GUCCI

2020年10月29日

ストラップを10cm長くしたい人と、15cm短くしたい人。GUCCI篇

海外製品ですとショルダーストラップの長さが中途半端な長さだったり
(トートバックのハンドルの長さも同様に)異常に長かったりとムラがあります。
設定が外国人の体格で設定されている場合にそんなことがしばしば起こります。

短くするならば案外簡単だったりします。
まずは15cm短くされたい方のGUCCI篇。
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長さが調節できる美錠仕様のストラップの場合は美錠がついている
短いベルト側の調節で見栄えを変えずに調節できます。
こちら側。
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金具に通された折り返し部分の縫製を分解します。
そして折り返す分を加味してカット。
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断面を同じブラウンに染めて同様に縫製すればストラップの長さ詰めは完了です。
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ちなみにですが数万円するブランドものでもストラップは途中で継いで
作られている場合もしばしばあります。
こんな感じ。
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長い方のベルトで100cmはないのですが継いで作っています。
継いでいても継ぐ位置を間違えなければ強度的には問題はありません。

続いて10cm長くしたい方の場合。
この場合は基本的に作り直しになります。
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今回の革の色はココアミルクのような色なので、微妙な色ですが
そんな色でもあったりします。
数年前の一時期にやたらと革を買い漁った時期がありまして、その時に
その色使う?というような色も買っていたのが時を経て活用できています。
今は革棚が一杯なので整理するまで買い控えていますが。
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今回10cm長くし、調節できる範囲が110から120cmで使用できるように
設定するのですが、その際、最短の110cmで使用した時にエンド部分の
余ったベルトがぶらぶらしないようにとのこと。

最短の110cmで使用した時には穴4個分の10cmプラスαの長さは必ず余ります。
ですのでそのままでは現状のように固定するものがない為
ぶらぶらしてしまいますので追い輪っかが必要ですね。
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基本的に当店ではストラップは継いで製作することはありません。
先ほどのGUCCIでは継いでいましたが、継ぐのは継ぐで手間がかかるので
100cmぐらいであれば革が足りれば無駄が出ますがそのまま通しで裁断します。

革は天然なので牛が生きていた頃の小傷や血管の跡、虫食いの跡などや
皮から革への製造工程でできた傷などなど小傷がそれなりにあります。
その傷を避けつつ100cm直線で裁断するとなると・・・。

量産品ですとそんなことをやっていてはコストが掛かり売値が高くなります。
かといってストラップが継いでいないことに気づく人はいないでしょうから
そこにコストをかけるのは無駄なんだと思います。
補修で製作する場合は1本だけ作ればいいのでそんな贅沢もできてしまいます。

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追い輪っかとは美錠部分以外にもう一つ輪っかを追加して二点留めすれば
余ったベルトがぶらぶらせずにすみます。
この輪っかは勝手にずれていかないようにきつめの設定にしてあります。
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ストラップの穴は一般的に25mm間隔で5穴あります。
ですので長さ調節できる範囲は10cmとなります(変更は可能です)
10cm長さが違うと最短最長で鞄の位置はどうなるかですが、
鞄の位置が5.0cm下がります。
腰の位置にあった鞄がお尻の位置にまで下がる感じでしょうか。

短めで90cm、通常で100から110cm、長めで120cmぐらいの感じでしょうか。
といっても鞄の大きさによってポジションは全く違ってくるので
なんともいえませんが、ご依頼の際は他にお持ちのストラップの鞄を
ご参考にご希望の長さをお伝えいただければと思います。

以上、ストラップの長さ調整編でした。

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2020年01月30日

GUCCIの持ち手交換とコバの塗装剥離。

鞄の修理のご相談でしばしばあるのですが、コバ部分の塗装の剥離。
コバというのは断面部分になります。
その部分は革の断面になるので色がついていません。
なので製品ですと通常は塗装がされています。
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革の断面は裁断したり削ったりしているので毛羽立っています。
ですのでそのまま塗料を載せても綺麗なつるっとした塗膜になりません。
ですのでクロム鞣しの革の場合は削った後には毛羽立ちを抑える溶剤を施し、
乾燥させて表面を硬化させ、また削る。

その後、また塗料を塗布し削り、また塗料を塗布し…。
と既製品では量産しなければいけないので、
こんな手間が掛かる事はしていられません。
なので毛羽立ちも貼り合わせた革の段差も何もかも一度で覆ってしまえる様に
分厚い樹脂性の塗料をこんもりとコバに一度塗布させて仕上げています。

で、そのような仕上げの持ち手やストラップを使用していると
どうなるか…
ご想像がつくと思うのですがやはり剥離してきてしまいます。

分かり易く云うとかさぶたのような感じで塗料がコバにくっ付いているので
持ち手のように手で常に触れる部分でぐりぐりされたり、
屈曲している部分というのはより剥離してき易いと云えます。

この塗料が剥離してくると大変見苦しい感じになります。
色が徐々に剥げてくるのではなく、ぼろっとかさぶたが取れる様に
部分的に色のかさぶたがこそげ落ちてしまいます。

