は、
野球のグローブが、使えば使い込むほど味が出て、
かつ丈夫なので、そんなグローブを参考にして
革製品を作り始めたらしいのです。
*ただし、ブランド名のCOACHは、野球などのコーチとは関係が無いとのこと。

いまでは、モノグラム生地を使った鞄などをよく見かけますが
80年代の、このグローブレザーを用いていた頃の
COACHの鞄がお好きな方が、ご依頼にしばしばご来店されます。

そして皆さん口を揃えて
「今のCOACHは、好きではないのです」と。
確かにこの当時と、今のCOACHとではテイストが異なっておりますし。

そんな昔のコーチがお好きな方々の鞄は、
革の乾燥、色褪せやフチの擦り切れ補修が定番となっております。
製造から3、40年近く経過しておりますので、その間
一切お手入れを行っていなければ、しょうがない感は否めませんが。

使用されているグローブレザーは、今時の婦人鞄に使われているような
表面を厚く顔料で塗装されている革と違い、染料で軽く自然な感じで
仕上げられているので、お手入れしないでおりますと、
色褪せ乾燥は生じ易いかと思います。
その分、ナチュラルな「革らしさ」に富んでいる訳ですが。

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「野球のグローブが、使えば使い込むほど味が出て、かつ丈夫なので…」
と、カーン夫妻のブランド創設話がありますが、
これはお手入れしてのことですので、何もお手入れしなければ…。

ご依頼品もご多分に漏れず表面はカサカサで色褪せています。
そして、外縫いの鞄には宿命的な症状になりますが、
フチが擦り切れております。
擦り切れも、結局はお手入れ不足に起因するところも大きいです。

人の皮膚も、冬の乾燥時期にはカサカサと乾燥しますと
粉が吹いてあかぎれしてしまうと思います。
乳液や保湿剤にて皮膚に潤いを与えることで
擦れてもカサカサし難くなります。

革も皮膚と同じく乾燥しますと同様です。
ただ皮膚のように新陳代謝がないので、痛み初めてから
お手入れを行っても完全には元通りになることは難しくなります。
ですので、「痛んでから」というよりは日々のお手入れが重要となります。

ちなみに、レザーの場合は、「皮」ではなく「革」の表記かと思います。
雑誌などでも、レザーに関して書かれている文章で
しばしば、「皮」の文字が何度も使われていたりしますと、
「校閲さ〜ん、どうした〜」と思ってみたりしています。

そんな記事を読んでおりますと、私の頭の中では
皮膚で出来た、鞄や靴が無意識に想像されてしまいますので…。
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内側の革部分は、やや乾燥しておりましたが
昔のままに近い色合いででキープされていました。
染料仕上げの革は、紫外線により色褪せが生じ易いので
内側部分はそれを免れていた感じです。
この部分を参考に補色は行いたいと思います。

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擦り切れているフチ部分は巻き直すしかありません。
今回の場合は、全体的に擦り切れている箇所がいくつか
点在しておりますので、全周交換となります。

巻き直す際には、耐久性を考えてオリジナルより
気持ち厚めの革で巻き直すことにします。
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「赤」といっても、カーディナル、ワインレッド、スカーレット、
マゼンタなどなどと、いろんな赤色がありますので
色合わせが難しい色のひとつです。

今回は、ちょうど同じ色味の赤色の革の在庫がありましたので
そのまま使用できそうです。
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まずはフチ巻きから補修してゆきます。
長年の使用により、鞄のフチはイレギュラーに変形していて、
均等にフチを巻き付けていくのには梃子摺ります。

製品の段階では、このように手作業で巻いているにではなく
ダダダダっと縫製と同時に自動で巻き付けながらできるのですが
補修の場合は、アナログでちまちまとひと辺ずつ巻いてゆきます。

巻き付けながら縫製するアタッチメントを
以前注文しようと思い、治具メーカーに問い合わせたのですが、
巻き付ける素材や厚み、縁取りの幅によって、
ひとつひとつオーダー製作となるとのこと。

修理では依頼品によって、その都度設定が異なりますので、
オーダーなんてしてられないということで
地道に手作業となっています。
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縫製、補色を行い保湿ケアも幾度か繰り返しまして
完成となります。

AFTER
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製造からおよそ30年ぐらい経過しておりますが、
表面の痛みはありましたが、補色と保湿も行い
これからも十分活躍できる状態となりました。

母親が使い、その後、娘に受け継がれてまた数十年…。
30年後に私がまだ生きておりましたら、
ふたたび、フチ巻き交換で孫の方にご依頼を受ける日も
くるのでしょうか…。

その時は、すでに隠居しているかと思いますが、
ご依頼とあらばお受け致します。
ただ、恐らくその頃には手は震えているでしょうし、
目がかすんで、針に糸が通せるかも怪しいかなと思います
今日この頃…。
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ampersandand at 22:12|Permalink