かさぶたであればある意味快感かもしれませんが、
こちらはとても不快感でしょう、剥離してきた部分はささくれ立って
見苦しいですし。
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で、今回のご依頼品ですが一見問題がなさそうですが、
コバの塗膜が剥離していたり、その部分をDIYされたようで黒いボンドのような
樹脂がコバにぐにゅぐにゅと塗布されています。
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でよくご相談されるのですが、この塗装を綺麗に治して欲しいと。
残念ながら当店ではそのような補修は行なっておりません。

その理由としては幾つかあるのですが、そもそも同じような
剥離してきてしまう樹脂塗料を使用していないという点でしょうか。

仮に補修するとしても塗装をやり直すには、持ち手を本体から外して
グラインダーでコバの樹脂塗料をすべて削り落とす必要があります。
(部分的に補修を行なったとしても、あちこちいずれ剥離してきてしまうので)
しかし形状によって残らず削り落とせなかったり分解する際に
分厚い塗料が剥がれずに革にダメージが生じる場合もあります。

綺麗に落とせたとして同じ塗料で仕上げてしまうと意味が無いので
地道に下地を仕上げて塗料を載せて仕上げていく方法になりますが、
既製品のように樹脂塗料でコバを仕上げている製品というのは
そもそも芯材などに樹脂塗料で仕上げないとコバが綺麗にまとまらない
生地や不織布などの素材が挟み込まれている場合がありますので
その点でも補修不可となってしまいます。

ですので当店で出来る事といえば持ち手を作り直すという事になります。
で、今回も作り直しです。
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途中経過を撮影するのを忘れてしまって3分クッキング的な流れになりますが
オリジナルは中心にやや硬めのスポンジが配されていましたが、
少し頼りないので硬めのヌメ革を用いて中央を同様にこんもり
するように仕上げています。
この方が使用していても持ち手がへたる事もありません。
柔らかくへなへなとへたってくると、それだけコバ部分も捩れて
痛み易くなりますので。

持ち手がかちっとしてより高級感が出たのではないかと思います。
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コバの仕上げも下地から仕上げまで地味な作業になりますが
塗装しては削りを繰り返して表面は綺麗になるように仕上げました。
この仕上げ方法では使用していても樹脂塗料のようにごそっと
剥離してくることはありません。

ただどうしても革製品ですので経年で擦れたり色褪せてくる事はありますが
その場合は部分的にもコバの再塗装は可能ですのでご安心ください。

その他の持ち手補修事例はこちら
持ち手

ampersandand at 19:30|Permalink

2019年10月26日

ミルフィーユな持ち手。 グッチの持ち手交換篇

貼り合わせのみで作られた持ち手というのはいずれバラバラに
剥離してきてしまうのでご購入の際はお気をつけ下さい。
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持ち手は手に触れて汗ばみますし、手の部分は屈曲します。
その部分が縫い合わされずに貼り合わされているだけであれば
必ず剥離してきてしまいます。

今回の持ち手は厚みが5.0mmぐらいありますが、実際の革の厚みというのは
表と裏に使われている1.0mmずつとなり、間に挟まれている部分は
紙を圧縮したボール紙のような合成素材になります。
GOYARDの持ち手も同じ作りですのがこちらは縫製してありますので
剥離してはきませんが、付根部分が使用により捻られてしまい
芯材のボール紙が割れて付根で千切れがちです。

この圧縮素材はしばしば鞄に使われていますがとても厄介…。
経年劣化してくると、ミルフィーユのように表層が剥離し始めてきます。
ですので剥がれた部分を接着しても、その下層の層が引っ張られて
また剥離してきますので補修が不可となります。

ですのでこのような仕様の持ち手は作り直しになってしまいます。
ちなみに腰に巻くベルトも同様に接着のみで作られている製品がありますが
その場合もやはり同じ症状が起ります。

表と裏で貼り合わせ、それを曲げて使用する製品は構造に無理があるので
そもそも剥がれてしまいます。
貼り合わせたものを曲げると内側に皺が寄りますが
皺がよるという事は裏面のほうが長さが余っている状態です。
使い込んでいくと表側の革は伸ばされ内側の革は弛んでいきますので
最終的に元々は同じ長さであった表と裏の革の長さが異なってしまい
接着では固定できずに剥離してきてしまうという事です。
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新たに作成する場合はもちろん縫製した仕様でお作りします。
そして合成素材は使わずすべて革で構成します。
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1.6mmのオイルヌメ革を両面に使用し、間の芯材には2.5mmのヌメ革の
床革を挟み込みます。
合計6.0mm弱の厚みに重ね合わせてから革包丁で仕上げの幅に裁断します。
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断面はグラインダーで滑らかに削り、角ばったエッジも落とし
手触りを良くしておきます。
断面は毛羽立ちますのでコバ(断面)に目留め液を塗布し落ち着かせます。
最後はコバ用の塗料でブラックにコーティングします。
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ミシンで縫製し本体にセッティングして完成。
セッティングはオリジナルと同じ仕様で手縫いにてステッチを掛けます。
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縫わない持ち手の剥離というのは、そもそもブランドは承知していて
そのような仕様にしているので、たちが悪いのか、長く使うモノではない、
という考えという事なのか…。

なかなか値段と質が合わない世の中だな、と思う今日この頃…。

ampersandand at 19:30|Permalink